第10話10

旧校舎の三階に移動するまでに五分ほどかかったが、貴重な昼休みの時間を消費した価値はあった。流石にここまで来るものは誰も居ないのだろう。とても昼間の学校とは思えないような静かな廊下を歩く。


「もうここら辺にする?」


丁度いいだろうと思ったところで白浜に声を掛ける。これ以上歩いたら帰るのにも時間が掛かってしまい、出来立てほやほや彼女との幸せ昼ご飯タイムがなくなってしまう。


「うん、そうだね。ここの教室にしよっか」


使われていない教室に入る。チラッと教室の名前を見てみるとと302と書いてある。昔の高3生の教室なのだろう。黒板には「卒業おめでとう!」と書かれており、この教室が新校舎設立以来、使われていないことが分かる。


「へぇ~。なんだか時代を感じるね」


教室歩きながら、白浜がポツりとつぶやく。


「ほら、この雑誌なんて2001年だよ!?こんなファッション、今したら浮いちゃうよ!!」


驚きながら持ってきたのは埃をコートのように纏ったファッション雑誌。


「ギャルに麦わら帽子でアロハ短パン?現代で見かけたら珍し過ぎて写真を撮るレベルだね」


「ほう、彼女持ちにも関わらず他の女の子の写真を撮るんですか?」


「彼女さんのファッションに活かせればと思い、撮る次第であります」


「へぇ~、私にそんな恰好して欲しいんだ」


イヤラシッというようなジト目を向けられる。そんな表情も絵になるのか。俺も生まれ変わったら美少女になりたい。


「ゴホンゴホン、そろそろご飯にしましょう」


わざとらしく咳をこむと陽気な笑い声が聞こえる。こんな白浜を見たのは始めてだ。というかいつも俺に接してくれている態度がクラスで見る姿とかけ離れ過ぎていて、ギャプの大きい人だと思わずにいられない。心を許してくれているのか、それとも・・・・。


んん?


俺は席を前と後ろにくっつけて向かい合うように食べる予定だった。だから、前の席を黒板の方から180度回転させた訳だけど。白浜は何を思ったのか、違う席から椅子を取ってきて俺の隣に座る。つまり、2人で黒板に背を向けて同じ机で弁当を広げているのだ。


近い。とてつもなく近い。


ただでさえ小さい1人用の学校机を2人で使っている。しかも同じ向きに。


手は普通に当たるし、息も聞こえるほど。


そんな状況に動揺していたら、彼女がさらに追い打ちをかけてきた。


「ちょっと不便だから同じ椅子に座らない?」


んんん?なるほど、分からない。分からないけど、取り敢えず一般的な提案をしてみる。


「そうだな。不便だから俺があっちの机に座ろうか?」


「ダメだよ。そしたら彼氏じゃないじゃん?」


「なるほど・・・・」


どういうことだ?もしかして、陰キャだから知らないだけであって、彼女と彼氏の距離感には明確な定義があってそれを逸脱したら破局ってこと?それなら近年の離婚率にも納得がいくけど・・・・。


そんなことはないだろう。


ここで確信する。彼女の、白浜の価値観はおかしい。

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