第16話

 先輩が連れて来たのは、比較的小柄な女の子で。見覚えは滅茶苦茶あった。


 と言うか、クラスメイトの1人だ。ただ、完全に避けられているっぽくて、まともに会話した記憶がない。


 それは彼女だけに限らず、赤井さん達を除けばほぼ全員なんだけどな。特に男子はほぼ俺の事を無視している。


 まあ、なんと言うか少なくともうちの男子って仲がいいグループがない事はないのだけど、基本1人で過ごす奴が多いから、もしかするとあまりつるむって行為をしないのが普通なのかもしれない。


 それはともかく、同じクラスって時点で暴言を吐いてないって事はないだろうから、先ずは相手が何かを言う前に俺は頭を下げる事にした。




「ごめんなさい。今まで吐いた暴言は取り消せないけど、本当に悪かったって思っている。繰り返すけど、嫌な思いをさせてしまって申し訳ない」




 先に的を射た理由で謝ると、比較的許しやすくなる。と言うのもあるのだが、許さなければならないって雰囲気にもなってしまう。


 それでも許さないって人は遠慮なく言えるだろうけど、雰囲気に流されて本当は怒りたかったのに怒れなくなる人もいるかもしれない。


 ただ、それでも俺が先に謝ったのは。仮に俺が謝ったことで本人が俺に対して強い事を言えなくなろうとも。わざわざこの子を連れて来た先輩ならはっきり俺に対して言えると思ったからだ。


 じゃなきゃわざわざ首を突っ込んだりしないだろうし、ゆえに本当に反省していると態度で示すしかないと思っての行動である。




 果たしてこの判断は、沈黙の長さから相手を委縮させてしまう結果にはなってしまったようだ。




「アッキー。言いたいことは男相手だろうとちゃんと言わないとダメだよ」




 促すような先輩の声が聞こえ、俺は顔を上げる。


 すると、アッキーと呼ばれたクラスメイトは気まずそうにしていた。


 名前は……なんとか苗字が大島さんだとは思い出す事ができたので、内心ほっとしながらも神妙な顔を作って口を開いた。




「大島さん。先輩の言う通りで遠慮なく言って欲しい」




 俺の言葉に大島さんは戸惑うような素振りを見せたものの、意を決したように口を開いた。




「上田君。そうやって人気取りするのがっかりしちゃうから止めてください。暴言吐くのは凄く嫌だったけど、誰に対しても平等だったのは尊敬していたのに。……赤井さんや茜ちゃん達ばっかり話す理由がしりたいです」




 大島さんの言葉は俺の予想外の物だった。ゆえに少しだけ考え、慎重に口にする。




「ほんと今更どの口がって思うかもしれないけど。暴言はやっぱりよくないと思うんだ。実際大島さんにも嫌な思いをさせてしまっていたし。だから、これからはちゃんとしようと思ったんだ。だけど、嫌な人から話しかけられるのって嫌だと思うんだ。それで、話しかけてくれる人にはちゃんと話そうとしただけなんだ」




「それじゃぁ、私とも一緒に手を繋いで帰ったりできるの?」




「えっ!?」




 上目遣いで聞いてくる大島さんは凄く可愛かったのだけど、想定していた質問と違ったので驚いてしまう。


 けど、平等な態度を尊敬していたって事だから、不自然な質問でもないのかと思いなおす。


 実際人目に付くように竹本さんや金田さんと手を繋いでいたし。


 思わず大きな声が出てしまったけど、俺は納得して口を開く。




「そりゃ大島さんのような可愛い子からお願いされたら喜んじゃうだろうけど。うーん、それに関しては全員に平等って訳には確かにできないかも。幻滅させてしまうかもしれないけど、女の子相手ならともかく野郎と手を繋いで帰るのはごめんだね」




「あら、その言い方じゃ私とも手を組んだりデートしたり頼んだらできそうね」




「ああ、勿論先輩とだってできますよ。こんな美人さん相手に断る訳ないじゃないですか」




 俺の言葉に唖然とした表情で大島さんは固まってしまったところで、からかうように先輩が口にした。


 なので、先輩に対しても思った事をついそのまま言ったのだけど。先輩も同様にぽかんとした表情で固まってしまった。


 やってしまった。これじゃ俺は女の子相手なら誰でも良いクズ発言をしてしまっている。


 慌てて俺は聞かれてもないのに言葉を続けた。




「そりゃ俺だって彼女ができればその子を特別にして、他の人から誘われても断りますよ。でも、現状誰とも付き合ってないし、話しかけてくれる子はいますけど、今のところ特別好きな人もいませんからね。となれば、可愛いな、美人だなって思う子と仲良くしたいって思うのは不自然じゃないと思うんです」




「……君それ本気?」




 大島さんは再起動できる気配が無くて、かわりに再起動を果たした先輩から探るように質問された。


 ここまで言ってしまった以上後戻りするつもりもない俺は、せめて誠実に話そうと言う思いのもと質問に答える。




「勿論本気です。ただのナンパ野郎みたいな感じになってしまいましたけど。嘘はついていません……、嘘をつかなければ良いって事でもないでしょうけど。酷い事をしてきた以上誠意をもって答えたかったんです」




「あの、そしたら、私が付き合ってって言ったら付き合えるんですか?」




 うおっ、急に復活した大島さんが俺に詰め寄りながら聞いてきた。そのせいで少しだけ驚いてしまう。


 だけど、その質問に対する答えは決まっていた。




「それはできない。やっぱり付き合うならお互い好きになってからと思うから。って、なんの説得もないかもしれないけど。でも、だからこそ色んな人と仲良くなって、好きになったら付き合えたらなって思っているよ。それで、今はそう思える人を見つける為にも先ずは話しかけてくれる人から仲良くしたいって思っているんだ。ああ、勿論友情は要らないって訳じゃなく、男子とも可能なら仲良くしたいんだけどね」




 俺の言葉に大島さんも先輩も考え込む様子を見せる。


 たぶんこの世界ではあまりない考え方なのだろうと、流石にそのくらいは自覚がある。


 じゃなきゃ、今までの俺の言葉でここまでの反応は見せないだろうからな。


 ほんと家に帰ったら多少寝不足になろうが、しっかり現状を把握しないとまずいだろう。


 現状把握する優先順位を1番上にあげていると、今度は先輩が口を開いた。




「それは、他の人と恋人同士になっている女の子も含まれるかしら?」




「そりゃ無しでしょう。と言うか、俺が俺の彼女と単に仲良くするまでならともかく、奪い取ろうとするなんて許せないからです。だから、今まで人の嫌がる事をしてしまっていた俺は、せめて自分の嫌な事は人にしたくないって思うんです。なにより、恋人がいるのならその人と仲良くしてほしいし、俺も恋人だったり俺を好いてくれる人と仲良くしたいです」




「ふーん。因みにその考えなら相手は1人って事かしら?」




「あー。それについては矛盾を感じるかもしれませんが、俺も相手も好きってなって。そして俺が複数人同じくらい好きになってしまった場合は全員に告白しようと思っています。ただのクズ発言なんですけど、でも法律上できれば複数人との婚姻が望ましいってなっていますし。1人だけ特別ってなれば別かもしれないですけど。その……ぶっちゃけてしまえば俺ってモテたいんですよね。で、可愛い女の子に迫られて邪険にできる自分が想像できないんです。そうなると、法律で禁止されているならともかく、推奨されちゃうとたぶん俺歯止め聞かないと思うんですよ」




 言いながら、あまりに自分がクズ過ぎてちょっと落ち込んでしまう。


 正直誰にでも罵倒している時と大差ない気がしてきた。と言うか、前世なら普通に刺されても文句言えない発言しているなぁ。


 ただ、1人の人を愛するってのにも多少なり憧れがあるから、実際は分からないってのが正しいのだけど。


 ぶっちゃけ前世で1度もモテず、付き合う事すら誰ともできてなかったせいで捻くれちゃった自覚はある。そして、そんな俺だから好きって言ってくれた子が複数いた場合、1人を選べる自信なんて全くないんだよなぁ。


 なにより、複数人と結婚するのがオッケーだし、寧ろ複数人と結婚しろって世界みたいだし。


 いや、これもちゃんと調べないと、教科書の情報だけ鵜吞みにするのはまずいよな。




 と、再び大島さんと先輩が黙り込んでしまったので、ついつい考え込んでしまった。


 意図して笑顔を作り、俺は再び2人に話しかけた。




「まあ、俺としては今までの愚行を反省しているって訳です。だから、良かったら2人も俺と仲良くしてくれたら嬉しいです。勿論もう話したくないとか、彼氏が居るから彼氏に悪いって場合は別ですけどね」




 俺の言葉に対し、何故か大島さんと先輩は顔を見合わせて頷くのだった。


 えっと、なんだろう?

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