2-2 泉の女神
レインはラピスのツッコミを軽く無視して、ふっと息をついた。そして、透き通った、濁りのない水を見つめた。レイン自身の顔が映る。
「・・・ナルキッソスはよく美しいと思えたな」
「いきなり誰だよそいつ」
「ナルシストの語源になった人物だ」
「ふーん」
「奴は水面に写る自分の顔をみて見惚れたらしい。とても同じようには思えない。私は・・・」
「すげえ美人だよな!」
ラピスの大声に、近くにいたカエルは驚いて泉に飛び込んだ。
「はっ、お前が今まで見てきた女が少なかっただけだろ」
「ひっでえなあ。俺だって女くらいサリさんとマヤさんとラミエルと・・・」
「ほぼ初期メンじゃねーか!」
「でもよでもよ!街で見た誰よりも綺麗だったぞ!自信持てって!な!」
「そうだな。お前だって今まで見たどのターゲットより、顔色も表情も誠に良い。イイ顔してるぞ!」
「そ・・・そうなのか・・・!?」
明らかにからかっていたのだが、ラピスは耳まで真っ赤になっていた。レイン思わず吹き出して笑った。
「お前おもしろいな」
「へへ、そうか?」
「そういえばラピス、なぜここに?」
「ん?」
「ここはプラペスの森の神聖な泉。抜け道を知らなければ辿り着けない。どうやっ
て来たんだ?」
「ああ!そうだ!街を見物してたらよ!俺のジュエルウェポンが勝手に出てきたんだよ!いつもは魔法でしまってあるのによ!」
「ジュエルウェポン?昨日お前が持ってた変なステッキか?」
「ステッキっつーか・・・鉾みてえな長え棒だ!先っぽが鋼で雫型の刃なんだよ!」
「ふーん。それでその武器というのは、ちょうどあんな感じか?」
レインが指さすと、泉の中心にジュエルウェポンが浮いていた。
「そうそう!ちょうどあんな形してる!俺専用の武器なんだ!」
レインは真顔でラピスを見た。
いや・・・どう見たってコレだろ。こいつ、馬鹿なのか?
「どこに行ったんだよクソ!!」
「だから!あそこに浮いてるあれだろ!?」
「ん?!ってよく見たら本物じゃねーか!!」
ジュエルウェポンを取り戻すため、ラピスは飛び上がろうとした。すると・・・・。
「ポチャンッ」
ジュエルウェポンは静かに泉に落ちたのだ。ラピスが呆気にとられていると、泉はたちまち、白い光に包まれた。
「ザッバーン」
目の前に、青い髪をなびかせる女神が現れた。
「私はこの泉に住まう女神、シャーレ。あなたが落としたのは、銀の斧ですか?金の斧ですか?」
女神がそう言うと、彼女の周りに銀でできた斧と、黄金に輝く斧が浮かび上がった。
「それとも・・・おいしょっと。この、普通の斧ですか?」
「ザッバーン!!」
泉から、女神よりも大きな斧が出てきたのだ。
「いやでかすぎんだろ!」
「あの、これ・・・自前なんです」
「あっそうですか・・・」
「それで、あなたが落としたのは?」
「全部ちげえよ!」
「よろしい。正直者には・・・」
「お前そんな格好して寒くないのか?」
「人の話を聞きなさい。寒さなど感じま
せん。女神ですから」
「恥ずかしくねえのか?」
「だから恥ずかしくなど・・恥ず・・・?なんですって?」
「あ、いやそんなに腹出して恥ずかしくねえのかと思って」
「腹出しがいけませんか?」
「別にいけねえわけじゃねえけどよ・・・。女神がそんな下着みてえな服着て恥ずかしくねえのかよ」
「やめろ!今その議題を持ち込むな!水着はいいのに下着は恥ずかしいという意味が分からん永遠の議題を!だけどこの際、神様に聞いてみたい!なぜですか!?」
「あの、私別に神様って言っても全知全能じゃないし・・。一意見として?一意見としてなら言ってあげてもいいけど?」
「女神様的にはどうですか!?」
「ええと・・・。天界ではそもそも水着も下着もないので分かりません!」
「えっ・・・」
「え・・・?」
「あ、いやなんかつまんない回答だなーって」
「あーもう!好きな子にアタックしたいでしょ?!でも巷で下着で言い寄ったことある!?ないわよね!?そこまで大胆になれる子ばっかりじゃないの!水着は合法的に誘惑できるから!それくらいしないと恋は始まらないじゃない!」
「あっ・・・」
「えっ・・・?」
「女神様はそうなんですね」
「ちがーう!そういう設定に神様がしたの!こっちだって人類の繁栄を見守ってるのよ!そしてさっきのは一般論!!神様は水着なんて着ないの!」
「普通の斧のサイズも知らないひとに一般論とか言われても・・・」
「手厳しいわねあなた」
「じゃあその胸あてはなんですか」
「コスチューム!泉の女神はだいたい腹出してんの想像つくでしょ!?なんで私がここまで言わなきゃいけないのよ!もう!!ジュエルウェポンは没収します!」
「はあ!?人のもん勝手に奪っといて何言ってんだよ!」
「あなたのような人に預けられない。そもそもこんなくだらないことで尺を伸ばすような主人公いりません!ああもったいない!ページが勿体無い!!!」
「主人公だと?」
「これは勇者のみ持つことが許される鉾よ。あなたは失格。良いところ一つもないじゃない」
「ラピスは女心が全くわからない田舎者ですが根は真面目で素直で無害な童貞です!許してやってくださーーーい!」
「やめろーっ!そんなダセエ主人公いらねーよ!!フォローしろっての!」
「嘘は良くない」
「いやそんな、そんなまっすぐな顔で言われても」
「もう!こうなったらワンダーランドに閉じ込めてやる!一生出してあげないから!」
「ワンダーランド・・・?」
「時間内にアリスの鍵を見つけたらあなたの勝ち」
「間に合わなかったらどうなるんだよ!」
「あなたの物語が終わるだけよ」
「なっ!」
「そして一生、ワンダーランドの住人になるのよ」
「意味わかんねえこと言いやがって!って・・・なんだ!?」
突然、ラピストレインの体が宙に浮いた。そして女神は、あたり一帯を光で覆った。
「ラピス!」
「レイン!掴まれ!」
ラピスは精一杯手を伸ばした。しかし、体が思うように動かない。
レインは光に飲み込まれ、消えていった。ラピスはその瞬間、深い眠りに落ちた。ラピスは夢を見ていた。
そこは小さな村だった。辺りの家は燃えていた。誰かが手を繋いでいる。大きくてあたたかくて、優しい感じがした。その手はすぐに離れていった。不安になって顔を上げると、その人は微笑んでいた。そして、泣いていた。
『ラピス。あなたなら大丈夫』
『行かないで!』
『必ず戻るわ』
『母さん!!』
伸ばした手はあまりにもひ弱で、届かなかった。
「あの時・・・諦めずにもっと・・・手を伸ばしていたら・・・。力があったら・・・母さんは・・・ここにいたのか・・・?」
ラピスは意識が朦朧とする中、小さく呟いた。
「あれ・・・俺なに言ってんだ・・・。母さんなんて・・・知らねえだろ・・・。俺とレイズしか・・・いなかっただろ・・・。あれは誰だ・・・?」
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