第3話 イチゴ練乳ぷりん
『ふーん、そっか。なんか話がごちゃごちゃしすぎてよくわかんねーけど、結局全部守ってみせたって感じか?』
愛羽はあの激闘の夜の約束通り、月下綺夜羅(つきしたきよら)の所にタバコを1カートンと最近自分がハマってる「イチゴ練乳ぷりん」をお礼にと持って訪れていた。
『ごめんね。多分あたしの説明が下手すぎなんだよね』
愛羽は恥ずかしそうに舌を出した。
暁愛羽(あかつきあいは)は神奈川県小田原の暴走族「暴走愛努流」の総長だ。
背は小さく、紫混じりの髪を前髪パッツンのポニーテールにしている童顔ロリ系の少女(15)なのだが、高校に入学すると親友の八洲玲璃(やしまれいり)らとたった6人の暴走族を結成した。
玲璃は愛羽の幼馴染みで金髪ショートカットの日本を代表するヤンキー女だ。短気でケンカっ早く、普段は愛羽よりもリーダー的な自称暴走愛努流の喧嘩代表だ。
杜田蘭菜(もりたらんな)は絵に描いたようなお嬢様で、6人の中では1番しっかりしていて頭も良く蘭菜は副総長を任されている。栗色の髪にメッシュを入れていて優しい顔の美人だ。
次にピンク頭のツーブロック春川麗桜。(はるかわれお)
彼女はロックバンドでギターとボーカルをやっている。その歌声はとてもセクシーで魅力的だが実はボクサーでもある。自分の夢を守ってくれた愛羽の為に戦うことを決めた麗桜は特攻隊長をしている。
そしてイケメン女子の鞘真風雅(さやまふうが)は愛羽のことをすごく可愛いと思っていて、そのイケメンぶりは愛羽が男と間違えて恋に落ちる程だったが、彼女は正真正銘女で愛羽を守る者として親衛隊長という役目を担っている。髪は短髪で緑のアッシュという正直メンズみたいにしているが顔はモデルになれそうな位綺麗だ。
6人目が丙蓮華。(ひのえはすか)
彼女はとても寂しい人生を生きてきたが愛羽たちと出会い今の自分と友達を大切にしたいと思えている。
ざっくりと紹介したが、暴走愛努流は関東最大と言われる暴走族「東京連合」の総會長雪ノ瀬瞬(ゆきのせしゅん)に狩りのターゲットにされてしまう。
東京連合は敵対するチーム狩りをしては吸収することを繰り返し、その人数は1000人になる程のチームだった。
不運にも蘭菜が1人でいる所を襲われてしまい事故らされ、蓮華が蘭菜をエサに呼び出されボコボコにされ、2人共意識が戻らない状態にされてしまう。
勝てるはずのない戦いを迫られる愛羽たちだったが、愛羽たちの先輩で愛羽の兄に思いを寄せる小田原のレディース夜叉猫(やしゃねこ)の如月伴(きさらぎともな)や、その伴とずっと敵同士だった蓮華の生き別れになった義理の姉、湘南悪修羅嬢(あしゅらじょう)の緋薙豹那(ひなぎひょうな)に、「夢」と言われる麗桜のギターと歌に魅せられ心を打たれた哉原樹(かなはらいつき)たち相模原の鬼音姫(おにおとひめ)と、亡き弟を思う風雅に何かを思い、たった6人のチームと同盟を組むことを決めた神奈川最大の暴走族、横浜覇女(はじょ)の神楽絆(かぐらきずな)たち神奈川4大暴走族が共に戦ってくれ、激闘の末なんとか勝つことができた。
しかし雪ノ瀬瞬は最後の1人になっても負けを認めず、その驚異的な強さで立ち向かってきた。
彼女がそこまで勝ちにこだわる理由がなんなのかを愛羽は東京連合の幹部七条琉花(しちじょうるはな)と龍千歌(りゅうせんか)から聞き出すと、かつて雪ノ瀬たちもたった4人の走り屋だったことを知る。
そしてその頃の東京連合に雪ノ瀬たち4人は潰されてしまい雪ノ瀬の親友都河泪(とがわるい)が今も目を覚まさず寝たきりであることを知ると愛羽は雪ノ瀬に向かっていき説教を始めた。
通常のステロイドの20倍の効果があると言われる新型ステロイドと、痛みを麻痺させ感じなくさせる中国製の麻酔を打ち無敵と化した雪ノ瀬に、何度殴り倒されても蹴り飛ばされても向かっていき、ついには決着や仇などお構い無しにその都河泪が眠り続ける病院に雪ノ瀬を問答無用で引っ張っていき訪ねていった。
雪ノ瀬は、都河泪はもう2度と目覚めることはないと思っていたのだが、都河が目を覚まさないまでも体が反応するようになったこと。眠りながらも都河がまだ戦っていることを知り涙するのだった。
仇を取るはずが敵を助けることになってしまったが、そうして激闘の夜は終わったのだ。
そして話はさかのぼり。その日、その直前に愛羽は1人単車で転倒し故障させてしまったのだが、1人でどうすることもできずにいた所をたまたま月下綺夜羅が通りかかった。
2人はその前に綺夜羅の家のバイク屋で蓮華が単車を買った時に顔を合わせて知っていたので、綺夜羅は自分の単車の部品と愛羽の故障した物を交換してすぐに直してやったのだ。
大切な仲間なら守ってみせろ。そして今度話を聞かせることとタバコを買ってくることを工賃として、その時約束をした。
その約束をあれから1ヶ月が過ぎるかという頃、愛羽はタバコにプリンをプラスして守りにきた、という訳である。
綺夜羅は話を聞きながら「イチゴ練乳ぷりん」に手をつけた。
『でもスゲーな~。正直お前が暴走族っていうのも驚きだけどよ、話のスケールがかなりぶっ飛んでるな。ん!これうまい!』
綺夜羅はバクバクと勢いよくプリンを食べている。愛羽も自分の分のプリンに手をつけた。
『でしょ!?おいしいでしょ!?よかった~、分かってもらえて。っていうか、あたしそんなに暴走族っぽくないかな?』
童顔。ロリ。幼児体型の愛羽は非常にそれがコンプレックスらしかった。
『そんでよ、結局誰が1番強いんだ?』
綺夜羅は2個目のプリンに手をつけた。
『え?…ん~…正直雪ノ瀬瞬ちゃんが1番かなぁ?ちょっとありえない位強かったもん』
愛羽は雪ノ瀬瞬の「暴走」を思い出した。彼女も見た目はそれこそ美少女なのだ。だがその体からは信じられないような重い攻撃が繰り出され、腕力にせよ身体能力にせよ常識を超えすぎていて、今思い出してもできればもう2度と雪ノ瀬とはケンカなんて想像したくもない。
『でもそいつはドーピングだったんだろ?』
『まぁ、そうなんだけど』
『じゃあ神奈川一は誰なんだ?』
『へ?あー、あたし全員のケンカ見てた訳じゃないけど、やっぱり豹那さんが強かったかな。元々敵だったのにベイブリッジに来てくれて、ずっと瞬ちゃんとやり合ってたのも豹那さんだし、やっぱカッコよかったもん』
『嬢王豹那か』
『あれ?知ってるの?』
綺夜羅はすでに3個目のプリンを食している。愛羽は自分と彼女に2個ずつ買ってきたつもりだったが、綺夜羅はそんなの知らず愛羽の分まで手を出していた。相当気に入ったらしい。
『知ってるも何も、あたしらの地元じゃスターだよ。嬢王豹那なんて』
『へぇ~、そうなんだ。綺麗だもんね、あの人』
『じゃあよ、1番速いのは誰なんだ?』
そう聞かれて愛羽は首を傾げた。
『え?そういえば速さで勝負したことなかったなぁ~。誰だろ…伴さんのCBX550Fとか豹那さんのSS500かなぁ?あ、樹さんのRZ350が速かったような…あれ?でも神楽さんのKZ550も速かったって聞いたような…』
『分かんねーってことな』
『あはっ。ごめん』
愛羽は笑ってごまかした。
『いいなぁ~。そんなスゲーもん見れるんだったらあたしも一緒に行きゃーよかった。そうと知ってりゃプラグなんて交換してねーであたしのケツに乗せてったのになぁ~』
綺夜羅はあの時まさかそんな大地を揺るがす戦争が起きているとは夢にも思わなかった。
それがしかもこの前髪パッツンのポニーテールのお嬢ちゃんを中心に巻き起こっているなどと知るよしもなかったはずだ。
『…綺夜羅ちゃんってさ、暴走族とか好きなの?』
『ん?まぁな。やっぱ特攻服は憧れるなぁ~。青い特攻服着て走るのが夢でさぁ』
『じゃ、暴走愛努流入る!?今ちょーど新メンバー募集してるんだよね!』
『あたしがお前のチームに?いや、やめとくよ。お前の面倒見なきゃいけないハメになるの今から見えてるよ』
ガーン!愛羽はそういう顔をした。
『おいおい、怒るなよ。今でさえ面倒見なきゃいけない連中とそいつらの単車がいるんだよ。気持ちは嬉しいけどさ、あいつらそういう社交性的なもんがないんだよ。あたしがいいって言ってもあいつらがダメって言うよ』
『綺夜羅ちゃんもいっぱい友達いるの?』
『お前んとこと一緒だよ。あたしの他に5人いて、自分たちのチームを作る予定なんだ。』
『へぇ~、全くあたしたちと一緒だね。会ってみたいな~』
『やめとけ。本当に何しでかすか分からない奴ばっかなんだ。あたしが疲れちめーよ』
『綺夜羅ちゃんって大変なんだね。しっかりしててみんなの面倒見てあげて単車も直せてカッコいい!』
『へっ、バカ、照れるじゃねーか。ったく、しょうがねーなぁ。あたしの番号教えといてやるから、なんかあったら連絡してこいよ』
綺夜羅はおだてられるとすぐこうだ。彼女はなんだかんだ面倒見がいいのである。愛羽はニコニコしながらそんな綺夜羅を見ていた。
『あっ!そういえば瞬ちゃんは走り屋さんだから速いんじゃないかな?』
いきなりそのことを思い出した。
『へぇー。何乗ってんだ?』
『え?えっとね、750のGPZだっけ?ZGPだっけ?多分そのどっちかだよ』
綺夜羅はそれを聞くと少し考えた。
『そいつ今も走ってるっつったよな?そいつの走ってるとこ教えてくれ!』
『え?じゃあ分かったら連絡するね!』
『おう。頼むぜ』
愛羽は特に理由も聞かずそれを約束すると帰っていった。
その1時間後…電話はかかってきた。
『あっ!綺夜羅ちゃん!?瞬ちゃんがね、明日どうかって!』
『は?どうかって、なんだよ』
『だからね、瞬ちゃんとあれから電話して綺夜羅ちゃんのこと話したらね、早速明日一緒に走らないかって!』
『おいー!あたしはさりげなく一目見たかったから場所だけ教えてほしかったんだけどなぁ!』
『え、でも嬉しそうにしてたよ?行こうよ、あたしも行くから』
『はぁ!?お前も行くの!?なんだよ参ったなー。調子狂うぜ、ったく』
『じゃ、明日朝迎えに行くね!』
『え!?朝って、お前ちょっと決めるの早すぎだろ』
綺夜羅がそう言った時にはもう電話は切れていた。
『ホントしょうがねぇ奴だなー、あんにゃろー』
文句を言いながら頭をかきむしると溜め息をついてしまった。
『…ま、面倒見てやるか…』
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