第22話
ショットガンを持った助手2人を先頭に、リンナとブロックは別館から少し離れた一面芝生の広場まで逃げ込む。そこで一時待機してケイス達を待つことにしたのだ。
普段運動不足のブロックは多量の汗を流し、肩を上下に動かすほど息を切らしている。汗一つかいてないリンナとは対照的だ。
「ハァ、ハァ……こ、ここ迄来りゃ大丈夫だろ」
そう言ってブロックは起爆装置に成っている端末を取り出し、迷いもなく爆破スイッチを押した。
「何をするんです!まだケイスさん達が中に居るんですよ!」
「大丈夫だろ。火災が起こったとしても直ぐに可燃性ガスに引火する訳でもない。奴等もすぐ出てくるさ」
「化学消防車も手配しときます」
「それよりアンタ。さっき自分もダンを怪しんでいたと言ってたよな?国は何か掴んでいたのか?」
「いいえ。あくまで私個人の見解です。私は、彼等モルティングマンが人工物に化けれる事が分かった時から、知能がかなり発達した生物だと断定していました。ならば人間の戦闘力を侮っていない彼等は、工作活動を必ず行なうはずです。私は直ぐにバレそうな政治家や軍幹部に化けるより、疑われにくい立場の人物を選ぶのではないかと考えました。それでモルティングマン退治を研究する科学者に化ける可能性が高いと踏んだのです。向こうからしたら何処まで人間側が自分達の事を理解しているかも、情報が入りやすいですからね。私は世界中のモルティングマンに関する論文を発表した科学者を中心に調べ、この西海岸生物科学研究所のダン教授に白羽の矢を立てたのです。私からしたら論文の中身が当たり障りの無い内容でしたから。ですが局の大半が私の意見に否定的でした。それで上層部に相談し、諜報を兼ねてココで研究を続けたいとお願いしたのです」
「なるほど。アンタがこの研究所に国から派遣されるって、変だと思ってたんだ。表向きはココが安全だからとか言ってたけど、やっぱり裏が有ったんだな」
「彼等の情報が欲しくて研究を続けながら半年間観察をしてましたが、まさか卵を隠し産むような大胆な行動をしているとは思いませんでした」
「ぐはあああああぁぁぁ……」
「あぐぐぐぐぐぅぅぅぅ……」
リンナ達が話し込んでる最中、突然助手の2人の呻き声が聞こえた。
リンナとブロックが振り向くと、2人の助手は銃を地面に落とし、見る見る痩せ細っていくところだった。その目や鼻にチューブのような物が突き刺さっている。
2人は瞬く間に骨と皮状態に成り、地面に崩れ落ちた。
崩れ落ちた2人の向こう側に、人が立っている。
白衣を着たダンだ。
2人に突き刺さっていたチューブは、ダンの右手の5本の指から伸びたものだった。
体液を吸い尽くしたチューブは、まるで生きたミミズのようにウネウネと動いている。
普通の人間の指から生えて良い代物では、決してない。
「ダン!!やっと正体を現しやがったなっ!!」
サブマシンガンを発射しようとしたブロックだが、安全装置がどこか分からず戸惑っている間に喉元に何かが突き刺さる。それはダンの口の中から伸びた口針で、体液を吸い出そうとしていた。
ブロックは慌ててポケットから解剖用メスを取り出し、口針に突き刺す。口針はブロックの喉元から離れ、刺さった解剖用メスごと口の中に戻っていった。
「往生際が悪いな、ブロック博士。他の皆んなは大人しく、わたしの栄養に成ったよ」
そう言ってダンは白衣を広げて見せた。内側には人間の頭の生皮が、無数に貼り付けて有った。全て研究所内で働いていた人達の皮だ。
「ジェミー……」
リンナは貼り付けられた皮の一枚を見て、自分の部下の頭の皮だと気付き、研究所内で何が起こったかを察した。
「大統領直属の科学研究開発局からお越しの生物兵器担当長、リンナ・ミネハタ博士。どうかね。わたし達を絶滅させる為のウイルス兵器は完成したかね?」
「……さあ、どうでしょう?」
「さっきベニーが取りに行ったのがそれだろ?ベニーが無事に脱出できれば良いけど、果たして別館から出れるかな?」
「別館の地下4階の部屋に、椅子が3脚ありました。後の2脚はどなたのです?」
「……さあ、誰のだろう?」
「まあ、良いでしょう。まさか貴方が自ら正体を現すとは思ってませんでした。本当に迂闊です。犠牲に成った研究所内の方々には、大変申し訳ないことをしました」
「君が責任を感じる事は無い。殺したのは、わたしなんだから。今までなら君達に卵の飼育場が見つかっても、誤魔化し通すつもりだった。けど、今日がもう祭りなのでね」
「祭り?」
「この街は今から、陸側と海側の両方から一斉攻撃を受ける。大変申し訳ないが、この街の人間と人間文化は消滅してもらう」
「そうでしたか。だったら軍のこちらの要請は止めて、街の守りに徹してもらいましょう。貴方は私一人で倒します」
「随分そのウイルス兵器に自信が有るみたいだな。良いだろう。因みにわたしは現在、人間とアサシンバグ(サシガメ)と留置針カテーテルの
「昆虫界切っての嫌われ者、アサシンバグでしたか。似非紳士の偽ダン教授にもっとも相応しい昆虫です」
「褒め言葉を有難う。お礼に君の頭の皮は、生きたまま剥いであげよう」
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