第14話14
窓の外からは微かに波の音がする。人気がなく、立地的にも海により近い旧校舎ならではなのだろう。そして、その波の音が鮮明に聞こえるほどに2人の間は静かだった。
「永峯くん自身でも何が欲しいのか分かっていないの?」
最初に口を開いたのは白浜だった。
「うん。分からない」
「その何かが満たされたことはあった?」
「・・・多分、ないと思う。気づいていないだけかもしれないけど」
「そうなんだ」
そう言うと一つ頷き、こう言った。
「意味が分からないね!」
「白浜も同じだからな!」
そう言って2人見つめると自然と笑顔が漏れる。さっきまでは2人の間を微妙な空気感が支配していたけれど、今は暖かい空気が占めている。こんな風に2人で笑えたのは始めてかもしれない、と考えると案外変な事を言っても良かったのかな。
ふと、時計の針を見る。見間違いでなければ、12:48分。
「ところで白浜さん」
見間違いであることを神に祈り、隣の彼女に問いかける。
「なんですか?永峯さん」
「時計読める?」
そう言われて反射的に白浜が教壇の上にある時計を確認する。
「・・・読めなかったら良かったのに、と思ったよ」
こちらを向くとその顔は真っ青に変化していた。
この学校は昼休憩自体は13:00までなのだが、昼休憩前の5分前には着席しなければならないというなんとも奇妙なルールが存在する。特に破っても罰はないのだが、もし破ったら先生と生徒が静かに着席している中、ガラガラと大きな音で扉を開ける否が応でも目立つ教室の入り方をしなければならない。
劣等生と言ってもいいほどの俺は目立つということさえ我慢すれば何ともないのだが、優等生である白浜は先生への体面上そうもいかないのだろう。
目線を再び交わす。
「「・・・」」
どうやら考えは同じらしい。
大きく背伸びをし、呟く。
「やっちゃおっか」
白浜も体を捻り、それに呼応する。
「やっちゃお」
それがスタートの合図となり、俺たちは同時に箸を高速で、無我夢中で動かし始めた。
昼下がりの潮風が頭を打つ。黒板をカツカツとチョークで鳴らす音が鼓動とリンクする。ヤバい、キツイ。一気に書き込んだからいつもと同じ量なのに満腹感ならぬ圧迫感がいつもの10倍くらいある。
こっそりと隣人を見ると澄ました顔でノートに板書していた。これは凄い。完璧優等生ともなると胃袋も鍛えているらしい。・・・あれ、よく見てみると苦悶の表情を浮かべているし、お腹をこっそりとさすっている。
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