第3話
「うわぁ、もう帰りてぇ」
てくてくと言うか、とぼとぼと言うか。一人寂しく学校に向かいながら思わずそう呟いてしまう。
うん、だって周りはそれこそ青春を謳歌してまーすって感じで楽しそうに談笑しながら登校している。俺は一人寂しく登校している。
それだけでめっちゃ心が折れそうだ。
つい先日まで幼馴染が同情かもしれないけど、一緒に登校してくれていたわけだが。うん、わかるよ。振った相手と一緒なんて気まずいよね。
待ち合わせて一緒に行ってたからとその場所に早めに向かったら、偶々通り掛った幼馴染は笑顔をすぐに気まずいでーすって言わんばかりに曇らせてしまい。挨拶した俺にぺこりと会釈だけして小走りで走り去ってしまわれたのだ。
うん、会釈してくれるだけでも良い子ってのが分かるし。すれ違ったのも偶々だったのも分かる。
だって今までの俺って一度も時間通りに行かずに待たせてたもんね、会うとは思わないよね。
「ああ、帰りてぇ」
思い返しつつまた同じような言葉を繰り返してしまう。
ほんとダメージでかいんだよ、ああいう対応されるって。
更に追い打ちとして俺の事を知っているのだろう相手が、俺の姿を見た瞬間に嫌そうに顔色を変えるところだ。
もう、どんだけだよ。どんだけ嫌われているんだよ。メンタル強くないんだよおじさんは。
いや、今は若いけど今世の俺なんてメンタル豆腐だよ? それが段ボールになったくらいでどちらもボロボロになるよ!
「何考えてんだろう」
現実逃避に走りそうだった自分を戒める為にも、そう呟いた。
ってか豆腐とか段ボールとか意味が分からんわ。
いや、そういう風に表現するのは知ってるけど豆腐は美味しいし、段ボールは便利なんだよ! 俺のメンタルはただただ崩れるだけでもっとなんか、あれだよ。
「何考えてんだろう」
自分に呆れながら俺はそう口にする。落ち込むと変な事を考える癖でもあるのかもしれない。
今世の僕……の癖っぽいな、これは。
って事はだいぶ凹んでるって事でもあり、まだ教室にも辿り着いてないのに先が思いやられる。
一応挨拶するつもりだったんだけど、声が出るかぶっちゃけ不安だ。
そもそもこの状況で気楽に声掛け出来るような性格しているなら、前世の俺は一生独り身って事はなかったかもしれない。
単にウザがられて独り身だったかもしれないけど。
結局何を考えてもネガティブになりそうだったから、ぱしっと音が出るくらい強くほほを叩き。
気持ちを切り替えて教室へと向かう。
無心。そう、俺は無心だ。無心で教室へ向かって笑顔で挨拶するんだ。
何とかプランを立て直し、教室へと向かう。
その道中クラスメイトとすれ違ったのだけど、男女問わず嫌そうな表情を浮かべるか反応なし。
うん、普通に心折れそうだよ。ってか折れたのを何とか立て直しているだけだよ。
さめざめと心の中で涙するが、果たして今の俺はどんな表情を浮かべているのやら。
ぶっちゃけ自分では分からないまま教室へとたどり着いた。
「おはよう」
自分でも思った以上ちゃんと声が出て、少しホッとする。
同時に数人が俺の方を振り返り、緊張で自然と体が震えてしまった。
いや、マジでこう言うのさらっと出来る奴らってすげえ。
ってかだいたいのクラスメイト出来てるよな、皆すげえな。
心の中でクラスメイトに称賛を送る俺に、誰からも声が返ってくることはなかった。
まあ、当然だろうな。意外そうな顔を浮かべた奴もいたけど、他は全員表情を変える事もなかった。
ただ、挨拶できたって事実に妙な達成感を覚え、それはそれで満足しつつ自分の席へと向かう。
うん、嫌な顔をされるのを覚悟してたから、そういう反応が無かっただけでも十分だ。
やはり思い浮かぶ中で最低の反応が返ってくるって身構えて行動するって、こういう時は正解だな。
「上田君おはよう」
「へ?」
だから、唯一意外そうな顔を浮かべてたクラスメイトが挨拶してくれて、俺はまともに言葉を返せなかった。
ヤバいヤバい、想定外すぎてめっちゃ顔が熱い。
全身から冷汗が噴き出るのを自覚しつつ、顔を合わせられなかった。
なんだこれ? 心臓がバクバクするんだが、まるで前世で課長や部長にやり玉にされている感覚だ。
あっ、緊張しているんか。ってもどうする?
「ふーん、なんか感じ変わったね」
おろおろしていたら、クラスメイトからそう言われてしまう。
や、やばい。何か返さないと。
ってか、この子誰だ? 名前、名前は……思い出した!
「高宮たかみや彩あやさん! おはようございます!」
良かったって気持ちからつい大きな声で言ってしまった。
顔もしっかり見て言えたんだけど、声の大きさのせいだろう驚いた表情を浮かべさせてしまった。
どどどど、どしよう。
こんな場合どうするか分からなくて、俺は再びうろたえてしまう。
ほんと世の中の女性と普通に話せる男って、どうやって話すんだよ?
ってか、緊張しすぎて意識してなかったけど、高宮さんってめっちゃ美人じゃね?
すっと目鼻立ちは整っているし、短髪でボーイッシュな感じでそしてスタイルも良い。
って、意識したらなおさら緊張してきた。
「あっと、その。大声出してごめん」
「あ、いや、それは良いんだけどさ」
やばい、どうしていいか分からん。誰か助けてくれ。
あれだ、やったー、前世でモテたかったからモテようってペラペラ喋れる奴コツ教えてくれ。
もう次の言葉出てこないし、相手の顔見れないんだけど。
前世でもコミュ障だった記憶はないけど、そもそも女性と業務連絡以外でほとんど話したことなかったわ。
俺コミュ障だったんだ、うわぁ、助けて!
脳内大パニックの俺は、クスクス笑う声にビクッと全身が震えてしまう。
「いやー、それが演技ならほんと凄いわ。主演男優賞とか狙えるんじゃない?」
割と冷たい声色に、なおさら全身が震えてしまう。
どうしよう、少しでも好印象をと思っていたけどすでに悪印象を与えてしまったらしい。
ってか、確かにこんなおっさんが目の前でおろおろしてたら気分を害しても仕方ないだろう。
どうしてこんな事態になったか何となく把握できたものの、テンパった俺は上手く対応が出来ずおろおろとするばかりだ。
いや、こんなんじゃダメだ。何とか相手の顔を見て……み、見れねぇ。
チラチラと見るので精一杯だったが、そう言えば相手の口のあたりを見たらよいと誰かに言われたこと思い出して実践する事にした。
誰か思い出せないけど、ありがとう! なんとか口なら見てられそうだ。
「そそそそ、そだね。うん、頑張るよ」
なんとか口に出せて少しホッとする。
うん、なんて言ったかよく分からんが、何も口にしないよりましだろう。
もう終わり、終わりだ。
もう現状でキャパオーバーだから、席に座ろうそうしよう。
自己完結した俺は、高宮さんの反応をろく確認せず、視線を下に向けて横を通り抜けようとする。
俺の席まですぐだし、これであさのミッションはコンプリートだ。
そう思ったのだが。
「へぇー、面白い事言うね。じゃあ手伝って上げようか?」
恐ろしい事に、なにかしら口にして高宮さんが俺の方に手を掛けたのだった!
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