第9話
キラキラ輝く細やかなラメは、光を七色に反射させながら、ゆっくりとゆっくりと小さなサンタクロース人形の上へと振り注ぐ。
ジェミーは頬杖をつきながら、その小さなスノードームをぼんやりと夢うつつで眺めていた。
彼女が耳に挿しているイヤホンからは、微かに電子音が歌うクリスマスソングが漏れているが、その歌が彼女の意識に届いているかは定かでない。
「どうだっ!!見つかったか?!」
「はわわわぁっ!!す、すみません!ミネハタ博士!す、す、直ぐに調べまして早急に御報告を……」
「いや、俺が博士みたいなクール美人に見えるか?仕事のしすぎで目が悪く成ってるんじゃねえのか?」
「あっ!ケ、ケイスさん!す、すみません!ハイッ!」
ジェミーはオフィスルームで音楽を聞きながら
よほど普段から叱られているのか、ケイスだと分かっても恐縮したままでいる。
「お昼寝中すまなかったな。それで、俺の家族の情報は?」
「は、はい。ネットで連絡がつく全ての指定避難地の方へは確認をとったのですが、残念ながら該当する方は……」
「そうか……」
「で、でも諦めないで下さい!死亡者リストには名前が有りませんでしたし、連絡が取れない所に避難されてるかも知れません。海外に避難された方も多数おられますので、そちらの方も調べてみます」
「ありがとうよ。けど、アンタの仕事は別に有るんだろ?俺は今はそんなに仕事が無い。奴等に関してのお勉強だけだ。だから自分で探すよ。何処にアクセスしたら良いかだけ教えてくれ」
「あ、はい。でも手分けして探しましょう。その方が早いですから」
「それもそうだな。じゃあ頼むぜ」
ケイスはジェミーの隣の席に座った。
その席は先日、バイクに化けたモルティングマンに食べられた、リンナの先代運転手の席であった。「あの時、リンナの言う通りに直ぐにバイクから離れていれば、あの運転手は助かったかも知れない」ケイスはそう思って負い目を感じていた。彼がリンナに協力して研究所に滞在しようと思ったのは、モルティングマンの情報やお金の事も有るが、実はその事もある。それに家族達の方も自分を探しているかも知れないので、だったら動かずに
「さて、何処の国から調べようかな……ケイリーは日本のアニメが好きだったからな。日本が一番可能性有りそうだな」
「日本のアニメ?ケイリーちゃんはアニメが好きなんですか?」
「ああ、毎日動画とかテレビを見てたよ。特に魔女の子がエイリアンと戦うやつ。えーと……何てタイトルだたっけ?」
「『ウィッチーズ・メッセンジャー』ですね!アタシも大好きなんです!ケイリーちゃんとは気が合いそう!」
「そうなのか?ぜひともケイリーが見つかったら友達に成ってやってくれ。そう言えばアイツ、外に遊びに行く度に変な生き物を見つけてきては、『エイリアンはっけーんー!』とか言って俺の所に持ってくるんだ。ひょっとしたらアンタみたいに将来は生物学者を目指すかも知れない」
「そうなんですか?!アタシもヒーロー物アニメを……」
ジェミーのせっかく綻びだした顔が、再び暗い表情に変わる。何かを思い出したようだ。
「どうした?」
「いえ……私も子供の頃からヒーロー物のアニメやコミックが大好きでした。ヒーローアニメって、よく正義の科学者が出て来ますよね。アタシ、それに憧れちゃって……自分も地球の平和に役立つ科学者をめざそうと、何時しか思うように成っちゃって……」
「ハッハッハ!それじゃあ俺と一緒だ!俺もガキの頃にコミックを読んでヒーローに憧れたんだ。それで大人に成って悪を許さない警察官を選んだんだよ。俺は頭は悪いけど、体力には自信が有ったからな」
「……現実の世界では、流石にゾンビや宇宙人が現れる事は無いと思ってたので、何時か人類の寿命が延びるような世紀の大発見が出来たら良いなあ……って、そんな事を夢見て気楽に過ごしてました。まさか……まさか現実世界がこんな事態に成るなんて……」
「……そうだな。まさかこんな事態に成るなんてな。実はSWETに配属されてからは、事件で発砲したことは一度も無かったんだ。俺達が出動したら犯人は自首するか、自殺するかのどちらかだったからな。なのに、この一年でいったい何発撃ったことか……でも憧れてた正義のヒーローに成るチャンスじゃないか。一緒に頑張って奴等を倒そうぜ」
その言葉にジェミーは首を横に振った。
目にうっすらと涙を溜めながら……。
「アタシ、三ヶ月前に捕獲されたばかりの生きたモルティングマンに初めて会いました。記録を取る為にダン教授やミネハタ博士と同行してたんです。捕獲場所の檻の中には、大型犬に化けたモルティングマンが居ました。見た目は普通の犬でしたし、檻から3メートル以上離れてたので、アタシは完全に油断しながら記録を取ってたんです。そしたら前触れも無く犬の背中が突然割れて、巨大なツノトカゲが出てきたんです!しかも、いきなり目から大量の粘液を吹き飛ばして来ました!!アタシ、粘液を全身に浴びてしまい、恐怖でそのまま気絶しちゃって……」
「うわっ!災難だったが助かって良かったな!奴等の粘液の中にはタンパク質どころか鉄まで溶かすような色んなバクテリアが潜んでるんだろ?俺も防弾チョッキを溶かされた事がある。バイクも食われたしな」
「その場で全身消毒されて何とか助かりました。けど……アタシもう、それからトラウマに成ってしまって、あの細胞が有る別館にも近づけなく成りました。ダン教授やミネハタ博士はアレを見ても顔色変えずに研究を続けてます。本当に凄いです。あの人達こそアニメに出てくるような正義の科学者です。アタシはただの役立たずで、アニメならセリフも無く、1秒でモンスターに殺される只の臆病者なんです……」
「そんなに卑屈になる事はないぜ。アンタの名前、ジェミーだっけ?ジェミーは奴等にそんな目に合わされても辞めずに研究の手伝いをしてんだろ?立派に闘ってるじゃないか。人には、それぞれの闘い方がある。ジェミーはジェミーのやり方で奴等と闘ってくれれば良いんだ」
「ありがとうございます……けどケイスさん。私達って本当に正義側なんでしょうか?」
「ん?どういうこった?」
「聞かれたと思いますが、モルティングマンは海を汚した人間に復讐してるのかも知れないんです。だとしたら正義はモルティングマン側に有って、アタシ達人間は地球の平和を乱す悪側じゃないでしょうか?」
「それは違うぜ。実は正義だの悪だのなんて、人間が自分達の行動を正当化させる為に作った只のお飾りさ。だから人間だけに当てはめりゃいい。ジェミーも知っての通り、生物は何億年も前から自分の種を残す為の殺し合いをずっとして来てる。モルティングマンだって地球の平和の為に人間を襲ってるんじゃない。自分達の種を残す為だ。確かに人間は、お調子にのって環境を破壊してきた。それは反省するべきだろう。だからといって奴等に黙って殺されるのも、おかしな話だろ?」
「アタシもあのモンスターに殺されるのは絶対イヤです!けど、モルティングマンも考えたら可哀想なとこ有るし……話し合いとか出来ないんですかね?」
「話し合い?」
「はい。このままじゃ
「うーん……それが出来たら確かに良いんだが、会話が出来たとしても果たして奴等に理性が有るかな?俺が出会ったモルティングマンは皆んな本能剥き出しだったぞ。それに話し合いが出来るなら国の偉いさんが既にコンタクト取ってると思うし……いや、待てよ……」
ケイスの脳裏に有る人物が頭に浮かんだ。その時扉が開き、リンナが急ぎ足でオフィスルームに入って来る。後ろにヒットガイも着いて来ていた。
「ここから20マイル離れた場所に、例の
ケイスはその言葉を聞いて直ぐに立ち上がり、ロッカーを開け、瞬く間に銃器の装備を行なう。
不安そうな顔をするジェミーに、ケイスはグッドラックのハンドサインを笑顔で送ってから足早に部屋を後にした。
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