第31話
軍服姿の偽大佐の大きな背中から、青いワンピースを着た少女が笑いながら出てきた。
変わらず瞳の動かない、死んだ魚のような目をしている。
そしてケイスの方にその目を向け、併せて右腕もケイスに向けて伸ばしはじめた。
その腕が既に銃の形をしている。
「チッ……クソッ……」
「シケイダが『キメラ度が上がる』と言ってましたね。更に強く成ったと思います。元々ブロンドは人形ですから、全身強化されていたら目や口にも注射弾は刺さらないでしょう。もう、勝ち目は有りません」
「いや、ブロンドの
リンナは冷静な表情のまま勝算がないと判断したが、ケイスは家族を助けてくれたブロンドを倒した相手が許せず、勝負を諦めなかった。エアガンを構え、口を開けるタイミングを見計らう。口内に注射弾を打ち込む気だ。
偽大佐の皮を脱ぎ捨てた新ブロンドは、エアガンを向けるケイスなんかお構いなしに、その粘液塗れの口をゆっくり開けた。
「ケイスさん。腕かラこんなノ出るように成リました。これ、何ですカ?」
「はい?」
引き金を引こうとしていたケイスの人差し指が、その声を聞いて慌てて止まる。
「あれ?さっキ、ノゾミさんが潰した人、消えましタね。何処行きましタ」
「……ブロンド。お前はブロンドなのか?」
「違いまス。ノゾミさんでス」
「ブロンドだ。どういう事だ?呑み込まれたのはブロンドの方だろ?」
この事態にシケイダもキョトンとしている。ブロンド本人も意味が分からず、腕からモーニングスターや蛇を出して遊び始めた。
「
「えっ?リンナ、どういう事だ?」
「さっきブロンドは『ケイスさんの声は覚えていた』と言ってましたね」
「ああ……でも考えたら確かに妙だ。あいつは無機物の人形だったんだから、俺の事を覚えているはずがねえ」
「ブロンドの元の人形には、音声を認識し、学習するAIチップが入っていたはずです。そのAIがケイスさんの声を覚えていた事に成ります。つまり人形の時から自我が芽生えてたのかも知れません。そしてAIチップがモルティングマンの体内に入ると、モルティングマンはAIを優先して脳細胞に活用してしまうのではないでしょうか?だからチップ本体が壊れないかぎり、ブロンドは他のモルティングマンに食されても、脳はブロンドのままに成ってしまうのでは……」
「まさか!?どういう科学反応でそう成るんだ?」
「解りません。ですが、おそらく……」
「おそらく?」
「ケイリーちゃんが神様にお願いしたのでしょう。『パパにどうしても会いたい』って」
「ハハッ!
「凄い!凄い!これって凄い進化だよね?」
シケイダが嬉しそうに手を叩いていた。
正体を知らなければ、研究所に遊びに来ているだけの、只の無邪気な子供に見える。
「どのAIでも可能なのかな?ブロンドさんだけの突然変異なのかな?色々調べてみたいね」
「ああ、シケイダ。さっきはお前らだけしか当たりの無い卑怯なルートボックスって言って悪かったな。取り消すぜ。どうやら娘が大当たりの超レアを当ててしまったようだ。お前には関係ない話だけどな」
「そんな事ないよ。ブロンドさん!僕がパパだよ。覚えてない?」
「違いまス。パパさんはケイスさんでス」
「シケイダさん。日本には『産みの親より育ての親』という諺が有ります。そして産まれたばかりの子を直ぐに戦場に向かわせるような親を『毒親』と言うそうです」
「一般生物の在り方としては、僕は間違ってないけどね。まあ、いいや。ケイスさんの細胞を取り組んだら僕をパパと呼んでくれるはずだから」
「させると思うか?」
「大佐が居なく成っても僕達の方がまだ圧倒的有利だよ」
地面が急に揺れだした。駐車場のコンクリートを壊し、中から巨大なモグラや蝉の幼虫が無数に現れる。その数は百匹以上。ケイス達はまたたく間に取り囲まれた。
「ブロンド!!」
「ノゾミさんでス!!」
「其処のクール美人博士を連れて逃げてくれ!」
そう言ってケイスは自分の髪の毛を数本毟り取り、ブロンドに差し出した。
「俺に化けるには、これだけ有れば足りるか?」
「ケイスさんに成るのでスか?」
「ブロンド……お前のことを殺そうとして悪かったな。そして、家族を助けてくれて本当に有難う。できたら、これからも俺の代わりに妻とケイリーを守ってくれないだろうか?」
「ケイスさん?」
「日本に戻って二人に会ったら、俺に化けてこう伝えてくれ。『パパはお前達を愛してた』と……」
「ケイスさん!駄目でス!ノゾミさんと一緒に帰リます!」
「俺は死んだ仲間や市民達の為にも、ここを逃げる訳にはいかない。家族が生きている事が分かっただけで俺は充分さあ」
「ケイリーとの約束でス!必ズ連れて帰りまス!」
「お前、俺の事を『パパ』だと言ってくれたよな?娘はパパの言うことを聞くもんだぜ!ここはリンナと共に逃げろ。お前は人類にとって最後の
「……パパさん」
ケイスとブロンドが会話している間に、モルティングメンの数は更に増えていた。逃げ場はもう、空しか無い程に。
「パパさん。周りニ居るのはエイリアンですか?」
「そうだ!生態系を壊す
「ノゾミさんは、エイリアンを勇者と共ニ倒す魔法少女でス」
モグラとミミズの姿をしたモルティングマンがケイスに襲って来た。
ケイスが撃とうとしたが、それよりも早くブロンドが腕のモーニングスターで2体を弾き飛ばした。凄い腕力だった。見ると腕の筋肉はゴリラのように盛り上がっている。
「おい!ノゾミ!お前は戦うな!」
「嫌でス!パパさんと帰るんでス!」
「俺よりケイリーの言う事を聞くのか?」
「違いまス。ノゾミさんガ、又家族4人で暮らしたイからでス」
「……随分人間らしく
「私も逃げるとは一言も言ってませんよ」
そう言いながらリンナは手を差し出していた。
「オート拳銃を貸して下さい。秘密兵器はシケイダ用に取っておきましょう」
「……そうだったな、リンナ。全員で力を合わせて戦う約束だったな」
急にケイスの横で『バンバン』という銃声が響いた。
見るとブロンドが明後日の方向に銃を撃っている。ケイスは慌ててブロンドの銃に成った方の腕を押さえた。
「出鱈目に撃つんじゃない。いいか、見とけ!こうしてフロントサイトを良く見て、狙いを定めて撃つんだ!」
ケイスの銃から放たれた弾丸は、的確にモルティングメン達の急所を貫いていった。
「ハイ。分かりましタ」
ブロンドが真似をして狙いを定めて腕の銃で弾丸を放つ。弾丸は見事に命中していった。
「良いぞ!流石、俺の娘だ。筋がいい!その調子でエイリアンを全部倒すぞ!」
「ハイ、パパさん!」
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