最終話

 分からない。それが正直な答えだ。


 俺は間違いなく京を大切にするし、出来る範囲で幸せにしようとするだろう。


 しかし、それが目の前にある婚姻を破棄する価値があるかといえば分からない。


「出来るよ。私が好きな夏樹だから」


「どうやって?」


「どうやって、では無いよお母さん。今私は何よりも幸せだから。もう出来ているんだよ」


「当の本人には自信が無いようだけど」


 そんな言葉を聞いた京は俺の方を向いた。


「ねえ夏樹、もう一回やろうよ」


「ボクシングをか?」


 俺には才能は無かった。続けた所で何も達成できない。


「いや、ボクシングじゃない。総合格闘技って言うんだけど」


「俺はやったことないけど」


「知ってる。でも、この間の戦いを見て思ったんだ。夏樹ならボクシング以外の格闘技を混ぜた方が良いんじゃないかな」


 確かに、俺はボクシングに対する意欲は既に残っていない。けれどシステマに手を出していたように他の戦闘技術自体に興味が無いわけでは無かった。


「けれどプロに勝つのは流石に難しいよ」


 様々な格闘技の利点を混ぜて戦えば強いと考えているみたいだけど、どれも中途半端になってしまう恐れがある。


「大丈夫、夏樹だから」


「まあ、やってみるだけはやってみようか」


 別に本気でやるかは置いておいて、他の格闘技も学んでみたかったからそう言った。



 その後は、放課後はトレーニング漬けの日々になった。


 総合格闘技専門のジムに通いつつ、専門の技術を確実に習得するために様々な道場を巡った。


 そのせいで忙しくなってしまったが、それを言い訳にしたくなかったので京たちと遊ぶ時間も精一杯取った。


 そんな日々が続いてから1年後、俺は晴れて総合格闘技の選手として大会に出場するようになった。


 元々ボクシングをやっていて素養があったこともあり、順調にプロへの道を歩んだ。


 そしてプロの中でもそこそこ知名度のある立場まで来ることが出来たが、そこそこ止まりだった。


 俺は22歳と格闘家の中でも相当に早い段階で引退を決意し、総合格闘技のジムを開いた。


 選手としては大成しなかったが、こちらの方面では大成功を収めた。


 ありとあらゆる格闘技に精通しているという強みが総合格闘技の指導という面に強くマッチしていたのだ。


 ジムを開いてから2年も経たずに世界一を続々と排出するようになり、入門者が300人を超える超巨大なジムへと成長を果たした。


 そして俺は25歳の春、京に結婚指輪を渡した。


 結果は勿論OKだった。


 俺たちは直ぐに結婚式を挙げ、新婚旅行でハワイに行った。


 そんなハワイのホテルで、


「もしかして京は俺がこうなるって見越してあの時に総合格闘技を勧めたの?」


「いやそんなことはないよ。単に夏樹が色んな格闘技をやっている姿を見てみたかったんだ」


「そうなんだ。プロの時の俺は見てて楽しかった?」


「勿論!毎試合毎試合次はどんなことをするんだろうってワクワクが止まらなかった」


「なら今は?」


「試合を見ることは出来なくなったけど、とっても幸せだよ!」


「ならよかった」

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俺の彼女はいつも可愛い 僧侶A @souryoA

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