第12話

 その言葉と共に、涼野に掛けられていた服が取り払われた。


「どうかな?」


 涼野が少し恥ずかしそうに聞いてくる。いつもの格好と大きく違うため恥ずかしいらしい。


「とても似合っているよ!」


「モデルって言われても違和感ねえな」


 京と大が褒めた通り、涼野の格好は会心の出来だった。


 ピンクと黄色というあまり用いられない色ではあるが、共に薄い色を使用することで調和が取れていた。


 そして、スカートのような女性的な恰好で来るのかと思いきや、動きやすそうなズボンを選択しており、非常にスポーティな印象を受ける格好だった。


 ガチガチのモデルみたいなものではなく、より庶民的でありつつ、街で見たら振り返ってしまいそうな美人のような、そんな印象。


 前に一度涼野に対して私服をコーディネートする回があり、その時も涼野のポテンシャルを発揮することは出来ていたと思う。


 しかしあの時は涼野に気に入って貰えず、あまり着てくれることはなかった。


 一方で今回は非常に気に入っているご様子。かかった時間を鑑みるに涼野は何種類か組み合わせを用意していたのだろうが、それでも気に入る服を用意できたというのは非常に大きい。


 これまで俺との会話の中で聞き出した涼野の情報から好みの服の系統を把握し、適切なファッションを用意する。流石グローバルランの御曹司と言える。


 その後俺たちは各々が気に入った服を杉野から貰い、丁度いい時間だったので近くのファストフード店で食事をして解散となった。


「これで随分とマシなファッションになったな」


 大がからかうように言う。


「うるさいわね。別に前の格好もおかしくないわよ」


「でもこっちの方が気に入っているんじゃねえの?」


「それはそうだけど」


 どうやら杉野の目論見は上手くいったようだ。今後は涼野が独特なファッションをして街を出歩くようなことも無いだろうし、一緒に遊ぶ友人として安心だな。


「そういえば写真ってもう撮ったの?」


 確かに京の言う通りだ。これまでの時間で写真撮影をした形跡はないな。


「着替えの時に取ったわ。ほら」


 涼野が俺たちにスマホの画面を見せてきた。


 そこには先程の服を含む杉野がコーディネートしたであろう服を着る涼野の姿があった。


「2階ってスタジオにもなっていたんだね」


 あの家を外から見た感じだと1階が広くて2階がかなり狭い作りだった。


 杉野が一度も降りてこない所を見ると更衣室くらいしかスペースが無いと思っていたのだけど、明らかに写真の出来が違った。どう見てもスマホ一個とか普通のカメラ1台でささっとできるものではない。


「最近は使うことは無いって言ってたけどね。だから今回私たち用に事前に更衣室を含めて準備していたらしいよ」


「そこまで椿ちゃんを買ってくれる杉野君は流石だね!見る目があるよ!」


 涼野が褒められたことで非常にご満悦の京。


「その写真見て思ったんだが、顔出しでモデルをするのか?」


「勿論。別に将来はテニスで顔を知られることになるだろうし別に関係ないから」


 何の躊躇いも無く言ったあたり意外と顔を出すことに抵抗は無いらしい。


「まさか友達がモデルになるとはなあ」


 プロ級の腕前を持つ人は目の前に居るから慣れているが、芸能界に進出となると話が変わってくる。


 目の前にいる人がSNSで有名人として活動するかもしれないのだ。そう考えると何か新鮮な気分だ。


「別にちゃんとしたモデルじゃないから。グローバルラン限定よ」


「とか言いつつ金にくらんで他の仕事も引き受けるんじゃないか?」


「誰が金の亡者よ。テニスの為に金が必要なだけだから別にそこまで困っていないわ」


 大がからかって言ったが、涼野は本人の言う通りテニスを最優先にするだろうな。



 若い時期に引退したらモデルやってそうだけど。


 そうはならないことを切に願いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る