15 It was a dream, isn’t it?

 現実ではほとんど体験したことのない高さだ。ここから飛ぶなんて、人生で一度もあってはならない。けれど今はそんなことを言っていられるような状況でもない。これが本当に夢ならば、夢の中での衝撃で私は目を覚ましてくれるはずだ。そうでなくても、この崖から逃げることはできるだろう。

 後ろから彼の声が絶えず聞こえている。私を探しているのだろう。私のいる正確な場所は彼にはわからない、そういうことか。私の夢の中なのだから、彼がすぐに私を見つけることはできない。本当に?

 わからない。全てが混ざっていって、私の中で渦巻いている。

 地平線がぐにゃりと歪んで、今立っていられるのが不思議なくらいだ。世界は霧に包まれて、見えなくなっていく。崖に背を向けたまま、落ちていく。

 最後に見えたのは、彼の心配するような不思議な顔。聞こえたのは彼の悲しそうな泣き声。

 ──彼は、結局誰だったのだろう。


 ハッと目を覚ますと、そこは見知った保健室だった。やっと、長い悪夢から目が覚めたのだ。ふと横を見ると、先生が眉を八の字に曲げてこちらを見ている。何となく、安心感を覚える。

「あら、起きたのね……良かった」

「先生」

 既視感があるのは仕方のないこと。夢の中で同じことを体験しているのだから。

「もう体調は大丈夫そうかしら? 授業中に倒れたらしいじゃないの」

「……そうでしたっけ」

「もしかして、頭打った訳じゃないわよね」

「いいえ、それは……大丈夫だと」

 同じことを繰り返している。既視感があるなんてものじゃない。何故だろう。何度も何度も同じ記憶を辿っているような気がする。保健室から始まって、彼に追いかけられて、それから飛び降りる。何十回も、何百回も繰り返し同じことをしている、そんな気がするのだ。

「自分では大丈夫だと思っていても、何かあってはいけないから、今日は早く──」

「先生、これは何回目ですか」

 自分でもおかしな質問をしたと思う。

「何、回目……? 何を言っているの?」

 私だけがループしているのか、それともしらを切っているのか。どちらでも良い。ここから抜け出す方法を早く見つけ出さなくては。

「すみません、何でもないです」

「本当に頭を打った訳じゃないのよね?」

「大丈夫です。それじゃあ、行かなくちゃならないので」

 扉を閉める。心配そうな先生の顔を見つける。

 あぁ、まただ。またなんだ。私は何度もこの風景を見ている。これからもう何度目かの彼との追いかけっこをしなくちゃならない。負けたらもう一度。勝てたなら、抜け出せるのだろうか。

 強く握った拳で足を叩く。何度でも戦ってやる。勝つまでずっと挑んでやる。最後は私が勝つんだから。


Ending4 『It was a dream, isn’t it?』

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