第5話5

いつもなら直帰しているはずなのだが、やることもなく教室に残って携帯弄っているのは体育委員のせい。見事な運を発揮してしまい、公正に選ばれてしまった。


教室には2人しかいない。俺と白浜だけ。隣の席同士だから、意識しなくとも、スマホを見ていても彼女が見えてしまう。静かな教室が余計なプレッシャーを与える。ここ、何か話すところ? このまま無言は凄く気まずくないですか。だが、話す題材がない。聞きたいことならいくらでもあるが、すんなりと口に出来る内容じゃない。


俺のこと、好きなんですか?なんて聞けるのは限られたハイヒエラルキーの人物だけ。教室の隅でぼーっとしている人には失敗した時の代償が大きすぎる。知ってるよ。え、そんなこと思ってたの?みたいに言われるんでしょ。それで明日からは学校の至るところで噂されるんだ。「ほら、アイツが自意識過剰の思春期お猿さんだぜ」って。もうそうなったらお嫁さんに行けないね。人生リタイアだよ。さっさと年金もらいながら縁側に座って緑茶すする生活に移行だ。あれ?それ、結構良くない?


遠回しに聞いてみるか。誰か好きな人いるの?とか彼氏いるの?とか。でも、上手く聞けたあと、どうするんだ?彼女がもし、仮に、三分の一の確率で俺が好きだと分かったらどうするんだ。受け入れると拒絶する。この二択に絞られるけど、俺はどうする気なんだろう。


万人が認める美貌だし、スタイルも良い。間違いなく、俺が隣にいたら町ゆく人々はお金で雇ったと勘違いする格差が存在するレベル。・・・・付き合うな、これ。得体の知れない何かを感じるし、本性は掴めない。どこか危険だとサイレントが頭から離れないけれど、もし、仮に、三分の一の確率で彼女が俺のことを好きだったら付き合うしかないでしょ。


「そろそろ行かない?」


空想を繰り広げていたら、いつの間にか会議の時間になったらしい。結局待ち時間に話すことは何もなかった。


立ち上がり、彼女と一緒に教室を出る。白浜の右隣を歩く。会議室は別館の三階だから階段を降りて上らなくちゃいけない。もう若くないんだから勘弁してくれ。


無言のまま、歩きながら考える。ここで言ってしまおうか。二人っきりのチャンスなんてそう簡単に回ってくるものではない。


階段を上りながら、息を整える。


「白浜」


「どうしたの?」


俺が名前を呼んだことに驚いたのだろうか。思わず階段を上る足を止める白浜。


「あのー、なんていうか。白浜とかも好きな人いるの?」


キョトンとしている。あ、ヤバい。


「いやいや、最近友達がね!?好きな人いるとか言うからね!?普通いるのかなって思ったから」


「いるよ」


全く身に覚えのない事をつらつらと焦りながら並べる俺に、冷静に答える彼女の声が聞こえた。


「あ・・・・なるほど」


なるほど、居るのね。はい、この話はここで終わり。もうさっさと会議室に行きたい。白浜の顔を見ることすら出来ない。あ~恥かしいぃぃ。


「あれ?気にならないの?」


少し笑いながら、白浜も階段を上る。


「・・・・気にならないって言ったらウソになるかも」


気にならないと言ったらウソになる。知りたい。ここまで来たからにはちょっとくらい深淵を覗いてみたい。


三階に到着する。会議室は階段からすぐそばだ。会議室の前には怖すぎると有名な体育教員が立っている。おおよそ、会議に遅刻した者を叱るためにウキウキで立っているのだろう。


白浜は何も言わない。おそらく、あれで会話は終わったのだろう。まぁ、普通なら人に好きな人など簡単に言わない。しかもただの隣人に言うことなどないだろう。


「永峯くんだよ」


隣にいたはずの白浜が言葉を残して会議室に入る。え?なんて言った?俺の名前だよね?


ということは・・・・?

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