第17話17
お日様の光をやや過剰に浴びながら歩き、目的のスーパーへと到着する。メモを改めて読み返すと小さい字でびっしりと商品名が書かれていた。普通なら「ボトルコーヒー」とか書くところを、商品の正式名称+値段まで書いてあるところが几帳面な千始らしい。
スーパーの中に入ると、冷気が出迎えてくれた。あれ?家よりもスーパーの方が快適なのでは?また炎天下をくぐり抜けて家へと帰ることを想像すると嫌気がさしてきた。少しだけゆっくり買い物をしよう。どうせ夕飯前に食材を持って帰ればいいし、家に早く帰らないといけない理由もない。
そんなことを考えながら入口を通り過ぎた時。ふと横目で見た反対方向をゆく女性に時間を奪われた。世界が突如スローモーションのように変化する。喉元までは声が出てくるのに。それを発することができない。
見慣れている姿なのに、どこか違う雰囲気を纏っている彼女に俺は話し掛けることすら出来なかった。
彼女、白浜柚茶は何事もなかったようにスーパーから出る。明らかに親ではない親のような年齢の男性を隣にして。過呼吸になりそうな体を必死になだめる。誰が決めた?あれが親ではないと何で分かった?落ち着き、もう一度。今度はドアの外の2人を見つめる。白浜はその男性に恋人のように寄り添い、男性はまんざらでもなさそうな表情で歩いている。
どういうことだ?得体の知れない、吐き気に近い何かがこみ上げてくる。
親だとしたら。少しくらい似ている顔はどこにいった?その距離感は本当に親子で出来るものなのか?そして、何よりも白浜が振りまいていた笑顔は死んでいた。
足が無意識に動いていた。買い物をしに来たことなんか忘れて、ただ目にしてしまったカノジョの後を歩いていた。自分が何をしているのか分かっている。立派なストーカー行為になっているなんて言われなくても理解している。それでも、ついて行かなくちゃいけないという心の叫びは無視出来なかった。
ひっそりと、通行人からは不自然に見られながらも白浜達の後をつける。後をつけたところで得るものはないと知っている。もし、親子だっら。親子じゃなかったら。俺がどうすれば良いのかすら分からない。2人の関係の答えを知ったところで俺は何もすることが出来ないことを知っている。
アスファルトの熱が靴から伝わってくる。コソコソと何を俺はしているんだろうか。堂々話し掛けてこの気持ちをさっぱりと解消できればいいのに。
もう一度前を向く。白浜を見る。
相変わらず、遠くて。周りを拒絶していて。
とても話し掛けることが出来ない雰囲気だった。
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