第18話
「すげぇ」
思わずそう口からこぼれる。
今俺の目の前で竹本さんを始めバレー部の面々が練習を始めたのだけど、その迫力が尋常じゃない。
あんなに大きなボールなのに、もしスパイクを打つタイミングで瞬きしようものなら見失いそうだ。
時速どのくらい出ているんだろう、とにかく早いって事しか分からない。
そして、大島さんと先輩の身体能力もすさまじい。
いや、バレーの子全員凄いと言った方が良いだろう。
強烈なスパイクなはずなのに楽々拾う場面が多いんだ。それに、皆ジャンプ力も凄い。
たぶん前世の頃からネットの高さは変わらないのに、膝から上は全部ネットの上に居るのが当たり前なくらいジャンプするのが普通みたいだし。
正直今世でのバレーのルールはさっぱり分からないけど、とにかく見ているだけでわくわくする。
「おお! 凄い!」
実戦形式っぽい練習になってから、俺はずっとそんな言葉ばっかり口にしている。
当然凄すぎてずっとスタンディングオベーション状態だ。
興奮するまま手を叩いているけど、これだけ凄まじいものを見せてくれればそうなってしまうと言うもの。
準備運動中は大島さんと先輩と話し過ぎて、肝心の竹本さんとあまり話せなかったと思ってたんだけど。
そんなもの全部吹っ飛んだ。
こんな凄いもの見せてくれた竹本さんにお礼と、その雄姿を称えなければと心の中で誓う。
でも、今は気持ちのままバレー部の全員を応援したい。
俺は時間を忘れて、バレーを続ける皆を応援するのだった。
「ほんと凄かったよ、皆格好良かったし。竹本さんもほんと奇麗だった」
帰り道、興奮冷めやらぬまま俺は竹本さんへと話しかける。
バレー部の練習が終わった後、後片付けやらが終わるのを見届けたんだけど。
真剣に何かをやっている人達って本当に格好良いと思う。その後片づけをする時には当たり前だけど練習とは全然雰囲気が違って、とても和気あいあいとしていてちゃんとオンとオフの切り替えができるんだなと感心したものだ。
ちらっと練習中に顧問の先生とも話したのだけど、あれでもうちのバレー部は弱くはないけど強豪とは言えないそうだ。
それでも、あれだけ激しい練習と熱量があるのだ。本当に凄いと思う。
よくよく聞けば、強豪なら休みの曜日なんて基本なく、朝練も昼練もあるのが普通だそうだ。
ただ、今日の熱量は強豪と引けを取らないだろうなって先生が笑いながら口にしていたけど。つまり、バレー自体は強豪校に負けないくらい好きだって人が多いんだろうと思った。
いや、冗談抜きで皆鬼気迫る様子で練習に取り組んでいたからね。
想いが止められなくて、顧問の先生に感動を伝えたいってお願いしたら。快くOKを出してもらえたし。
寧ろありがたいとまで言ってくれて、正直部外者の身としては見学を邪魔と思われなかったようで嬉しかったなぁ。
見学するだけでも気が散るから邪魔って言われる可能性だってあったんだし、ここは本当に感謝しないと。
と、俺が上機嫌でいると、竹本さんが照れたような感じで返事をする。
「ありがとう。ちょっとムキになっちゃった所もあるから、安心しちゃった」
えへへと嬉しそうに笑う竹本さんがとっても可愛くて、先ほどまでのギャップにますます魅力を感じる。
普段のゴミを見るような目つきだけは止めて欲しいのだけど、それ以外はほんと魅力溢れる女の子だな。
そんな事を思いながらも、俺はまだ体に残る興奮のまま竹本さんへ話しかける。
「ううん、皆真剣でほんと凄かった。女子が生でバレーをやっている様子って初めて見たんだけど、男子とは比べ物にならなかったよ」
「あはは、そりゃ非力な男子と比べたらそうでしょ? ブロックだって男子はあまりジャンプ出来ないからOKなんだしね。女子でそれやっちゃうと上がる途中のボールを叩き落すのが絶えなくて、結果あまりに怪我が多すぎてブロック無しになったみたい」
「そりゃ物騒だな。でも、あのパワーをボール越しに叩きつけあうのが基本になっちゃってたと考えると、そりゃ怪我も多くなるか。ちなみに、スパイクの時速どのくらい出てるの?」
「うーん、うちらだと350kmくらいじゃないかな? でも、トッププロは500㎞超える人もいるみたいだから、プロの試合はまた桁違いなんだけどね」
「おおー、そうなんだ。でも、俺は竹本さん達もめっちゃ凄く見えたよ。練習中にも言わせてもらったんだけど、感動したよ」
弾む会話の中、改めて俺がそう褒めると竹本さんが照れたのか顔を真っ赤にした。
彼女的には褒めすぎと思っているのかもしれないけど、俺からすると憧れの人ができたような気持ちなんだ。ちっとも褒め足りない。
それに、照れている竹本さんはなおさら可愛いので、自重する気も全くなかった。
だから、更に褒め殺す事にする。
「竹本さんまるで羽が生えているかのように飛んでたし。天使のようだった。いや、奇麗なだけじゃなくて格好良かったから、戦乙女って感じで、本当に素敵だったよ」
「ううう、流石に恥ずかしいよぉ」
「だって、本当の事だからさ」
勿論そう思った相手は竹本さんだけではないけど、わざわざそれを口にする必要はない。
しかし、恥ずかしそうに手で顔を覆った竹本さんがもじもじしていると、なんかこういけない気持ちになってくる。
うーん、SとかMとかの属性はないつもりだったんだけど、意外とSっ気が俺にはあるのかもしれないな。
竹本さんを褒め殺しにし、帰宅した後1つ重大な失敗をしたことに俺は気が付く。
「今日は手を繋ぐのを忘れてしまった」
思わず口からも零れてしまった。
いや、まああれだけ恥ずかしがらせてしまったし、忘れていたのもあるから仕方ないだろう。
次に一緒に帰る時は忘れないようにしなければ。
そう心に決め、過剰に構ってくる家族と共に夕食を食べやる事をやった後いよいよ大事な作業に入る事にする。
それは、当然今世の事を調べると言う事だ。
幸い俺の部屋にはパソコンがあるので、それを使って色々検索を掛けてみる。
なるほど、既にある程度は分かっていたのだけど今世では女性の方が力が強いのか。
色々理由はあるそうだし説明もあるのだけど……ぶっちゃけよく分からん。
と言うか、下手に前世の常識があるせいで理論が違和感まみれなんだ。
ともかく、俺にとってそれは重要な事でもないし今詳しく知りたい事でもないのでそんなものかと納得しておく。
で、男女の力関係が逆転しているから社会的役割はどうかと言うと。まあそもそも男女比が違うのだからより人口の多い女性が主体の社会で当然だった。
これはあくまでも確認の意味で調べたからいいのだけど……うわぁ、役職持ちの9割5分以上が女性で男性がなんだかんだとか言う記事が凄く多い。
そんなのもぶっちゃけどうでも良いので、知りたいものを探す。
うん、なんで男性の半数も殺処分になるかって言う最重要の理由も少し分かってきたぞ。
先ず、権力にしろ実力にしろ特別に突出している女性は結構男を侍らせて好き勝手にやっているみたいだ。家同士の政略結婚だと他の血が混ざらない為子供が出来るまで重婚禁止みたいだけど、その反動か子供が出来たら女も男も異性を侍らす事が多いとか。
で、そうなってくると更に女性が余る訳で。狙った男をそう言う上流階級の女の奪われない為、複数の女で懇意の男を囲い込むって手法を取る事が多いそうだ。
1人2人なら対抗できなくても10人20人で対抗するって感じで。
あれ? でも上流階級の男も女を侍らすんだよな?
……あー、女の方がメイドとか都合が良い女を集めておくって事ね。しかし、一般の女性向けサイトで上流階級女子に目当て男子を搔っ攫われない方法ってのが異常に多いのは、それでも結構上流階級女子が集めちゃうんだろうなぁ。
なんか……ほんと1対1の結婚って弱い者の味方なんだなぁ……。
途方に暮れている場合じゃねーや。
えっと、今調べた範囲だと何故男の殺処分率が5割なんて馬鹿げた数字なのか分からんな。
うーんと。色々ワード変えて検索してみよう。
――うわぁ、なんかほんとこの世界怖いわ。
使える男と捨てるべき男の見分け方とか、気を付けよう、ダメ男に騙されないでとか。男は10人キープする方法とか。あまりにそういう記事とか動画とか出て来て途方に暮れちゃったよ。
軽くいくつか見てみたけど、本当にえぐかった。
うん、ちょっと俺色々甘く考えすぎていたかも。
男にモテる方法も見たけど、モテる為の経験値を稼ぐためにその辺の男をやり捨てましょうとか冒頭で言い始めてて頭が痛くなったし。
なにより自分の意志で妊娠するか女性が決められるとか、力の事もそうだけど根本的に前世の女性と体の構造が違うみたいだ。
「うわぁ、これ調べきれないぞ」
幸い明日明後日が土日なんだけど、口に出した通りぶっちゃけ調べきれる気がしない。
と言うか、身の危険を感じるような情報も多数あって、冷汗をかきながら俺は情報を集めていくのだった。
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