命短し恋せよオトメ
島崎ケイ
第1話
朝起きたら飼っていた金魚が死んでいた。魚ともいえどそれなりに愛着があったので喪服を着て1人でお葬式をした。本当は土に埋めようと思っていたけれどアパートの庭に埋めるのはちょっと抵抗があったので近くの小さな川に流した。金魚を飼っていた小さな金魚鉢は綺麗に洗って押し入れにしまった。携帯を開くと中身のないLINEがきていたので中身のないLINEで返す。私は喪服を脱ぎ下着でベッドに横たわる。家にいるのに帰りたいとか思ってみる。また携帯を開き今度はInstagramを開く。新しくあがっている投稿全てに無心でハートを押す。溜まりに溜まったストーリーを無心で消費する。フォロワーが減っているので地味に誰か気になり探す。フォロー中とフォロワーの数字が揃うと満足して閉じる。こういうクズなとこが私に友達が少ない理由なのだろうか。時々なぜ他人に興味がない私がSNSをやっているのか不思議に思う。そろそろやめようかな。今日の夜は彼氏に会う約束があるので入念に準備をする。彼が好きだと言っていたメイクをし、彼が好きな匂いの香水を付ける。行ってきますと金魚に挨拶しようと思ったらいない事に気がついて寂しさを覚えた。
人生に休みがほしいなんて甘ったれたことを思いながら電車に揺られ彼の家の最寄り駅に着いた。私の彼氏はどこにでも居そうなセンター分けの彼氏。会うのは全然久しぶりじゃないのに童顔の彼がいつもより大人びて見えた。彼の決まり文句の可愛いが今日はなかった。歩きながら私が金魚が死んだことを話すと彼は黙って私の頭をそっと撫でた。彼はそういう人だ。私とは似ても似つかない。
色々と終えた明け方に彼の家のベランダでタバコを吸っていると、起こしてしまったのか彼が近寄ってきた。「俺たち、そろそろかな」「まぁ」「大好きだったよ」「知ってる。私も大好きだったよ」「知ってる」好きなだけじゃ一緒にいられないのは大人の恋愛のいらない特権だ。タバコの火を消し彼の隣に座る。私の好きな匂いがして目頭が少し熱くなった。すると急に抱きしめられた。彼の温もりが消毒液の様に染みて痛かった。私たちは出会った時から正反対の2人だった。私は彼の嫌いなタバコを吸う女、彼は私の嫌いな優しすぎる男。でもそんな互いにはないものを持つところに惹かれあっていた。そして何より別れた時にどこが悪かったなんて探さなくても、正反対なんだから仕方ないって納得できるってとこが良かった、たしか。でもいざ別れると腑に落ちない自分がいる。別れ際彼が私に言った。「体に気おつけなよ」タバコを吸ってる時点でもう肺は死んでるよそう言うと彼が「肺以外は殺すなよ」と言ってきたので2人でくすくす笑った。
駅から真っ直ぐ1匹失った家に帰るのは寂しいのでレンタルビデオ屋によった。我こそは我こそはと陳列するビデオの中からひとつ選び私の嫌いなセルフレジに50円玉を入れる。家に帰りそのままベッドに倒れ込む。もうやめてしまおうかそうつぶやいて目を閉じる。いつだったか学生時代に読んだ小説にこんな台詞があった。「死んでるみたいに生きたくない、生きてるみたいに生きるんだ。」学生時代にはあまり深く刺さらなかったこの言葉が今は痛いくらい深くささっている。そう、私は生きてるみたいに生きるんだ。いつか息を吹き返すまで今は踊ろう誰かさんの手のひらで。心でそう決めた私は、携帯を機内モードに設定しそのままベッドに放り投げ、もう一度小さな金魚鉢を出してきて都会の水道水のくせに透き通るように綺麗な水を入れた。
命短し恋せよオトメ 島崎ケイ @kiko5231
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