第17話
「上田君って複数の女性に襲われるの平気な人なの?」
可愛らしい小柄の女の子が口にするとはちょっと思えないセリフに、俺は思わず固まってしまう。
大島さんの言葉はそれだけ衝撃的だったのにも変わらず、先輩が更に追撃を始める。
「非力な男性って基本的に女性との付き合いに消極的な人が多いか、もしくは法律を縦に屈服させようとマウント取るかどちらかど思ってたのに。私の学年にも君みたいな考え嘘でも口にした人いないよ」
「ですよね。私も初めて聞きました。と言うか、今までずっと上田君ってマウントばっかりとるくクソ男子の代表って感じで苦手だったんですよね」
「まあ力じゃ敵わないからこそマウント取りたいってのは分かるんだけど……と言うか、さっきの言葉はまるで女が好きって聞こえたんだけど、それならこの学校来た意味分からないし。女の子が苦手でないなら普通私立じゃん。なんでここなの?」
入る隙間のない女子2人の会話に、俺は圧倒されて口を挟めなかった。
女子のこういうパワーって前世の頃から凄いって思ってたけど、今世でも変わらないんだな。
なんとか話す内容だけは把握できたので、最後の先輩の質問に答える。
「それは、振られはしたんですけど、幼馴染が好きだったんですよね。だから追いかけて来たって感じで。でも、さっきも言った通り俺好きな人同士で付き合いたいから邪険にしてたと言うか、やりすぎちゃったみたいですけど。でも、振られたから別に今更邪険にする必要もないなって。それに、落ち着いたら流石にやり過ぎだろってもなった訳です」
実はある程度練りこんだ言い訳は、思いの外しっかりと俺の口から出てきてくれた。
公立や私立に違いがありそうで、そこはよく分かっていないからアドリブもあったのだけど。これなら案外違和感がないのではいのかな? って思う。
まあ、追いかけてきている幼馴染に1度振られただけで諦めるのは、俺の中で凄く違和感があるけど。
ぶっちゃけ今の俺幼馴染に対して特別な感情ないし、今世の俺が尋常じゃなく好きだったら影響受けてたかもだけど、こいつなら俺が好きだからって感じっぽかったしな。
ともかく、幼馴染の事を突っ込まれたら何を言い返すか考えよう。
そんな風に考えを巡らせていたのだけど、その間2人は考えるような素振りを見せていた。
そして、先輩が先に口を開く。
「え? それでほんとに君振られたの? え? そこまでされて男を振るってあり得るの?」
心底不思議そうな先輩と、先輩の言葉に同意するように大島さんは何度も首を縦に振った。
なるほど、一途な男って好感度高いんだな。……別にそれは前世でも一緒か。
いや、前世ではストーカーとかかなり問題になる事あるし、今世の方が評価されやすいポイントなのかもしれない。
ただ、どちらにしろそれは好きな相手が居なかったり、生理的に嫌な相手でなければってなるだろう。
だから、正直に理由を伝える事にする。
「なんか、他に好きな男がいるらしいですよ」
「……え? それだけ?」
俺の答えに先輩と大島さんの声が重なる。
異口同音の言葉に俺は首をかしげた。
立派な理由だと思うのだが、不思議な点でもあるのだろうか?
と、そんな疑問は続く先輩の言葉にすぐ解消されることになる。
「好きな男も一緒に奪い取ればいいじゃない。変な子」
「ですね。そりゃ林真琴みたいなモンスター相手がいるとかなら分かりますけど、上田君って今フリーなんでしょ? ますます分からないなぁ」
2人の言葉に俺は驚いてしまう。
なにを言っているのだろう、まるで男なんて奪い取るのが当たり前みたいな。そして、林さんがモンスター? やばい、意味が分からない。
そんな俺を置いてきぼりに先輩と大島さんの会話は続く。
「うーん。女なら好みの男子を1回食べてみて、それから考える女子ばっかりだと思ってたけど。その子のその性格でよく私立行かなかったね」
「私も思います。2人ともまるで私立向けの性格ですよね。でも、私謎が解けましたよ」
そう言って、ふふんと得意気な表情を大島さんは浮かべた。
俺もだが、先輩も大島さんの言いたい事が分からなかったのだろう。大島さんが喋り出すのを黙って待つ。
大島さんは俺と先輩を得意気な表情のまま見た後、口を開いた。
「上田君も宮城さんも好きな人を追いかけて来て、宮城さんは好きな相手を追いかけ中で、上田君はだから振られたって事だと思います」
「ああ、誰かと男を奪い合い中ならそりゃ他の男にかまけている暇はないな」
大島さんの言葉に、先輩は納得したように首を縦に振って言った。
うわぁ、これ前世の俺のままだったらもっと立ち直れなかっただろうな。
まあ、今の俺からすると幼馴染とは距離を置こうとしていたので、丁度良かった。
「まあ、俺としても他に好きは人がいるのなら、そっちと幸せになって欲しいってなっちゃってたんで。でも、彼女は欲しいから態度を直したんですよ」
「うん、理解したよ。あー、私も今追いかけてる相手が居なかったら粉かけてたのにタイミング悪いなぁ」
「私もです。うぅー、竹本さん羨ましい……。でも、女として負けられませんからね。先ずは今の男落とすとして。あっ、落としたら上田君狙いに行きます!」
「……君は上田君と言うのかな? 彼をもらうから後輩は引っ込んでな」
2人の会話がなんかおかしな方に進みだし、おや? っと思った所で聞きなれた声が割り込んできた。
「へー、2人とも真琴とやりあうつもりなんですね。私は彼女と仲が良いし、そもそも話付けているから良いんですけど、2人とも頑張って下さいね」
満面の笑みで2人の間に竹本さんが体も割り込んできた。
割り込まれた2人は怯んだ様にそのまま離れていく。
うん、竹本さんがと言うより林さんが怖いのだろう。
龍宮寺って家本当にヤバいんだろうな。
そんな事を思っていたら、いつものゴミを見るような目つき以上に蔑んだ目で竹本さんに睨まれてしまった。
どうしよう、超怖い。
「上田君の浮気者」
ぼそりと呟かれた竹本さんの言葉に盛大に焦る。
「いや、なんか2人と話していただけだよ」
「ふーん。鼻の下伸ばしてたように見えたんですけど」
「そりゃ、2人とも美人さんだったし、俺も男だからつい」
「へー、上田君って美人だったら誰でも良いんですね?」
「えっと。付き合うって意味なら好きになった人が良いから、単に美人ってだけじゃ違うね」
そうなんですねと答えた竹本さんは、話しかけてきた時より不機嫌そうだった。
確かに折角誘ってくれたのに長々と別の女子と話、しかもデレデレしてたのを全く否定しないんだ。そりゃ不機嫌になって当然だろう。
だけど、俺もただ単に馬鹿正直に話した訳ではないので、考えを伝える為に口を開く。
「なんでも正直に話せばいいって訳じゃないのは分かっているんだけど。今の俺としては誰かと付き合いたいって気持ちがあって。でも、今特別誰か好きって人はいないんだ。仲良くしたいって人はいるんだけど、だからって今はより多くの人と仲良くしてみたいって気持ちが大きいんだ。ただ、既に俺と話してくれている竹本さんや赤井さん達は優先したいって思っているよ」
俺の言葉に、竹本さんは考え込む。
うん、前世でこんな事言ったら最低と誰からも相手にされなくなっただろう。
だけど、竹本さんの様子からもこの世界でだと即相手にされなくなるような考えではないみたいだ。
もちろん勝算が無くて口にした訳ではないのだけど、多少なり自分の中でこの世界での立ち回りが掴めてきたように思う。
そんな事を考えていると、難しい表情を浮かべた竹本さんが口を開いた。
「私って、上田君にとってのなに?」
「今仲良くしたいって思っている人の中の1人で、特に仲良くしてくれている人の中の1人だって思っているよ。そして、気になっている人の1人でもあるね」
そう伝えると、竹本さんの頬が少し赤く染まる。
それはもしかすると怒りなのかもしれないけど、俺は怯まずに言葉を更に続けた。
「だから。俺は今竹本さんの事を友達だって思っている。ああ、一応念の為に付け加えておくけど、友達から彼女になったり奥さんになったりはすると思っているね。寧ろよく知らない相手と間を飛ばして彼女とかは俺は無理かな。さて、俺は答えたし竹本さんは俺の事どう思っているの?」
質問したら、予想外だったのかふぇっと可愛らしく呟いてぽかんとした表情で竹本さんは固まってしまった。
いや、なんで固まるの? と不思議に思うものの、固まっている竹本さんにはぐらかされないように言葉を更に重ねる。
「因みに、俺は竹本さんともっと仲良くなりたいから全部正直に答えたよ」
俺の言葉に竹本さんは真っ赤に顔を染め上げ、パクパクと口を開いたり閉じたりするのだった。
ああ、可愛いなぁ。
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