第21話
全員がそれぞれの武器を構えた。
ケイスがカービン銃を。
リンナが注射弾のエアガンを。
ヒットガイがトマホークを。
助手の2人がショットガンを。
そしてブロックが起爆装置に成っているパソコン端末を。
「刈り上げっ!それ、絶対押すなよ!俺達まで吹っ飛ぶだろっ!」
「うるせー!押されたく無かったら絶対倒せよ!へっぽこ!」
ケイスとヒットガイが扉に近づく。
お互い頷いた後、ケイスが暗証番号を入れて扉を開けた。
大きな扉は静かに開き、全員に緊張が走る。
だが、扉の外には誰も居なかった。
そう、誰も……。
「ロールズはどこ行った?」
見張りのロールズが消えていた。
サーマルスコープで確認しても、ロールズは近くに居ない。他に生物らしき物も近くに居ないみたいだ。
床にはロールズが持っていたサブマシンガンだけが落ちていた。
「サブマシンガンも冷めたままだ。一発も撃たずにヤラれたか?敵は恐ろしく速いか、それとも飛び道具を使うのか……生きててくれれば良いが……」
「死んだに決まってるだろ!お前ら!ロールズが現れても迷わず撃てよ!」
「カードキーを取られたのは厄介ですね。まあ、軍なら何とか開けれるでしょうが」
「この研究所は部下に対してクールな博士ばっかりだな!」
ケイスはやれやれというジェスチャーをした。そして落ちていたサブマシンガンを拾うと、それをブロックに渡しながら「間違っても人間は撃つなよ」と、強く釘を刺した。
「とにかく急いでココを出ましょう。どんなタイプの相手か全く想像できませんので」
ケイスが先頭に立って皆を階段の方へと誘導する。ブロックは反対側のエレベーターの方に向おうとしてたので戸惑った。
「エレベーターを使わないのか?」
「途中で止められたら終わりだ。狭い空間では奴等に勝てない。待ち伏せの危険性も高いしな」
6人は辺りを警戒しながら階段を使って地下3階に上がった。
「俺はベニーを迎えに行く。皆んなは、先に外に出といてくれ」
「一人では危険です。ヒットガイさんと同行して下さい」
「俺とヒットガイが抜けて、そっちは大丈夫か?」
「ご安心を。私が持っている武器は例の秘密兵器です」
「よっぽど自信あるんだな。じゃあ、頼むぜ」
こうしてリンナ達は階段で更に上へ、ケイス達は地下3階のラボへとそれぞれ別れた。
ケイス達が用心しながら廊下を曲がると、ラボ前に誰かが立っていた。
モデルのように背の高いスーツ姿の女性だ。
ケイスはその綺麗な女性に見覚えが有った。
「無事だったか!そこで何してんだ!」
「あっ!ケイスさん!ちょうど良かった!実はベニーさんが勝手にカードキーを持ち出してしまい……地下4階のキーは持ち出し禁止に成っているんです。私がダニエル教授に叱られてしまいます」
「そうなのか!悪い、悪い!ちょっと待ってくれ!ベニーに説教するから!」
「ありがとうございます!」
「ところで君は、何時からモルティングマンなんだい?」
「モルティングマン?何のことです?まさかっ!私がモルティングマンだと言うんですか?!」
女性が驚いた次の瞬間、ケイスの銃から弾丸が発射される。
弾は女性の腹部に命中し、粘液が飛び散る。
そして女性の綺麗な顔は真ん中から割れて、中からロールズの顔が現れた。
「チッ!ロールズを殺しやがったな!」
「どうして私がモルティングマンだと、お分かりに成られました?」
中から出てきたロールズは、女性の声のまま聞いてきた。
「体温が42度以上有るんだよ!人間なら死んでるだろうが!お前、脱皮したばかりだったんだろ?代謝にはエネルギーが必要だろうからな!」
「失礼致しました。以後気をつけます」
「悪いが次は無い。ロールズの
「そんなこと
「そうだな。じゃあ、お互い仇討ちと行こうじゃないか」
「流石ケイスさん。『お前達が先に仕掛けたんだろ』って、野暮なことは言わないんですね。シケイダが気に入るはずです」
「一つ聞きたいんだが、お前が受付嬢として半年前に採用されたのは、リンナがココに配属されるのを知り、リンナの研究を探る為だったのか?」
「ブロック博士がそう言ってたのですね。だいたい合ってます。リンナ博士の監視だけでなく、地下4階の飼育所を守るのがシケイダに言われた私の仕事です」
「そうか。律義にありがとうよ。さあ、もう良いぜ!遠慮せず掛かって来い!」
「私はココより上が良いです。持ち場ですから。1階のロビーで待ってます」
そう言ってロールズの姿をした別館の受付嬢は、物凄い跳躍力で後ろ向きに飛び、エレベーターが有る方に姿を暗ました。
ヒットガイが追おうとしたが、ベニーの救出が先だと引き止める。時間稼ぎは出来たので、リンナ達は既に別館から脱出しただろうという判断も含めてだ。
ケイスはインターフォンで中のベニーに呼びかけた。
「ベニー!聞こえるか!俺だ!ケイスだ!」
暫く返事は無かったが、やがて小さな声が返ってきた。
「オイラの好物は?」
「蟹のガーリックロースト」
「オイラの好きな音楽ジャンルは?」
「沖縄民謡」
ケイスがそう答えると扉が開き、中からクーラーボックスを抱えた今にも泣きそうなベニーが出てきた。
「ヨッヨッヨッ!兄さん良かったー!オイラ死ぬとこだったよぉ!B4に居たら受付の
ベニーが喋っている最中、ケイスはいきなり懐の拳銃を取り出し、そのまま『バーン』という音と共に発砲した。弾はベニーの耳横を掠める。
ベニーは目をこれ以上ないぐらい見開き、大口を開けながら首を大きく振った。
「ヨッ!!ヨッ!?ヨーオッ?!な、何すんだヨッ、あ、兄さん!?死ぬとこだったヨッ!!」
「よしっ!そんな変顔はモルティングマンには出来ない。間違いなくベニーだ!」
ケイスは笑いながらベニーを宥めた。そして急ぐよう促し、3人は階段の方に向かう。
階段を上がり、地上1階に着くと、ロビーまでは何事もなく辿り着けた。だが……。
「ん?床が濡れている……水か?」
「ヨッヨッヨッ!兄さん!水槽が全部割られてる!」
ロビーの大きな水槽は全て破壊され、中の魚や海藻は水と共に床に広がっていた。そしてケイスはそれを見てある事に気付く。
「蛸は?ミミックオクトパスが居ないぞ!」
「本当だぁ。どっかに這って逃げたかヨッ?」
「……なあ、ベニー」
「ヨッ?」
「前にリンナからモルティングマンが変態するのは脊椎動物ばかりで、昆虫や軟体動物に化けた報告が無いと聞いたんだが……」
「ああ、確かにそうだヨッ。モルティングマンが脊椎動物以外の動植物に変態したという話は、オイラ聞いた事ないヨッ」
「それって、脊椎動物以外に変態した姿を見た者は、全員殺されたからじゃないのか?」
「ヨッ?」
ケイスとヒットガイが武器を構えながら緊張の面持ちでベニーの後方を見ていたので、ベニーも恐る恐る後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、ゼブラストライプ模様のライダースーツを着た、背の高い細みの女性だった。但し、スタイルの他に女性と判断する材料はない。何故なら顔が無いからだ。頭は蛸の胴部のように成っており、ぶよぶよしたのっぺらぼうと言うしか表現ができない。そして手は無く、代わりに吸盤の付いた細長いゼブラ柄の触手が何本も出ていて、それがウネウネと動いている。
しましま模様の蛸人間が其処に居た。
「ヨッヨッヨッヨッヨッヨッ……た、只でさえ擬態が得意なモルティングマンが、ミ、ミミックオクトパスと……」
「お前は受付のお嬢ちゃんなのか?こりゃまた都市伝説に出てきそうな姿に成りやがったな。子供じゃなくても泣いて逃げてえよ!」
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