第13話
「文化祭の出し物を決めましょう!」
張り切って俺たちの前で仕切っているのは委員長こと荻原泉。ツインテールが特徴の元気な人だ。
「劇とかどうかな」
「お化け屋敷が良いんじゃない」
「やっぱりメイド喫茶だよ」
それに呼応するが如く皆活発に意見を出す。
何故こんなにも意欲的な人が多いのかと言うと、優勝特典として打ち上げの代金が全額無料になるというものがある。
去年の優勝クラスは某高級焼き肉屋に行ったらしい。
外部の人が聞くと金の無駄遣いだろって言われるような特典だが、この資金源がそもそも文化祭で生まれた利益が元になっているのだ。
優勝するために全クラスが全力で取りくむため、他校の文化祭よりも完成度が非常に高く客が来る。それにより利益が非常に高まり学校側の提供する報酬も年々大きくなるという好循環になっているから出来ていることのようだ。
実際にうちの高校の文化祭は学校の関係者よりも圧倒的に外部の人が多い。
優勝するのは2クラスで、利益部門と評価部門に分かれている。
現在はどちらにするかも加味しつつ話し合いが進んでいる。
「お化け屋敷は確実にウケるのは間違いないけど、被った場合分散するからリスクが高いんだよな」
「劇は上手くいったら勝ちだけど台本書ける奴ってクラスに居たっけ?」
「台本書ける奴は居ないけど文学部に依頼すればワンチャン」
「メイドカフェは多少雑でもこのクラスなら上手くいくんじゃないかな。京さんいるし」
突然クラス視線が京一点に集まる。
「本当に?接客上手くやれるか自信ないよ?お茶とかこぼしそう」
京は照れながら否定する。
「それでも大丈夫だよ!」
「寧ろそれはそれで人気出ると思う。あの佐倉京の意外な一面って感じで」
しかし予想通り賛同の流れになるクラスの面々。
「皆の意見が一致したから決定!って言いたいところだけど佐倉さんにフルで働かせるわけにはいかないんだからね。誰か頼りにならないように考えないと。他の案ある?」
ぽつぽつと意見は出るが、お好み焼きやタピオカといったありきたりなものばかり。納得する意見はあまり出てこなかった。
そんな中、一人の女子生徒が、
「椿がいるじゃん!」
と言った。
「どういうこと?」
委員長が聞くと、
「これって知ってる?」
委員長にスマホの画面を見せていた。
「これ本当に椿さんなんですか?」
「どう見てもそうじゃん!」
「何の話?」
「見せて見せて」
とクラス一同が何があるのかを見るために委員長の周りに押し寄せていた。
「涼野さんがグローバルランのモデルをやっているらしいわ」
そう委員長が言うと、クラスの面々に驚きの声が上がる。涼野の性格からして意外だったのだろう。
「でも私は京と一緒に文化祭は回りたいわ。だから希望には添えない」
これから予測される言葉に先んじて涼野が釘を刺した。
別にメイド服で接客をすること自体は嫌では無いのだろうが、この決まり方だと確実にシフトを分けられてしまうものな。
「でもこの二人がやってくれるのなら」
「真面目に徐々苑あるぞ」
否定されると思われていた為全く提案もされていなかった涼野が否定をしなかったため、クラスはメイド喫茶のムードになっていた。
そこで矛先が向いたのが委員長。
「何ですか?皆怖い顔をして」
クラスの全員が獲物を見る目で委員長を見ていた。
「少しだけだから」
「ちょっと変わった服を着るだけでファミレスみたいな仕事をするだけだから」
「大丈夫、安全だから」
「私がやるんですか?」
「委員長!委員長!」
唐突に委員長コールが始まった。最初は戸惑い気味だった委員長も、クラスの雰囲気に押されて、
「それなら……」
結果的に委員長は受け入れてしまった。これで十分なシフトが確保できた。
「ただし条件があります。それは、男子もメイド服になることです!」
申し出された交換条件に苦悶の表情を浮かべる男子生徒。一方的に要求する立場からメイド服を諦めるか、尊厳を諦めるかという2択を迫られる状況に陥っていた。
「良いじゃんやろうぜ!」
そんな中、楽しそうな表情で発言したのは楠洋平。
「何でお前が……」
クラスの男子は驚きの声を上げる。
というのも、この男は二人のメイド服を着ること自体に興味を示しておらず、ただ眺めているだけだったのだ。
「じゃあ決まりで良い?」
「まあクラス全員がやるならめちゃくちゃ恥ってわけじゃないし……」
「とりあえず家族には来るなって言っておけばいいか……」
メイド服を着るのをあれだけ渋っていた男子の方々も仕方ないとメイド服になる事を覚悟していた。
「じゃあ次は役割分担についてね。現状必要な仕事を纏めるわね」
その後も話し合いは進み、役割分担までしっかり終えて終了となった。
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