第24話
ブロックの顔に赤い湿疹が現れた。熱が有るのか発汗がひどく、顔色が悪い。隣のリンナに「休んでいなさい」と、言われてもブロックは聞く耳を持たなかった。目の前の正体を現したダンが、終始余裕の笑顔なのが癪に障ってしかたないのだ。
「野郎……さっきの攻撃で、俺に毒を注入しやがったな……」
「寄生虫をプレゼントした。ジワジワ苦しんで死ぬのはお嫌いかな?即死の方がお好みだったのかな?好きな方を選べば良い。選択権は君にある」
「うるせー!てめえが死にやがれ!」
ブロックがマシンガンを構えた瞬間、ダンのカテーテルに成っていた右手が肘まで裂けた。そして中から巨大な解剖用メスが現れる。
「なっ?俺の持ってたメスか?何で右手だけ変わったんだ?」
「
そう言ってダンは物凄い速さでブロックの前まで跳躍し、巨大メスに変わった右手でブロックを袈裟がけした。
切られたブロックはマシンガンを撃つ間もなく、血を飛ばしながら仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
ダンはブロックを切り裂いた巨大メスの右手を、今度はエアガンを構えるリンナに向ける。
ここまで僅か1秒の出来事。リンナも引き金を引く間が無かった。
「後は君一人だね。思い残す事はあるかね?君に敬意を表して聞いてあげよう。わたしも君に聞きたい事が有るので」
「感謝致します。では、シケイダとブロンドは何者なのでしょう?他のモルティングマンとは何か違うのでしょうか?」
「シケイダは我々の親だ。モルティングマン一号だな。他のモルティングマンはシケイダの子供か子孫にあたる。正確に言えば我々に雌雄は無いから、全員シケイダのクローンに成るのかな。我々は他生物から頂いた遺伝子によって性格は変わるみたいだが、基本的にはシケイダの意志を引き継ぐ」
「なるほど。では、ブロンドはそのシケイダの意志に背いたのでしょうか?」
「そうなんだ。いくらシケイダが呼びかけても反応しない。勝手な行動ばかりする。理由が我々にも分からないんだよ。それでブロンドが追いかけているケイス君に何かその理由が有ると思って、この間の会議であんな質問をしたんだ。君はどう思う?我々の事を狂わす超能力を持った人間なんて、本当に実在すると思うかね?」
「さあ?私には答えようが有りません。私は科学者ですので、超自然能力は否定する立場ですから」
「ふむふむ。いや、わたしも只の突然変異だとは思う。超能力だのUMAだのは、わたしも信じないタチだからな。あと、わたしからの質問の本題なんだが、大統領は今どちらに居られるのかな?」
「ホワイトハウスだと思います」
「ホワイトハウスは、もう人が住める状態では無いだろ?」
「表向きはそうです。でも、ホワイトハウスは他にも存在するかも知れませんよ」
「うむ。なら噂の地下に隠れているのかな?」
「隠れているのでは無く、勝機を伺っているのでしょうね」
「まだ抵抗する気か……まあ良いか。他に君から質問は?」
「シケイダの言ってる『地球が動き出す』の意味は?」
「それは君が死んでからでも分かると思う。シケイダは、君も気に入ってるからね」
「どういう事です?」
「君とわたしは一つに成るって事だ」
いきなりダンのリンナに向けていた大型メスの右手が肘から折れた。折れた肘の中から粘液を纏った植物の蔦が5本伸びてきて、リンナの手足に絡みつく。リンナは手足を完全に束縛された。
「では宣言通りに生きたまま皮を剥いであげよう。そして君だけは、時間をかけてゆっくりチュウチュウと体液を吸ってあげるよ。君の体液は実に美味しそうだから」
そう言ってダンは左手を白衣のポケットに突っ込むと、血の付いた大きなハンティングナイフを取り出した。
ナイフは研究所に居た職員の首を切断するのに使用したのだろう。大勢の人間の首を切ったので、酷く刃毀れをしている。切れ味が鈍い刃物は中々切れなくて痛みが増すのだが、それを分かっているからこそダンはそのナイフを使うのだ。
そんなナイフを見ても、リンナは怯える素振りを見せなかった。変わらないクールな表情のまま、ダンを蔑むような目で見ている。
こんな敵に殺られたくは無いと思い、リンナは何とかエアガンの引き金を引こうとするが、蔦の一本が右手の人差し指にしっかりと絡みつき、どうしても動かすことができない。
「そうだ。どうせなら元部下に全身の皮を剥がされ、そしてゆっくり全身の血や体液をチュウチュウされるって言うのはどうだい?面白い趣向だと思うぞ」
「元部下?」
ダンの頭が割れた。
そして胴体の中から別の人間の頭が出て来る。
粘液塗れのダンの新しい顔が、リンナの方を向いた。
その目の焦点は合っていないが、今にも涙が溢れそうに成っている。
リンナが見慣れた顔だ。
つい先程、オフィスルームで会話をしていた部下だ。
ダンは頭だけジェミーに変態したのだ。
「先ずは接吻をしよう。君達は仲が良かったからね。そして口付を交わしながら舌先の口針で、君の胃や腸の内容物を全て吸い出してあげようじゃないか」
顔はジェミーだが、声は低音が心地よいダンの声のままだ。言ってる内容は下衆で不愉快極まりないが。
流石のリンナもダンの悪趣味に、怒りの感情が沸々とわいてくる。
そんなリンナの感情など御構いなしに、ジェミーの口は開き、舌先の口針がゆっくり伸びだした。
リンナは口を閉じて抵抗するが、口針は無理やり口内に侵入する。
生臭い口針が食道まで入ってくると、リンナは堪らず嗚咽しそうになった。
「さあ、君の胃酸でドロドロに溶けた朝ご飯をいただくよ」
何処から声を出してるのか、口針を出したままのジェミー顔のダンが喋る。
そしてナイフを持つ手が上がった。
「接吻したまま皮を剥いであげよう。少しづつ……少しづつ……君のその鉄仮面をズタズタにしてあげようじゃないか。泣き叫ぶほどに……」
血塗れのナイフが、リンナの顔に迫る。
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