第18話18

白浜を何とか目視できる距離を保ちながら、舗装された道路を遠慮気味に歩く。最初は物陰などに隠れて進んでいたけど、白浜たちは後ろを振り向く気配がないし、周りの視線が体に突き刺さるからやめた。


住宅街に差し掛かり、10分くらい経っただろうか。2人は仲良さそうに同じ家に入っていった。落ち着いてきた心臓が再び大きな音を出す。慌てて近くの角を曲がり、見知らぬ人の家の塀にもたれ掛かる。


無視していた考えが止まらなく、脳内に溢れ出す。同じ家に入ったってことは家族なのだろうか。それとも、家族ではないパパというものだろうか。俺だって世間を知らない訳じゃない。同年代の一部の女子達がそういうことをしているのを知っている。


スマホの時計で3分をきっちり測ってから、白浜達が入っていった家を目指す。一般的な家にしては少し大きいが、凄いお金持ちと決めつけることが出来るようなインパクトはない。ただ、紛れもなく裕福と言えるような資産は持っているのだろう。車は2台あり、1台は有名外車。植木などにもお金がかけられていることからよく分かる。


表札が目に入る距離になると、さっきまで激しい動きをしていた心臓はかえって静かになる。少し目を閉じ、深呼吸をする。大丈夫、ただ名前を確認するだけだ。


ゆっくりと目を開き、名前を確認する。


「白浜」


その文字を何度も読み返す。何度も、何度も読み返す。ようやく脳が理解できたのだろう。安堵の気持ちが体に流れ込む。さっきから張りつめていた何かが解けた気がした。


さて、帰ろうか。来た道を辿るように、歩みを進める。ゆっくりと過ごすハズの休日はスリリングな1日となってしまった。ホント、何考えていたんだろうね、俺。白浜だよ?学校の中でも一目置かれていて、一年生なのに生徒会に入っていて、頭も良い白浜だよ?なーにがパパ活だよ。する訳ないじゃん。


自動販売機でコーラを買う。いやぁ~、良かった良かった。自販機から落ちる時に衝撃があったのだろう。炭酸が少し溢れ出してくる。でも、これってあれだよね。彼女を信用出来なかった彼氏ってことだよね。我ながらちょっと嫌気が差すな。これからはちゃんと信用してあげないとね。


帰り道は行く道に比べて数倍早く思えた。気持ちは軽いし、夕方に近づいたこともあって、歩きやすい気温にもなっている。


ただ、意外だったのは白浜の家と俺の家との距離だったよね。ここら辺に住んでいるとは知らなかった。あの場所なら学区が同じだから一緒の中学だったはずなんだけどな。まぁ、いろいろあるのでしょう。


しばらく歩いて、家に着く。ドアを開けると綺麗に掃除された玄関が出迎える。流石、千始。あの時間で全ての部屋の掃除を終わらすとは。


リビングに行くと、麦茶が入ったコップが俺の椅子の前にも置いてあり、千始はテレビを眺めて麦茶を飲んでいた。


「ただいま」


「・・・」


手を洗いに洗面所に行き、しっかりとうがいも済ませて再びリビングに向かう。


「・・・お兄ちゃん?」


「ん?どうした?」


凄い不審そうな目で俺を見てくる妹が居た。あれ?俺、何かしたっけ。


「何しに行ったの?」


「・・・」


全てを察した。買いもの、完全に忘れていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

求めているのは君じゃないし、君が求めているのも俺じゃない。と思う。 冬峰裕喜 @toumine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ