最強生物達との戦い

第18話

「エリック、どうだ?海に異変は無いか?」


「はい!こちらは今の所、異常ありません!」


「スミス、陸側はどうだ?」


「こちらも異常なしでーす。どうぞ」


 ケイスはMMSRのそれぞれの隊長に現状を確認した。対モルティングマン用レンジャー部隊の彼等は、交代で常に街の厳重警備を行なっている。彼等の緊張感は街全体に伝わっていた。


 あれからブロンドとシケイダの目撃談は暫く聞かない。それどころか、ここ数日各国からモルティングマンによる被害の情報が入らないのだ。ケイス達は逆に不気味で成らなかった。


「ケ、ケイスさん。大規模な奇襲の為、一箇所に集まっているのでしょうか?」


「おそらくな」


「ヨッヨッヨッ、いよいよかよぉ。武者震いがするねぇ」


 ケイス、ジェミー、ベニーの3人は、何時ものようにオフィスルームに揃っていた。そこに会議を終えたリンナがヒットガイと共にルーム内に戻って来る。リンナは箱を持っており、それをケイスに差し出した。


「ケイスさん。先程、局から貴方へとコレを預かりました。最新型みたいです」


「おっ!サーマルスコープか?俺が持ってたのは奴等に壊されたから助かるぜ」


 ケイスは手渡された箱を開け、中からヘルメット取り付け型のサーマルスコープを取り出すと、マニュアルも読まずに慣れた手つきで操作確認をしていく。


「モルティングマンは体温を自在に操れる平温動物です。その温度幅は広く、人間に化けている時は36度位に成るよう調整しますので、温度センサーでは区別がつきません。ですが彼等も動物です。動いている以上は一定の体温があります。ですから人工物に化けている時は温度で判断して下さい」


「なるほど。それは助かる情報だぜ」


「それとベニー。やっと使用許可が出ました。別館にアレを取りに行って貰えますか?」


「えっ?オイラ一人でぇ?」


「今、別館にはブロック室長も居ます。何か有ったら警報装置を鳴らしなさい」


「ヨッヨッヨッ……オイラ、あの人苦手なんだよな……」


「モルティングマンの細胞より、刈り上げの吸血の方に気をつけろよ!」


「兄さん!ニンニク持って行った方が良いかなぁ?」


「十字架も忘れんなよ」


 怖いから逆に明るく振る舞うのか、ベニーは陽気にフィンガースナップでリズムを刻みながら別館の方に向かった。

 蔦に覆われた別館内に入り、何時ものようにロビーの受付カウンターでラボに入る為のカードキーを預かろうとしたが、今日は受付嬢が見当たらなかった。


「あり?トイレかヨッ?参ったな?」


 ベニーは水槽内の魚達と睨めっこしながら受付嬢が帰って来るのを暫く待ったが、何時まで待っても帰って来ない。しびれを切らしたベニーはカウンター内に入り、キーボックスを開けた。


「ヨッヨッヨッ、帳面にサインしとけば大丈夫だろうヨっと……あり?これは?」


 何時ものB3ラボのカードキーの隣に見慣れないカードキーが有った。其れにはB4ラボと記されている。


「ヨッヨッヨッ、幽霊が出るガラクタ置き場か……」


 ベニーは好奇心でB4ラボのカードキーも持ち出した。ケイス達との話のネタに成ると思ったからである。一応カウンターには自分が持ち出したと、メモを残して。

 その後、エレベーターに乗ったベニーは過去に一度も押したことの無いB4ボタンを押した。

 エレベーターは他の階に止まることなく、ゆっくり降下する。

 地下4階に着くと扉は静かに開いた。

 静かすぎるぐらいに……。

 エレベーターの中から恐る恐る外を見渡すベニーだったが、とくに他の階と異なった造りでも無かった。


「ヨッヨッヨッ、何だよ!幽霊どころか、ガラクタも無いじゃないかよぉ!がっかりだ!」


 そう言いながらも安堵しているベニーは、もう少し探検したくて無音の地下階を一人歩き出すことにした。歩き出すと靴音だけがやけに響く。


「オヨっ!アレがこのカードキーの部屋かなぁ?」


 広い戸口の部屋の前に来たベニーは、他のラボと同じくカードキーを通すと、暗証番号入力を行う。そして指紋認証もして入口を開けた。

 中はやけに殺風景だった。

 部屋の端に丸椅子が3つ有るだけで、他に何もない。

部屋の中はどこか肌寒く、磯の香りが漂っている。

 どこか薄気味悪い空間だ。

 ベニーはグロテスクな深海魚のホルマリン漬けや、グソクムシみたいな節足動物の剥製が置いて有ると想像していたのだが、正直そんな物よりも遥かに底知れぬ恐怖を感じた。


「ヨッヨッヨッ……絶対この部屋ヤバいヨッ……何か居る気配がするヨッ……」


 ベニーが奥に目をやると、そこには大きな扉が有った。奥には別の部屋が有るみたいだ。

 とてつもない嫌な予感を感じながらも、好奇心には勝てずに、ベニーはその扉を開けて中を見た。其処には……。


「ナッ、ナッ、ナッ!何だこりゃ!?」


 それを見たベニーは慌てて携帯を取り出し、震える手を抑えながらケイスに連絡を入れた。


「よう!どうした?一人じゃ怖いから『やっぱり誰か一緒に来てくれぇ』ってやつか?」


「あ、兄さん……き、聞いてくれ!オ、オイラ地下で大変な物を見ちまった……」


「なんだ?刈り上げた吸血鬼でも見たか?」


「ぜ、絶対にヤバい物なんだ!く、口では説明しづらいから急いで来てくれっ!」


「……いったい何を見た?」


 ベニーの口振りから冗談では無さそうだとケイスは感じた。


「見たら分かるヨッ!とにかく全員で来てくれヨッ!場所は地下4階のラボだ!」


「地下4階?どうしてお前は地下4階に居るんだ?」


「詳しい事は後でぇ!早く――」


 その時、靴音が聞こえた。

 誰もいない筈の地下4階にだ。

 ベニーは歩いておらず、立ち止まっている。

 他にこの地下4階に音を与える生物が居るという事だ。

 靴音は大きく成り、やがてベニーが居る部屋の入口付近で止まった。


「ヨッヨッヨッ!!誰だぁ?!誰か居るのかぁ?!」


「どうした、ベニー?誰か近くに居るのか?」


 ベニーは携帯から聞こえるケイスの問いかけには応えず、入口前をその丸い大きな目で凝視していた。

 やがて入口前に人影が姿を現す。

 あくまでも人影だ……。


「ああ、良かった。アンタかぁ!……いや……違う……ま、ま、まさか!!アンタ、モ、モル、モルティんぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 逃げ出すベニーが持っていた携帯が、床に落ちる。

 その乾いた音が、地下4階に大きく響いた……。

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