そばで眠る君を待つ
楠木佐久
家、近いんで手当てしますよ。
1月の空気はとても寒く、体の芯まで冷やしてしまう。
夜は特に冷え込み、凍ってしまいそうになる。
まあ、雪も降らないこの土地でこんなことを言うのは少し甘えかもしれないが。
バイト帰りの岸本優希は、そんなことを考えながら、向かい風と戦っていた。
「でも、空は綺麗なんだよなあ…」
上を向けば、冬の大三角を初めとする星たちや、少し欠けた月が厚手のコートやマフラーに身を包んだ1人の寂しい男を出迎えてくれる。
とても美しく魅力的だが、疲労した冷たい体にはちっとも響かない。
早く帰ろうと、気晴らしに流行りの邦楽を歌おうとした時だった。
「なんか、騒がしいな…」
いつも通る公園は、いつもより騒がしい。
危険な気がすると、そう思った岸本はそっと公園を覗く。
すると、そこには男が4人ほどいた。どうやら1人の男を3人が囲み、罵声を浴びせながら殴りかかっているらしい。
咄嗟に岸本はスマホを片手にその現場に近づくことにした。
「ちょっとお兄さん方」
「あ?なんだよ、邪魔すんじゃねえ」
「あっちいってろ」
と、男たちはいっせいに振り返り、今度は岸本に文句を言い始めた。
「ちょっとやりすぎだと思うんですよね、その辺にしといた方がいいんじゃないですか?」
岸本は男達にスマホを見せる。
液晶画面には「110」と表示され、ボタンを押せばかかるようになっていた。
「警察、電話しますよ?」
するとバツが悪そうにした男達は、1人の男を蹴り飛ばして帰って行った。
岸本は男の元へ駆け寄り、手を貸した。
「大丈夫ですか?」
顔を砂や血で汚し、ボロボロになった彼はよろけながら立ち上がる。
「家、近いんで手当しますよ」
岸本は返事も聞かず、男を強引に家へと引っ張って行った。
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