第11話:3年前の男の子

 夜、ご飯を食べ終わったところで、とおる君が、


「じゃあ俺、帰るよ」


と言った。


「帰るの? てっきり泊まるんだとばかり」


「よく考えたら着替えとか持ってきてないしね。明日の朝ご飯は食べに来るから」


「おい」


 自分ちで食べてきなさいよ。

 でも、帰るというのをあえて引き留めはしない。亨君を見送り、広くて大きな屋敷の中、吾良千輝と二人きりになる。


「俺は風呂入る」


 吾良千輝もそう言って、さっさと風呂場に向かってしまった。


 一人か~。どうしようかな。……あっ、昼間きいた物置行ってみよう。


 善は急げとばかりに早速行動する。


 物置、物置~。

 ふすまを手当たり次第開けていき、五か所目でようやくそれらしきところを見つけた。


 第一印象は、やけに片付いている、だ。

 物置部屋というから雑然とした部屋を思い浮かべていたけど、意外ときれいに整頓されている。


 昼間、亨君が片づけたからなのかな。

 何か不穏なものはないかと探してみるけど、特に見つからない。危ないものを、そのままにしておくわけないか。


 部屋を出ようと踵を返したところで――――、


「ぎゃっ!」


 足がもつれて、バランスを崩してしまった。最悪なことにそのまま本棚に激突してしまう。

 ドカドカと頭の上に落ちてくる本たち。


「――――っ」


 痛いっ。

 やばい。

 泣きそう。


 大声上げたいのをぐっと我慢して、涙目になりながらたんこぶができていないかの確認をする。


 さすさす。


 怪我は特になさそう。

 災難だったと、あたりに散らばった本を一望すると、一冊、開いた状態の本を発見した。よく見てみればそれはアルバムで、浴衣を着た男の子と女の子が並んで写っている写真があった。


 近くの看板には『シンショウ祭』の文字。


 アルバムを手に取り、じっくり見る。


 んー?

 この男の子、吾良千輝ではないよね……?


 写真の男の子は満面の笑みを浮かべた少しやんちゃそうな子で、吾良千輝とは似ても似つかない。


 でも私はこの子を知っている。

 見たことがある。

 なんでだ……?


 さらに不思議なのは隣に立つ女の子も見たことある気がすること。まんまこの子ってわけではないけど、つい最近、この子に似た美少女を見た気が……。


 ムムム……。


 なにか手掛かりはないかとアルバムをめくっていくと、


「!」


 私がいた。

 小学校二、三年生ごろの私が、やんちゃそうな男の子と一緒に写っている。場所は相変わらず『シンショウ祭』。


 この子はいったい……。


「んー、んー……」


 目をつむって腕を組む。


 祭り。

 小学校低学年。

 夏。

 夜店。

 男の子。……『シン』の男の子。


「あっ!」


 思い出した!

 パチッと目を開け、もう一度写真を見る。


 才波正臣さいばまさおみくんだ!


 三年前のシンショウ祭で一緒に遊んだ子。

 うわー懐かしい。元気かな、写真持っててくれたんだ、今何して……あー、……多分、ハッピーな感じではないよね。


 上がったテンションを落ち着け、冷静に考える。


 だって、吾良千輝は言っていた。この家は入れ替わり制で、前の住人が荷物を忘れていくことがある、って。

 きっと才波正臣くんはこの家に住んでたことがあるんだ。

 でも追い出されてアルバムだけ忘れて帰ったんだ。


「…………」


 なんだか気まずくて、ぱたんとアルバムを閉じる。

 落としてしまった本を片付けて、部屋を出よう。

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