第6話
さて、2時間目が始まったわけだが。全然授業に集中できない。
ほんとどうしたものか……、あまりにも居たたまれない。
ぶっちゃけクラス中の視線が俺に集まっていると思う。それで、教師からも何かあったのか? と俺が質問受けてしまったし。
ちょっと失言してしまってと言ったら、幸いな事にそうかとだけ口にして流してくれて本当に良かった。
もうすぐ定年を迎えそうな優しそうなお爺ちゃん先生からの、同情したような視線も凄く気にはなったが。
これ以上触れられたくはないし、次の休み時間はどうやって逃げようか凄く悩んでいる。
いや、まぁ絶対に逃げられそうにないのは分かっているんだがな。
「勘弁してくれ」
思わず小さな声で俺は呟いた。
いや、男同士なら別にいいんだ。中高生の男なんて大抵エロい事しか考えてなかったし、この世界の事情……はなんか今世の僕が消えてからあんまり思い出せないが。どうせそこまで大差ないだろう。
問題はいくら質問されたからって馬鹿正直に答えるものじゃなかったって事だ。
女子相手に貴女で勃起しますよーって言った訳で、マジで死ねるぞこんなの。
思い返して再び体中が熱くなる。
いや、もう本当にどうしたもんだろうね。わざと倒れて早退でもするか? 待て、流石にそれはない。と言うかもうこれ以上注目を浴びたくない。
下手すると学年や学校で話題になりかねないしな。
ぐるぐるとネガティブな事が頭の中を駆け巡り、より一層勉強に手が付かない。
と、トントンと背中を押されてびくっと大げさに震えてしまった。
「びっくりしたぁ」
俺は口の中でそう呟いて、恐る恐る後ろへと視線を向けた。
そこには俺を睨みつけながら何やら手紙を手渡してくる男子生徒の姿があった。
矢島やじま和樹かずきと言う、まあクラスで一番のイケメン野郎だ。
前世の俺以上に長身であり、男らしい容姿で赤目赤髪の学年トップクラスの成績でサッカー部のエースとか言う。所謂前世でもモテ男の代表みたいな奴である。
実際今世でも5人くらいだったか? 彼女が内定しているそうだ。実家も金持ちらしいし、弱点らしい弱点は俺は知らない。
しいて言えば、今世の僕と同じようにガチの暴君なんだが、まあこいつは許されていると言うか、それもモテ要素になっているんだろうな。
で、こいつに限らないが男とも仲良くない俺なわけで、正直こいつとの接点はゼロだ。
なんで手紙を渡しているのか、特に考えなくてもさっきの休み時間のやり取りだと思われる。
いや、他から回ってきてこいつからって決まったわけじゃないけどな。
「早く受け取れよ」
じろじろ見ながら考えていたせいだろう、より不機嫌そうに矢島から言われてしまう。
相手の態度にムカつきながらも、これ以上目立ちたくない俺はおとなしく手紙を受け取った。
さて、中身は何が書いてあるのだろう。
ため息を吐き出しつつ手紙を読めば、予想外の言葉が並んでいた。
「はぁ、まじかぁ」
面倒くさすぎて、思わずそう呟いてしまった。
まあ端的に言ってしまえば、男子トイレに来いって言う呼び出しだ。
差出人は矢島じゃなくて、前田まえだ隆弘たかひろって言う別の男子だったんだがな。
大丈夫か? とか書いてあるが正直まともに面識のない相手のやる事なんてなんの判断も出来ない。
もしかすると単純にすげぇ良い奴で、俺を助けてくれようとしているのかもしれない。はたまた、単に確実に呼び出せるように耳障りの良い言葉を書いているだけかもしれない。
つまり、どんな思惑があるのか全く分からないわけだ。
まあ、男子トイレってのは分かる。
他の場所だと女子が付いてくるって言って拒否れる自身はないし、万が一授業に遅れる羽目になろうと言い訳もしやすいから。
ボコられたりはしない……と思いたいが、前世の頃からそういうヤンチャしている連中とあんまり絡んだことないから分からん。
ともかく、女子に邪魔されず落ち着いて話せる場所の1つである事は間違いない。
結局俺は前田の呼び出しを受ける事にし、授業が終わって再び女子に囲まれるも何とかトイレと言う言い訳を武器に逃げおおせる事に成功したのだった。
「女子達に囲まれてたが、ほんと大丈夫か?」
気の毒そうな表情で聞いてくる矢島に対し、とりあえずボコられそうじゃないと少し安心する。
心配そうな表情を浮かべてくる熊みたいな巨漢の男で、つまりはこういう相手だからこそボコられる心配をしていたわけだ。
柔道部と空手部を掛け持ちしてて両方黒帯とか、そんな相手にタイマンとか俺は絶対にやりたくない。
「ああ、心配してくれてありがとう。滅茶苦茶恥ずかしかったから、ぶっちゃけ助かったよ」
ともかく、今は心配してくれているようなので、その言葉に乗っかるように俺は答えた。
うん、実際本音でもあるし、セクハラ発言の後すぐ取り囲まれるよりこうしてインターバルがあった方が助かる。
「正直お前の事あんまり好きじゃないんだが、流石にあれは可哀そうだったからな」
「流石に面と向かって好きじゃないって言われると傷つくんだが」
「ん? 自覚なしか?」
「いや、流石に今までの俺が悪かった。謝るわ。ごめんなさい」
話していたら少し険悪な雰囲気になってしまい、俺は慌てて頭を下げた。
それに対し、前田は大きなため息を吐き出して再び喋りだす。
「まあいいや、別に今まで俺には害はなかったし。ちゃんと謝れるんならいいんじゃないか? 知らんけど」
割と突き放す言い方だが、好印象も持ってない相手にはこんなものだろう。
俺はそう納得し、顔を上げた。
幸いそのタイミングで殴られるって事もなく、前田の表情もどうでも良さそうな感じなので大丈夫そうだ。
まあ、こいつと仲良くなったりは無理そうだが、とりあえず敵対するような事はしないように気を付けていこうと決める。
うん、だってぜってぇ勝てねぇって。不意打ちしてもあっさりやり返される未来しか見えないからな。
そんな事誰相手にもしない……と言うか出来るタイプじゃないけど。
「ともかく助かったよ。これで少し落ち着けるわ」
「そうだな。お前が言われている時は自業自得だなって思ってたが。流石にあそこまでセクハラが過ぎれば可哀そうだったからな」
そこまでいって、あーとかうーとか言いにくそうに言葉を前田は選び出した。
俺はセクハラ非難されるのかと少し身構えたか、再び同情するような顔つきで前田は衝撃の言葉を吐いた。
「男相手に勃つかどうか聞くとか、流石にねーわ。たぶんあいつ女子からも制裁受けるんじゃね? やっぱ女ってああ言う所がダメだよな」
ちょっと前田の言葉の意味をすぐには理解できなくて、俺は返事ができなかった。
そんな俺を置いてけぼりに、前田はどんどん言葉を重ねていく。
「普段からエロい事ばっか考えてんのは、俺だって姉妹が居るから分かるから仕方ないと思うが。もう少し自重ってもんを覚えてもらいたいよな。ほんと迷惑だし、それがなきゃあいつらだってすでに誰かと付き合えただろうにな。折角見た目が良くても中身が変態とか、そりゃ男に相手にされるわかねーのって。今更だが、これもこのクラスになってしまった男子の宿命だ。お前もあの変態4人からしばらく絡まれるのは覚悟しとけよ」
言い終えた前田は満足したのか、俺の肩をぽんと叩いてトイレから出て行った。
残された俺は茫然と視線をさまよわせる。
「あ、いや、男女の価値観が変わるのも男女比が違うのなら普通なのか? でも、テレビじゃ普通に水着で女性が恥ずかしがってたし、野郎も別に胸見せたからって恥ずかしがったりもしねぇし」
性に対するあれそれも、まあネットで昨日調べた。と言うかうん、俺だって男だからそう言うものにお世話になったわけだ。
その際軽く調べたが、パッと見た感じそこまで前世との違いが分からなかったのだ。
勿論俺が単に好みのワードから検索しなかったからってのもあるのかもしれないが、百合物が極端に少ないくらい以外しか分からなかったんだよな。
代わりにBL物が多かったけど、まあ男女比が違うならそんなもんかって。
え? って事は俺ってめっちゃ感覚ずれているって事か?
わざわざあんな忠告までされるって事は、冗談って事もないだろう。
やばい、どう対応したら良いかますます分からなくなったぞ。
もし、そしもだ。この世界の女子が男子っぽい感覚してたら……俺やり捨てられるとか普通にあるんじゃないのか?
そりゃいたすこと自体は俺だってやぶさかではないが、それで結局彼女出来ませんでしたー、ハイ殺処分ですって。それは絶対にごめんこうむりたい。
待てよ、妊娠のリスクとかはどうなんだ? 結局女性が生むことになるんだし。それに俺はやっぱり付き合うって女性とだけで良いって思う。
けどだ、誘惑されたら絶対に断り切れない自信あるぞ。寧ろ美女美少女に迫られて断れる男って居るのか?
いや、居るんだろうけど、普通無理だろ。と言うかあのメンツ相手じゃ無理だ。
「あー、どうするんだよこれ」
俺が頭を抱えてそう呟くのと、3時間目が始まるチャイムが鳴るのは同時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます