第15話
「そうそう、明日は佑衣子だけど。くれぐれも言動には気を付けてね」
昼休みの終わりに念を押すように赤井さんに言われる。
それ以外は普通に雑談できたので、嫌いと言い切っても邪険にされることはなさそうだ。
再び暴言吐いたりしてしまえば、ほんとどうなるか分からないけど。
うーん、とりあえず家に帰ったら龍宮寺について調べてみよう。
それに、いい加減この世界について色々調べないとなぁ。
「しっかし。ほんと今世のこいつはヤバすぎるよな。つい普通に話してくれる人ばかりだったから、失念してしまったぜ」
重くため息を吐き出しつつ、俺はそう零した。
ぶっちゃけよう。ほとんど今世の記憶を思い出せない原因の1つでもあるんだが。
クラスメイト達に暴言吐いてたのは多少は思い出せるんだよな。
日常的にと言うより、誰かと顔を合わせるだけでも言ってた感じがするし。林さんの毛嫌いの仕方から、それは多分間違ってないと思う。
ほんとクラスメイト達にはどうやって償ったら良いか分からないなぁ。
この体を奪って生きていくなら、この辺りは改善しなきゃいけないのだけど。
なんだかんだクラスメイト達から避けられているのは自覚しているし、ぶっちゃけ皆から嫌われているのだろう。
うん、男女問わずちょっと近くを横切っただけでどけとか言うのは、寧ろめっちゃ機嫌が良いくらいのレベルだし。
それでも大きな問題になってない意味が分からないけど。ほんと男の扱いについてきちんと調べないと分からない気がする。
そう言えば、皆が集まって来なかった休み時間の度に周りの様子を見てたけど。ブスが目の前来るなって言って女の子に教科書叩きつけてた奴いたなぁ。クラス1イケメンの矢島なんだけど。
でも、皆特に反応なかったしその女子クラスメイトも何も言わないどころかごめんなさいなんて言っていたし。
さらに言えば、近くに座ってた女子達が矢島君が機嫌悪いのに近づくのが悪いみたいに話していたし。
と言うか、それでも5人も彼女が居る矢島ってやべぇな。流石クラス1のイケメンって言ったところなのか?
で、いくらクラス1のイケメンとは言え、最低の言動が許されてしまうのに俺は嫌われているってめっちゃヤバくないか?
思い出せてないだけで、あんなの目じゃないくらい滅茶苦茶やってたのか。それとも、単に俺程度の容姿でやると嫌われるのか……。
いや、俺がやらかし過ぎててあれでも許されるようになってる可能性もあるな。
うーん、本当に情報が少なすぎてよく分からん。
「はあ、憂鬱だなぁ」
色々考えを巡らせてみるものの、どうしても気分が浮上しなくて俺はため息と共にそう呟いた。
授業中だから、あくまで誰にも聞こえないようにだけど。結局授業にあまり集中できていない。
正直これ以上考えて更に気分を凹ませたくはないので、授業に集中することにする。
そんなこんな、憂鬱な午後の授業は過ぎていくのだった。
「上田君、約束覚えてる?」
全ての授業が終わり、いったん帰る準備をしていると竹本さんにそう話しかけられる。
視線を上げると、いつものようにゴミを見るような目つきでこちらを見ていた。
それがデフォルトだとしても、凹んでいた俺には少し応える。
とは言え約束は約束だ。これからを見て欲しいと口にした以上体調が悪いとか以外ではちゃんとしなくちゃな。
「ああ。ちゃんと覚えているよ。バスケ部だっけ、楽しみだな」
意識して笑顔を作って答えたら、竹本さんがホッとしたように息を吐いた後笑顔を見せてくれる。
やはり緊張してたりするとあの顔つきになるのだろうなぁ。
「良かった。それじゃ行こう」
安心したように言って竹本さんは踵を返した。
朝の感覚からするとそのまま手を繋いだりしていたのだけど、ちょっと自分にブレーキをかけて後を付いて行くだけにする。
林さんからの忠告があったのが勿論大きいのだけど、欲望に走って失敗するよりゆっくり信頼を重ねていくのを優先しようと思ったのだ。
前世の自分で当てはめてみると、嫌いだろうがなんだろうがある一定以上可愛い女の子に手を繋がれたらと思ったら。そりゃ内心はともあれデレデレしてしまう高校生の自分が容易に想像できてしまったからだ。
たぶん、彼女達の中の誰かは好意か少なくとも興味を持ってくれているのは間違いないだろう。
じゃなければ、そもそも話しかけてきてないだろうから。
ただ、林さん筆頭に俺の事が嫌いな人が色々と探りを入れてきているのだと思う。いや、嫌いな人だけじゃなくて様子を見られているだろうから。なおの事軽率な言動は取れないって訳だ。
後1つ気づいたことは、どうも高宮さんは赤井さん達と仲がいいって訳じゃなさそうだ。
その証拠に他の皆を名前呼びしていても、彼女だけ苗字で呼ばれているし。それでも一緒に行動したりしているところを見ると、仲が悪いって訳でもないのだろう。
あくまでもクラスメイトってところかな? 俺だって普通に話したり遊んだりするけど、特別仲が良いかって言われるとそうでもなくて。高校卒業と同時に疎遠になった奴って大勢いたし。
前世だろうと今世だろうと、高校生なんてそんなものだろう。
まあ、高校時代特別仲が良くても疎遠になったり、逆に対して付き合いなくても卒業してから妙に仲良くなる奴とか居たりするから不思議なんだけど。
つらつらと考えながら竹本さんの後を追っていたのだけど、体育館に着くや着替えてくるからと別行動になる。
中を見ると、女子達が体育館を半分に区切りバスケとバレーの準備をしているようだった。
授業が終わるタイミングが違うからだろう、すでにアップを始めている人から俺達の後から体育館へと入ってくる人もいる。
そして、男子の姿はほとんどなかった。
一応3名ほど姿があるっちゃあるのだけど、マネージャーなのかな? ジャージに着替えて準備を手伝っていたり、女子と話していた。
今到着していっているメンバー以外制服姿は俺だけで、少し気まずいな。
「えっと、君は見学なのかな? もし違うのなら今日は部活の日だから、できれば男子の使用は控えてくれると非常に助かるのだけど」
気まずい思いをしながらも、邪魔にならないようバスケ側の方の端っこに寄っていたのだけど。たぶん先輩なのだろうか、竹本さんに負けないくらいの長身の大人っぽい女子生徒に声を掛けられる。
心配そうに聞いてくるところを見ると、もしかすると俺が想定している以上に男の権限って無駄に尊重されているのかもしれない。
それか、この先輩が腰が低いかだけど。っと、つい考え込みそうになったので、失礼になる前に返事をする。
「はい、竹本さんに見学に誘われたので見に来ました」
「ああ、じゃあ君が上田君なんだね。うん、色々と話は聞いているよ」
ん? 笑顔で話してくれてはいるのだけど。俺が誰か分かったと同時に少し身構えられた気がする。
実際半歩ほど距離を取られたし。
嫌な予感がするけど、現状どうする事も出来ないのでそのまま喋り続ける事にした。
「そうなんですね。スポーツはするのも見るのも好きなので楽しみです」
「へー、そうなんだ。スポーツが好きって事は何か部活に入ってたりするの?」
「いえ、帰宅部ですよ。下手の横好きですし、やる気に満ち溢れているって訳でもないんで」
「んー、じゃあマネージャーとかも興味ないんだね」
「そうですね。単に見て応援するのは好きですけど。マネージャーってそれだけじゃダメでしょうし、それについてもやる気は必要だと思うんで俺には無理ですね」
ここで、先輩がおっと言った様子で少し驚いた表情を浮かべた。
「結構真面目に考えているんだねぇ。そう言う子嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます」
「あはは、寧ろ君変わり者って言われない? なんか1年達から聞いてた話と違い過ぎるけど、別の上田君なのかな?」
お、これはチャンスかもしれない。
少し警戒を解いてくれたのか、先輩は話しながら離れた半歩分近づいてくれた。
笑顔と柔らかい口調は作っているだけかもしれないけど、少なくともパーソナルスペースって無意識が多いから結構判断基準になるんだよね。
実際相当意識していても、パーソナルスペースを無理に縮めると不快感が凄まじいし。前世の経験からだけど、これは相手との距離を測る上で非常に有効なのだ。
余裕が無くて赤井さん達には有効に使えてなかったけど、信頼を積み重ねる今ならこれは本当に気を付けないといけないな。
そんな事を考えつつも、俺は意図して笑顔を作り口を開く。
「いや、悪い噂のなら俺であっていると思います。ある瞬間冷静に振り返ってみたら、あまりにクズ過ぎるなって嫌になって。そう思うのならちゃんとしようって今頑張っているところなんです」
さて、正直に答えたのだけど、先輩はどんな反応をするのか?
そんな思いを浮かべた俺は先輩を注視する。
果たして先輩は、ニコっと笑顔を作ってちょっと待っててって言って離れていってしまった。
えっと、どちらにしろ待つけど、これはどんな反応なのだろう?
俺は疑問を浮かべつつも、大人しくその場で待つことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます