2-12 住人B
ラピスはさらに、指の先の先まで力を込めた。そして・・・・・。
「来た来た来た!!これだーっ!!」
ラピスが強い赤い光に包まれると、彼の手にはジュエルウェポン ルビーが握られていた。
「待たせたな、ワンダーランドのアリスさんよ」
「本当にジュエルウェポンの使い手だったのか。おもしろい」
「こっからは本気で行くぜ」
ラピスは刃に炎を走らせた。
アリスは武器を肩に担ぎ、雷を散らせた。
「待ちくたびれたよ」
そして二人は勢いよく武器を振り上げ、走り出した。
鋼の刃がぶつかり合う音が辺りを包む。
「ッチ、こいつの攻撃、こっちが突き返しても・・・一回一回が重すぎる・・・!」
「・・・」
ラピスはアリスのペースに飲まれていた。ラピスがどんなに強く跳ね返しても、顔色を変えない。ラピスは自分だけが一方的に攻撃を受けているような気持ちになった。
二人の激しい戦いを、レインは虚ろな目で見つめていた。
「ああ・・・私も、こんな日々だったな」
「ぴ・・・?」
レインの小さな呟きを、ピポは聞き逃さなかった。
「剣を振りかざす毎日だった。女、子ども見境なく機械のように命を奪っていった」
「ぴぴ・・・」
「でも今はもう、いいんだよな。何も考えなくても」
「ぴ・・・」
『汝、何を求める』
「何も・・・求めなくても」
レインは隣にいたピポを抱きしめた。
「もう疲れたんだ・・・。誰にもならなくていい。
私は・・・どこにでもいる、住人Bで・・・」
ラピスはレインの様子を横目で伺っていた。
「余裕だな。避けながら仲間の心配か」
「・・・うるせえ。余裕なんてねえ!こっちはいつだって全力で!」
「彼女はもう戻らない」
アリスの冷たい言葉を突き返すように、ラピスは声を張り上げた。
「レイーン!!!」
「!」
「お前はレインだ!!!」
「私は・・・」
「どっかの適当な誰かになんて、なれねえ!!お前はレインなんだよ!!」
「もういいんだ。私はここに」
「だったら剣握ってみろよ」
「っ!」
「その剣の前で!!お前は誰でもねえって言えんのかよ・・・!」
レインは背中の剣を引き抜き、じっと見つめた。
『私はもう、誰も殺さない。誰も死なずに済むよう、もっと強くなる・・・!」
』
「もっと・・・強く・・・・・」
強く、強く・・・。
『汝、何を求める』
でも、なんのために?
『何を求める』
何を・・・なんの、ために・・・。
「ウォーミングアップは終わりだ。雷鳴!!!」
ゴロゴロ・・・!
けたたましい雷の音がすると、アリスのジュエルウェポンには眩い光が渦巻いていた。
「あれに当たれば即死だな・・・」
ラピスは意を決して、大技をしかける。素早く手で呪印を作り、地面に紋様を浮かべた。ラピスを中心に、輝く輪が広がり、消えていった。
「悪あがきだな」
アリスは武器を構え、同時に空いた手で雷を飛ばした。ラピスは素早く避けようとしたが、雷のツブテが避けきれず肩に当たった。
「っ肩が・・・!」
「残念だったな」
ラピスの左肩は、痺れて動かない。動きが鈍った瞬間、アリスは勢いよく斬りつけた。そしてラピスの胸を引き裂いた。
しかし・・・。
アリスの目の前から、ラピスが消えていた。確かに当たったと思ったのに、うめき声も聞こえない。
「こっちだ!!」
ラピスは背後から思いっきり斬りかかった。ジュエルウェポンからは溶けるような熱が放出されている。アリスはとっさにバリアを張った。だがあまりの威力に壊れ、ラピスの攻撃は貫通した。
「くっ・・・!!!」
アリスに直撃しなかったものの、彼は右足を大きく損傷した。ひどい火傷で、立つこともままならないだろう。
「なぜ急に消えた」
「さっき張った呪印の範囲内なら俺は自由に動ける」
アリスはラピスの足元を見た。すると、足の下にわずかな赤い光が見えた。地面は光に共鳴するかのように、微弱だが揺れていた。
「・・・なるほど。ジュエルウェポンの魔力を振動させ、足と地面の間に作った若干の隙間で宙に浮く。周囲にも同じ魔力を張って、体を移動させる」
「よく分かったな・・・。俺は氷の上を滑るように、瞬時にこの場を移動できる」
「さっき斬ったのは残像だな」
「分かってんじゃねえか」
「確かに僕は負けていたよ。ここが外の世界なら・・・」
「なに?!」
「ここはワンダーランド。全てはアリスの思い通り」
すると、アリスにできた傷がみるみるうちに回復した。
「それは困るぜアリスさんよぉ・・・」
「君もここの住人になればいい。この世界では痛みも苦しみも、排除できる」
レインはなぜか、アリスのその言葉に反応した。
「痛みも苦しみも・・・排除できる・・・?」
『自分がなんだったか、なにを思っていたのか、なぜここに来たのか。全て忘れる』
『それは困る!改心したばかりなんだ!この罪を忘れるなど・・・あってはならない』
「忘れてはいけない、苦しみ・・・」
レインは剣を見つめた。この剣で一体何人の命を奪ってきたんだ。己の罪を忘れて、一生を過ごすなんて・・・。
一方ラピスは、完全に体力も傷も元に戻ったアリスを前に、立ち尽くしていた。
「くっそ・・・これじゃ何度倒しても、こっちの体力が削れてくだけじゃねえか・・・!戦いじゃ決着付けらんねえ・・・!」
「君は確かに強い。久しぶりに楽しい戦いだ」
アリスはニッコリと笑った。その笑顔に、ラピスはふと思った。なぜ戦っているのかと。
「おい、お前。交渉と行こうぜ」
「なんだそれは」
「俺はオードから頼まれた。アリスを救うようにな」
「あの猫・・・そんなことを」
「なあ、お前もアリスなら、俺が絶対に後悔させねえ。何が起きてんのか知らねえが、俺がなんとかする!それじゃだめか?!」
「・・・どうせこのまま続けても、いずれ君の体力は尽きる。君の気持ちも、強さもよく分かった。だから言おう。僕からも、アリスを救ってほしい」
「?」
「彼女をこの世界から連れ出してやってくれないか」
「お前、なに言って・・・」
「現実は辛く厳しいかもしれない。そして、僕は一生彼女に会うことも、触れることもできない」
「一生会えねえって・・・女のアリスは一体・・・」
「僕は一生かけてあなたを守る。だからどうか、あなたも幸せに生きて欲しいと・・・そう伝えてくれ」
「それはどういう・・・」
「僕は彼女を愛している」
ラピスはアリスに聞きたいことがたくさんあったが、気づけば辺りは真っ暗になっていた。そして、雲の切れ目から満月が顔を覗かせた。
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