第8話8

近い。永峯寛樹、白浜柚茶さんとの距離感に絶賛困惑中です。


あれから一日しか経っていない。告白され、返事をした。そして、一緒に帰り、連絡先を交換した。まだ信頼も、お互いの理解も出来ていない。それなのに彼女は。


時を少し遡る。


「一緒にお昼にしない?」


願ってもない申し出が来たのは三時間目と四時間目の休憩時間。陰キャにも春が来ましたよっと。長い冬だったなぁ・・・。でも、こんな美少女が俺の彼女で一緒にお昼を食べることが出来るなら短過ぎるぐらい。なんだっけ?こういうのをアオハルとか言うんだっけ?一生ご縁のない単語だと思っていたけど、これからはバンバン使っていこうか。


「良いよ。どこで食べる?」


「うーん、どこが良いと思う?」


この学校。凛風高校は意外と広い。中高一貫校ではないにも関わらず、敷地が普通の高校の二倍くらいある。ぶっちゃけグラウンドが結構な面積を占めているんだけどね。帰宅部の秘蔵っ子としてはグラウンドなんか砂場レベルで良いとは思っているけど。


さてさて、そんな私情は置いておいて。この学校は敷地が広いから、自然と昼ご飯を食べる場所は通常の高校よりも多くなる。屋上も一部とはいえ解放されているし、中庭のベンチも食事して良いところになっている。だけどね、選択肢はもう一つしかない。それはリア充御用達の空き教室。空き教室は休憩時間だったら自由に使って良いというなんとも便利でありがたい校則なのだが、友達と食べるならわざわざ移動せずにホームルーム教室で食事すればいいし、ボッチなら教室の隅で食べればいいので実際使っている人達はカップルのみ。というか風潮的にカップルしか使っちゃいけないみたいになっている。だから遂に・・・遂に俺も空き教室で食べることが出来るのだ。もうここしかない。


「空き教室かなぁ。前から使ってみたかったし」


チャイムが鳴り響く。もう幸せな休憩時間は終わりらしい。


「分かった!またお昼にね!」


昨日、少しどころかかなり抜けていることが分かった白浜柚茶だが、学校では変わらず優等生です。そういえば、名前ってそのままでいいのかな。いつも白石って苗字を呼び捨てているけど、彼氏になったから下の名前で呼んでよかったりして!?


「おい、ニヤニヤしすぎて気持ち悪い」


前の席の瀬崎に指摘される。


「ん?そう見える?」


もう授業時間は始まっているが、教師は来ていないので普通に話すことが出来る。ちなみに瀬崎は数少ない友人だ。小学校の時に一緒で中学校で学校が別れたけど、高校で再開という形。


「滅茶苦茶見える。というか浮かれてる」


わお。完全に見抜かれているじゃないですか。これは瀬崎の見る目を褒めるべきか、俺の柔軟な表情筋を褒めるべきかどっちだろう。


「ま、良いことがあったんだよ。あと今日は教室で食べないわ」


「ほう。浮気か?」


「浮気だ」


「堂々言うな!」


なんだこれ。俺、もしかして前からリア充か?


「真面目に話をしよう」


急に真面目な顔をして、耳を近づけろとジェスチャーをする瀬崎。逆らう理由もなく、耳を近づける。


「永峯、もしや隣の女王と付き合ってる?」


んんん~?あれ?一日でバレた?


「小学校以来とはいえお前とはよく遊んだからな。お前の浮かれ具合を考えるとそれくらいしかないんだよ」


当てられたことに少し焦るが、こういうのを友達というのかもしれない。些細な顔の変化を読み取ってもらえるなんて、逆に嬉しいまである。


そんあ瀬崎が一度言葉を切り、続ける。


「ま、さっきの会話をこっそりと聞いただけなんだけどな★」


「おい」


コイツ、友達じゃねぇわ。


「・・・あまり喋らないでもらえると助かるな」


こそっと耳打ちをしておく。女王なんて言われている白浜と窓の隅にいる陰キャが付き合っているなんて噂が流れるにはまだ早い。もう少し平和に過ごしていたい。


「大丈夫だ。お前、噂されたそうな顔しているから絶対誰に漏らさないから安心しろ」


「・・・チッ」


ちょっとなら噂されたかったのがバレたか。こやつ、なかなかやるな。


「マジかよお前・・・」


瀬崎が呆れるような表情を見せると同時に授業担当教師が遅れて入ってきた。

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