2-11 悪役の所作
「ピポ!レインを頼んだぞ」
「ぴ!!」
「無駄だ。彼女は既に心を奪われている。現実に戻りたくないと」
「悪いが俺らはな、そんな後ろ向きに生きてられねえんだよ」
アリスは鼻で笑い、背後にジュエルウェポンを浮かび上がらせた。明らかな敵意に、ラピスは眉を細めた。
「じゃあ前進してみたらどうかな。苦境のないこの世界へ」
「言ってろ!!」
次の瞬間、アリスのジュエルウェポンがラピスに向かって降りかかった。
「くっ!」
ラピスは避けたが、内心かなり焦っていた。武器がないのだ。
アリスはジュエルウェポンを素手で持たず、魔法で操っている。
呪文が得意なのだろうか。遠隔のからの攻撃も余裕でしてくるだろう。
だからと言って、ラピスには太刀打ちできるものが何もない。
ラピスは落ち着いて考えた。
何か突破口があれば・・・。こんな時、レイズならどうにかして突破するはずだ・・・!
その時、脳裏に一つの方法が浮かんだ。
「こんな状況で成功するか分からねえが・・・やってみるしかねえな」
それはラピスが7歳だった頃、レイズに教えてもらった技だ。
レイズはジュエルウェポン サファイアの使い手だった。矢の先端のような刃で、両端に丸い穴が空いており、鉤爪のようになっている。
中央に大きなサファイヤが埋め込まれていて、ラピスの武器と同じく、鉾のような形をしている。
『ジュエルウェポンを引き寄せる?』
『ああ。ワープさせるって方が分かりやすいかもしれねえ!』
『あんな重いのをワープさせるなんて・・・。兄ちゃんって、もしかしてバカ・・・?』
ゴン!!!
『ってえ・・・!!』
レイズはおかまいなしにグーで殴ると、ラピスの頭に大きなたんこぶができた。
『なんか言ったか?』
『・・・いやなにも』
『よし!いい子だ。じゃあよく見てろよ』
レイズは両手を横に大きく開き、瞳を閉じた。少しすると、レイズは青い光をまとい始めた。ラピスはその姿を、目を大きくして見つめた。
しばらくすると、青い光がレイズを覆い尽くした。そして、彼の手にはジュエルウェポンが浮かび上がったのだ。
『ええ!?いつの間に?!すっげえ・・・!』
『へへっ、お前も修行すればできるさ!』
得意げに言うレイズを見て、ラピスは大きな憧れを抱いたのだった。
『これはどういう技なんだ?』
『オーラ引力による物質移動、ってとこだな』
『なんだそれ?』
『ジュエルウェポンに眠る魔力には、オーラが宿ってる。俺のサファイアなら青のオーラだ。魔法の攻撃だって、それを使って出してんだぜ。要するに、同じオーラを身にまとって、自分のいる場所まで引き寄せるんだ』
『でもよ兄ちゃん、家の中にあるなら壊してこっちに向かってこねえのか?』
『ジュエルウェポンは特別だ。人間界の物質ではないから、オーラで分解できるんだ』
『な、なんでそんなもんが今ここにあるんだよ!』
『ま!カッコよく言えば、伝説の武器ってとこだな!』
『すげえ・・・!』
兄貴は簡単そうにやったが、相当集中力のいる技だ。
この緊迫した状況だが・・・一瞬に全力を込めてやるしかない・・・!
ラピスは目を閉じ、体に力を込めた。
ズドン!!
「うおっ!!!」
しかし、アリスは間髪入れず攻撃を仕掛けてくる。ラピスはその度に避けてはいるものの、体制を整える時間が一向に稼げずにいた。
「ちょ!タンマ!」
「タンマだと?お前まさか、本物の馬鹿なのか?」
「いや賢くはないけど!そんなに面と向かって言わんでも!!」
「まったく、君はこの状況が分かっているのか?」
「お前だって分かってねえよ!武器もねえ奴相手に一方的に攻撃して楽しいかよ!」
「ああ、実に愉快だ。お前の焦る様子は見ていておもしろい。もっとやれ」
「いや鬼畜!!!そうじゃなくてね?!いいか!!お前悪役だろ?」
「君が物語の主人公ならそうなる」
「悪役なら悪役らしくキマリを守ってくれないと!」
「キマリ?」
「そうだよ!!ほら、ヒーローがピンチの時、とっさに呪文とか起死回生の技出すだろ?あれ唱えるのに時間かかるじゃんよ!!そんな時見守るのが悪役の仕事!痺れ切らして打っちゃダメ!ちゃんと待ってあげるの!」
「悪役にそんな所作があったとは・・・。勉強不足ですまない」
「別にいいぜ!」
「だが俺の物語では君が悪役だ」
「確かにな・・・。でもよ・・・ジュエルウェポンを持った俺は強いんだぜ」
「・・・ほう」
「勝負はフェアにやろうぜ」
「仕方ないな。少し時間をやる」
「その時間、ありがたく受け取るぜ!」
ラピスは呼吸を整え、一瞬に全てを注ぐ勢いで力を込めた。
・・・兄貴がいた時からすげえ練習したんだ。かなり状況は違うけど、今なら・・・行ける!!!
ラピスの体は、たちまち赤い光に包まれた。瞳を閉じ、ジュエルウェポン ルビーのオーラを胸いっぱいに感じ取る。
「なにをしようとしているの・・・?」
女神は泉の間で、ラピスの様子を不思議そうに眺めていた。すると、ラピスから奪ったジュエルウェポンが赤い光を帯びたのだ。
「まさか・・・次元を超越するつもり!?」
女神が瞬きをしたその1秒で、目の前からラピスのジュエルウェポンは消えていた。
「オーラは本来、人間に扱えるものじゃない・・・。天界の者だけが操ることのできる力。それをこんなにもたやすく・・・。この少年には資格があるというの・・・?」
女神は驚いたが、ラピスに密かな期待を抱いた。そして、水晶越しに彼を見守った。
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