第14話
「どうする、夏樹」
「どうしようも無いよな、大」
今回の役割分担は設備の制作や料理の検証、値段設定といった前日までの準備までで良かったはずなのだが、メイド服の仕立て担当である楠の提案でもうメイドを決めようということになった。
男子がやりたがらなかったことにより、最終的に抽選になった。その結果、見事俺たちが当たってしまった。
裏で料理作っていたかった人生だったよ。
「にしても楠がああいう奴だったとはな」
「本当だ」
男子のメイド担当という名の犠牲者は俺たち含めて5名居るわけだが、その内の1人が楠である。
アイツだけは自分からやりたいと言い出したのだ。
「いやあこの2人が当たって本当に良かった」
俺たちが意気消沈している中、楽しそうに話しかけてきたのが楠。
「どういうことだよ楠」
「青野は絶対に女装が似合うから見てみたかったし、平野は一番似合わなさそうだったから見たかったんだ」
「いや本当に、楠の活躍のお陰だよ」
そしてもう一人やってきたのは、委員長だった。
「荻原が上手くやってくれたおかげだよ」
上手くやった……?
「なあ二人とも、何か変なことをしていない?」
「ふっふっふ。今気づいたか青野夏樹!そうさ、俺たちは共謀してお前らを罠に嵌めたのさ!」
「どういうことだ?別に普通の流れじゃなかったか?」
大げさに悪役っぽく言う楠に対し、何も気付いていないご様子の大。
「いやー皆騙されてくれて本当に助かったよ。お陰で自然な流れで男子にメイド服を着せられるように出来た」
「まさか……」
「私たちはする方であれ、見る方であれ女装とコスプレが大好きなんだよ」
「というわけで俺たちは策を練った。どうにか出し物をメイドカフェにしてお前らにメイドを着させられないかと。そこで用いられたのがこの箱。イカサマ当たりシステム」
それは抽選の時に用いられた箱だった。
「パッと見普通の箱なんだけどね、ここにひもがあってね」
パッと見じゃ気付きにくいほどの薄い線があった。
「これを引くとアタリしかないくじに出来ます」
「こいつら……嵌めやがったな……」
「でも、一度決まったことは覆りません。男子を見てみなよ」
委員長の言われた通りに周囲を見てみると、絶対聞こえていたはずなのに聞こえていないフリをしていた。
「というわけ。不正があっても自分がなりたくないだろうからね。仕方ないよ」
バレた所で問題ないからこそ言ってきたのだろう。これは諦める以外無さそうだ。
後で何か仕返しして鬱憤を晴らそう。
「それでは俺たちはメイド服を考えるのだ!さらば!」
それだけ言い残してアホ二人はどっかに行った。
「俺たち当日サボっても良いかな」
大は言う。
「多分誰も文句は言わないよ。証人はここにたくさん居るわけだし」
「決めたからには絶対やってくれると思っているのかもしれないけれど、馬鹿だな」
「だってあの二人だし」
とは言いつつも良心があるから参加はしてやるけれど。
「あ、青野に平野君だ」
一旦気分転換にと外に出ると、杉野が居た。
「そっちはこの間の……?」
「はい、宮野です」
「いつの間に仲良くなった?」
この二人の接点と言えば同じ日に涼野を尾行していたということのみだが。
「涼野さんについての話で盛り上がっちゃって」
「私がテニスの方の話をする代わりに、杉野君が涼野さんの私服とかモデル事情とかを教えてもらっています」
二人とも結局涼野の事が好きらしい。
「テニスの話は非常に参考になってね。一緒に涼野さんの試合とかを見たりしたんだけど、テニス部なだけあって詳しいから楽しいよ」
共通の趣味とか嗜好って人をこうも簡単に結びつけるものなんだな。
「そう言えば君たちのクラスメイドカフェやるんだって?」
「何で知っているんだ?さっき決まったばっかりなんだが」
大の言う通りである。そんなにすぐに情報が回るわけがない。
「普通に教室の外まで聞こえてましたよ。特に男子のメイド決めとか」
宮野さん曰く、単に筒抜けだったらしい。
「結局二人がメイドやるんだって?」
ということはそれもバレているよなあ……
俺は天を仰いだ。
「だからどうした」
大が開き直った。やっちまえ大!
「たくさん写真を撮ろうかなって」
「カメラぶっ壊すぞ」
「それは冗談として、衣装係のリーダーって誰?」
「楠と荻原だけど、それがどうかしたのか?」
「涼野さんがメイド服を着るんです。ちゃんと監修しないと!」
宮野さんは妙に張り切っていた。
「前回は涼野さんの為だったけど、今回は僕たちの為だ。全力でやらせてもらうよ」
たかが文化祭の一クラスの出し物の為に大企業が介入するってどういうことだよ。
「というわけだから、よろしくね」
更に面倒が上乗せされた気がする……
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