第13話13

現在進行形で永峯寛樹は困惑しております。これはどっちなのだろうか。俺の理解力が乏しすぎるのか、それとも白浜の言っていることが人の理解できる範疇を超えているのか。


まず、俺のことを何で好きになったのか?という問いに対して、白浜は「明確な答えはないヨ。だけど永峯くんになら愛されてもいいヨ」と言った。


次に何で俺になら愛されても良いの?と永峯寛樹は湧き上がる羞恥心を殺しながら白浜に尋ねた。そして帰ってきた答えは「永峯くんと私が似ているから」。


なるほど、なるほど。冷静に考えても良く分からない。好きになった理由はないのに、愛されても良い理由はある。要は、好きの前に愛がある。恋愛の前提条件が音を立てて崩れていく。えーっとぉ・・・と何の意味もない会話の前菜を口に出すが、続きのスープすら思いつかない。どんなに想像力を膨らましても好きの前に愛が登場する感情が見つからない。


「・・・変な女の子でごめんね」


困っている俺を見かねたのか、苦笑しながら白浜が窓の外に目を向ける。イケてる男子はここで否定できるのだろう。さっき言われたことなんて深く考えずに、目の前の女の子を気遣えるのだろう。


俺はそんなことが出来なかった。でもその代わりに、同調は出来た。


「いや、俺も変だからさ。もう2人とも変ってことにしとこうぜ」


そう言うと、白浜が不思議な表情をする。


「どういうこと?」


「言葉通りだよ。白浜って愛とかが大切なんでしょ?」


「・・・うん、そう」


「なんで好きという感情の前に愛がくるのかとか、色々理解出来なかった。そんなの変だと思うし、普通の人じゃないと思う」


言葉を切り、お茶を飲む。


「だけどさ。俺も変なんだよね」


「例えば白浜はさ。将来、どうなるつもりなの?」


「え?あんまり考えたことないなぁ」


考える素振りを見せた後、曖昧な顔で答える。


「普通に大学行って、普通に会社で働くと思うな」


「だよね。普通はそう考えると思う」


「永峯くんはどう考えているの?」


「・・・考えられないんだ。変なんだよ。電車に乗っているサラリーマンは灰色に見える。だから憧れなんて全くないし、なりたくもない。でも、だからといって普通ではない人。社長とか有名人にとかに凄くなりたいって訳でもない。でも、一般的な憧れは持ってるよ?なれたらいいな、程度のやつ」


「それでも全く考えられないって訳じゃない。何かを求めている?気はするんだ。それが何なのかは俺でも分からないし、本当に将来に関連することなのかも分からない。ただ、今はそのにならなくても良いって思っているから、多分将来のことだとは思っているんだけどね」


自分で何を言っているのか分からない。このことを考え始めると自分の頭の整理すら出来なくなってしまう。


笑われるかな。何言ってるの?って困惑されるかな。馬鹿にされているかもしれない。そう思い、そっと白浜の方を見ると彼女は真面目に俺の意味が分からない話を聞いていた。


ほんのちょっとだけ胸に心地よい痛みが刺す。

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