第3話3
「今日も良い天気だね」
「そうだな」
「ところで、今日までの課題。ちゃんとやった?」
「やったよ。結構難しかったから自信ないけど」
「私も。難しかったよね~」
俺は意図していないのに、何気ない会話が白浜によって開始される。
毎朝だ。学校が始まって以来、お互いが出席している日なら絶対に会話を交わしてきた。
白浜がただの会話好きなら何も感じやしないだろう。そうじゃないから、考えてしまう。
馬鹿みたいに、白浜が俺に気があるのかな、なんて考えてしまう。まるで発情期のチンパンジーだ。だけど、発情期のチンパンジーだとしても妙な感覚がある。
実ったことことはないけれども、人並みに恋愛経験は積んできた。特定の人を恋愛感情的に好きになったことも、自慢ではないが特定の相手に好意を寄せられたもある。
そんな経験が俺に伝えている。危険だ、触るな、関わるなと警鐘を鳴らしている。
もし、仮に、例えば、彼女が俺の事を特別視しているなら。
恋愛感情にしては異質過ぎる「何か」を抱えている。それは目を合わせた時に感じることが出来る。
どこか縋るように見てくる彼女の目。俺は何度も見てきた。
そして、今日も。
「ん? どうしたの?」
慌てて目をそらす。どうやら、目線をしばらく合わせたままのようだった。
「いや、何でもない」
あーあ。嫌になってきた。何でこんなこと考えているんだろう。どうだって良いじゃないか。たまたまそういう風に感じてしまう目の持ち主だけ、という話に違いない。よく話掛けてくれるのは、ただ哀れまれているだけに違いない。
ただ、こちとら思春期真っ只中のお猿さんなんで。そういう好意を疑わせるような行為は控えて欲しいですね!
決めた。何か1つ能力を授かるとしたら時間停止じゃなくて人の考えを読むことが出来る能力にしよう。昨日見た、時間停止モノの世界よりもよっぽっどこっちの方がいいや。
月曜日の一時間目はホームルームと決まっている。その日によって、自習から学年集会まで行われる幅広いラインナップを揃えている万能の授業時間。生徒からしても、ただ話を聞いていればいいだけなので評判は良い。
「実質月曜は5時間」
なんて話も良くする。・・・・はい。良くする訳ではないです。友達不詳の人でした。大変申し訳ありません。
今日のラインナップはどうやら体育委員を決める時間らしい。うちの学校は体育祭が7月の始まりに行われる。言い方が悪いが体育委員は体育祭運営の雑用係。担任の話からは良いことが一切出てこなかった。
ここは安定のスルーだな。スルー以外の選択肢は存在しない。
ま、雑用係を進んで志望するものなど誰もいなくて。
「誰かやらないか?体育委員。多分楽しいぞ」
担任がやる気ない声でクラス全体に呼びかける。多分楽しいって言われたけど、楽しいなら楽しそうな話をしてくれれば良いのに。炎天下の中をカラーコーンを持って永遠と作業する辛そうな生徒を見た、なんて話をしなければ良いのに・・・。
「それなら、私が」
誰もが机の木目を凝視している状況の中、そう言って隣の席の白浜は手を挙げた。流石だ。こういうところは尊敬せずにはいられない。
「お、助かるぞ。ありがとな」
是非頑張ってください。炎天下の中だから日焼け止めは忘れないようにね。
「あと一人~。早くしないとクジ引きだぞ」
これはクジ引きの流れだな。当選確率は1/39。ソシャゲの星5確率と大体同じ。大丈夫、俺、運ないから。これまで福引きとかでまともな引きをした記憶はないし、おみくじですら大吉はお目にかかったことがない。
「それじゃ、クジ引きな。文句を言うなよ」
そう言ってスマホのルーレットを回し始める担任。
そういえば、日焼け止めが足りないなんて肌の弱い妹がポツリと言ってたな。あぁ、そうだ。もし俺が当選したら日焼け止めを買ってあげよう。
ちょっとした博打を勝手に設定して、少しばかり担任の結果発表に心臓を躍らす。
「ん、永峯な」
心地よく揺れていた心臓は突然停止した。脳は担任の言った言葉の意味を解読するために5回目の再読を開始している。
「それじゃ、自習な」
担任が用は以上だとばかりに颯爽に教室を去る。
何人かがニヤニヤと俺の方を向くのが分かった。
え?俺なの?貴重な運をここで使っちゃったの!?
まだ頭の中で受け入れきれていない情報を確定させたのは、他でもない白浜の声だった。
「よろしくね。頑張ろ?」
それはもう太陽のように。笑顔の花があるとすれば、それは満開に。そんな顔を向けて、白浜は俺に声を掛けた。
「・・・・おう」
その笑顔に気圧されながら、俺は現実を受け止め、頷くしか出来なかった。そして、そんな時でも。彼女の俺に向ける笑顔は。どこか歪だと感じてしまった。
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