短編読切「サンマの塩焼き」

 仕事終わり、いつもの居酒屋で同期の石井と飲んでいた。


「馬鹿だな、骨と内臓は残すんだよ。ガキか?」


僕が課長の愚痴を言うと、石井はそう言って笑った。


「ヘッタクソだな」


僕がサンマの塩焼きを食べるのを見て、さらに鼻で笑った。


 昔から、魚を食べるのが苦手だ。小骨は残るし、苦い部分が多い。身を満足に食べることが難しい。


それなのに、定期的に食べたくなるのはなぜだろう。処理も面倒なのに。


「そんな器用に食えないんだよ」


目の前の皿を見た。


白い身と、黒い臓器が混ざっている。僕がずっと食べていたのは、この二つがかけ合わさった味だ。独特な生臭さと、苦味。決して好きにはなれないが、この中の少ない身をかき分けて食べるのだ。


「食えない分は残せばいいだろ。臓器の苦いとこ好きな奴もいるけどさ、苦手だったら残しちまえばいいんだよ」


「・・・・・食べ方、間違えてたのかもな」


「ん?」


「全部食おうとしてたのかも」


先輩はふっと笑うと、タバコに火をつけた。


「何もお前のためにご丁寧に調理された料理が出る分けじゃねえんだからさ」


「そうだよな」


残り半分になったサンマの塩焼きを、石井は箸で優しくほぐした。背びれを取って、腹を裂いていく。骨と身が綺麗に分離した。白い身から、黒い内臓が剥がされてゆく。


「まあでも・・・」


「ん?」


「後輩には上手い飯食わせてやりたいよな」


「ああ」


僕は微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る