実は俺、画家なんだ。







少し小さな、白い家。


周りには本屋と公園と、チェーン店の食べ物屋さんがちょうど良く並んでおり、息抜きをするには程よい場所にあった。


「じゃあちょっと待ってて下さい」


今あまり使っていない部屋へと男を案内し、1度部屋を出る。洗面所から消毒液と絆創膏、それから少し濡らしたタオルを用意した。

一応風呂も沸かしておこう、と思い岸本は蛇口を捻って湯を張る準備をした。



部屋へ戻ると男は真ん中で居心地悪そうに正座をして縮こまっていた。

タオルで顔を拭い、消毒液を傷口につければ、少し痛そうに顔を歪めた。


「さっきの人達は知り合い?」


「いえ…」


「じゃあカツアゲみたいな?」


「まあ、そんなところ…」



まじまじと顔を見ると、男はなかなか整った顔をしている。程よく通る鼻筋は柔らかく、一重の目は少し伏せると長くて細い睫毛がどうしようもなく際立つ。薄めの唇は、少し荒れていて、皮が剥け始めており、見ている方が痛い。


「失礼だけど、君、いくつ?」


「20、です。大学生」


「ごめんね、16くらいだと思ってた」


「…別に」


気にしてないですよ、というふうに目を瞑る。

自分の恥を消し去りたくて、消毒をして絆創膏を貼ることに集中した。


「家はどこ?」


「田子の浦の方にあります」


「田子の浦?」


「はい、実家です。今日は一人暮らししようと思って家探ししてたんです」


「じゃあさ、今日は泊まっていきなよ」


もう夜は遅いし、今どき男だって誘拐される時代だし。このまま帰すのは少し心配であった。


「え…、でも大丈夫ですか?」


「ここには俺しかいないし、部屋もあるし」


風呂も沸かしてるからさ、と消毒液や絆創膏を片付け、男に笑いかける。



「服もいつもワンサイズ大きめのを買うんだ、だから入ると思うよ」


「じゃあ、」



お世話になります、と頭を下げる。


「服と布団、持ってくるね。ここ好きにしていいから」


と、もう一度部屋を後にした。

お茶でも淹れるか、と湯を沸かしたり、お風呂の蛇口を止めたりと、色々してるうちにだいぶ経ってしまった。少し早歩きして部屋に戻れば、男は机の方にいた。


そこには、今は使ってないスケッチブックと画材達がある。

そっと覗けば、鉛筆で描かれた女の人に、水彩絵の具で、胸元だけ青や緑で塗られていた。

その絵は柔らかく、美しく、なんとも寂しい絵であった。


「すごい…」


思わず声を漏らせば、男は驚いて勢いよく振り返る。


「す、すみません、勝手に…」


言い訳をしようとしどろもどろになる男を見るのは大変面白く、なんだか愛おしくて笑ってしまう。


「いや、謝らなくてもいいじゃん。それ今は使ってないし」


「え、っと…なんでスケッチブック、」



「ああ、実は俺画家なんだ」



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