ワンダーランド編
2-1 プラペスの泉
「サボり屋諸君よく来たね。お説教でも楽しみにノコノコ帰ってきたのかい?」
夕方、BARに着くとお怒りモードのマヤさんが待ち構えていた。
「すまない、マスター。私の顔に免じて許してくれ。二人は私の手伝いをしてくれたんだ」
「ええ?」
「改めて礼を言う。ありがとう」
「はい!」
「2人も借りてすまなかったな。謝礼を払おう」
「いいさそれなら。ちなみに何の手伝いしてたんだい?」
「恋愛マスターの俺が男の振り方を教えてやったのさ・・・」
「失恋したレインさんを励ましてたんです・・・」
「私は恋というものを知らないからな・・・。失恋ではないが、蹴りをつけてきた」
「あ、なんかすみません純粋すぎて・・・。からかっちゃった私が恥ずかしいです・・・」
「でもラピスに乗り換えたんだよな!」
「ええ?」
「そうそう。今日会ったばかりの特にパッとしない、いやむしろ中の下の下以下の男に乗り換えましたとさ。・・・ってなるかボケ!」
「いや一方的な悪口!俺タコ殴りだよ!?マヤさん?俺たち街を案内してもらってたんだ。はは・・・」
「ふむ。証言にかなりの食い違いがあって釈然としないが今日は見逃そう。それからね、恋だの人生だの話すならとっておきの場所があるだろ?」
「とっておきの場所?」
「このBARに決まってんでしょおバカ!お悩み話してみませんか?で客引きするんだよ!アンクを見てみな!さっそく連れてきてるじゃないか!」
「ライムちゃんはどんなお酒が好みかな?」
「お酒あんまり知らないの。アンクのおすすめがいいなあ!」
「じゃあ、俺が君のために作った果実を使って、特別にカクテルを作らせてくれるかな?」
「アンク、私のことが好きって言ってるのに」
ラミエルは切なそうにアンクを見つめていた。レインは心配そうにラミエルに話しかけた。
「あれはただの客引きだろ?」
「嘘よ。どうせ私のことなんて好きじゃないの」
「ちょっとセンチメンタルに浸ってきます・・・」
ラミエルはそう言って、店の外でしくしく泣き出した。
「ああ・・・私はなんて不幸なのかしら・・・。こんなに悲しいなんて」
「お姉さんどうしたんだい?」
「うっ・・・あの男に弄ばれたんです。私だけがこんなに好きだったんだわ・・・」
「まあまあ、元気出して!」
「優しい天使のようなお兄さん、ありがとう・・・。良かったら一緒に飲んでくれる?」
「1杯くらいなら付き合うよ」
「なるほど、感情をあえて表に出すことで客の同情を引く戦法か」
レインが関心して頷いていると、さっきまで泣いていたラミエルが余裕の表情で戻ってきた。
「レイン嬢、この街来て何年目?まだヒヨッコちゃんね。ここでの生き方を教えてあげるわ」
「は?」
「女は夜に悪魔になるの。遊び人のアンク、片思いのラミエル。そういう設定よ」
「怖っ!夜の街怖っ!!」
一部始終を見ていたラピスは女の子は怖いと、またしても思い知った。
「今日はここに泊まるといいよ」
「マヤさん!サンキューな!」
「礼ならアンクに言うといい。うちは身内しか基本的には泊めないんだ。あの子があんたのこと気に入ったみたいだからね。今日は店が混んでるから、また明日話すといいよ」
「分かった!」
「お嬢さんはこっちの部屋ね」
「ありがとう」
ラピスとレインはそれぞれの部屋に入ると、すぐに眠りについた。
「いっけねえ!猫のルーシーに魚おごるの忘れてた!」
ラピスは目覚めると、猛スピードで街に駆け出した。すると、街角を曲がったところで、足にふにゃっとした感触がして立ち止まった。
「にゃーにすんのよ!人生で一度も猫のしっぽ踏まないのが普通なのに!二日連続で踏むなんて!お前の人生今日で終われってニャ!」
「悪い悪い!お前の魚買いに魚屋に急いでんだよ!」
「フニャ?さかニャ・・・。そうニャ!ルーシーは淡い期待で、ずっと待ってたニャ!でも来なかったニャ・・・。お腹が空いてそのまま寝ちゃったのニャ・・・。可哀想なルーシーニャ・・・。よって魚は二匹おごるニャ!」
「任せとけ!」
「ふんっ。お前は威勢だけはいい奴ニャ。よって良い奴ニャ」
「はっ。しゃべるの下手だけどお前可愛いな!」
「ニャ・・・!可愛いとニャ・・・。こういうときはなんていうニャ・・・」
「誰に口聞いてんのよ!気安く可愛いとか言うんじゃないわよこのクソ童貞!だな」
振り向くと、そこには清々しい顔をしたレインがいた。朝日に向かって腕を伸ばしている。
「口悪!どこの女子だよ!レインも起きたのか」
「ああ。殺し屋を辞めたからかぐっすり眠れたぞ」
「切り替え早いのな!」
「少し野暮用で外出する。夕方には戻る。いいか?」
「ああ!俺も街で用事があるからまたな!」
「ああ」
レインは颯爽と人混みをすり抜け、消えていった。
ラピスは昨日ゆっくり見れなかった街の様子を堪能しようと、辺りをキョロキョロ見渡した。
思うままに歩いていると、突然誰かに話しかけられた。
「おうおう兄ちゃん!買ってけよ!」
「何屋だ?」
「長靴を履いた猫、オスカーの武器屋さ!」
藍色の綺麗な毛並みをした猫は、仁王立ちで構えていた。店の店主のようだ。ラピスの膝下くらいの身長で、黄色の瞳を爛々と輝かせている。屋台には多種多様な武器がずらりと並んでいた。
「武器屋か〜!悪いな、武器は揃ってんだ!」
「へえ、ご自慢の武器、見せてみろよ!研いでやる!」
「これだ!」
ラピスは嬉しそうにジュエルウェポンを見せた。オスカーは珍しそうに武器をまじまじと見つめた。
「なんだぁ?それはぁ?こりゃ兄ちゃん、ただものじゃあねえな」
「ああ!これはジュエルウェポン。中の魔力を光の力に変換して使うんだ」
「一体この魔力、誰のもんだかなぁ」
「誰かのもんなのか?」
「宝石には力を溜めることができるんだぜ。魔術のステッキはみんなそうだ。鍛冶屋が形を作って、魔術師や魔法使いが魔力を込めた石を作るんだ。許容できる魔力は鉱物の大きさや純度によって決まってんだぜ」
「へえ・・・。お前には魔力が見えるのか?」
「ああ。何年も扱ってりゃだいたい分かる。そいつは抑えきれねえオーラを纏ってる。お前もそれを隠すために魔法で封じ込めてんだろ?」
「お・・・おお!」
兄貴に教えてもらったけど、そんな理由があったのか・・・。
「このルビーを作った奴は相当な魔力を持ってるはずだぜ」
「そんな強い奴がいるなら戦ってみたいぜ!」
「馬鹿言うなよ兄ちゃん!自分の力が入った石だぜ?作り手に攻撃しても無効さ」
「そういうもんなのか・・・」
「ま!いつか会えると思って鍛錬すんだな!」
「おお!じゃーな!」
「しっかしあのステッキもどき・・・。人間界のもんとは思えねえ。嫌なニオイがすんだよなあ・・・」
ラピスが街に出ると、突然、手元が青く光り出した。そして、呼び出してもないのに、ジュエルウェポンが現れたのだ。
「いきなりなんだってんだよ!」
宙に浮かぶそれは、たちまち独りでに動き出し、森の方へ飛んで行った。
「ええ?!」
ラピスは考えるより早く、飛んで行った方向に走り出した。
一方、レインはとある泉に来ていた。そこは、街を下った先の『プラペスの森』にある、神聖な泉だ。
レインはリスタンに来るといつも、この泉で剣を浄化していた。レインはマーガレットで花占いをしているところだった。
「殺す、殺さない、殺す、殺さない・・・殺す・・・」
最後の一枚になった花びらを見つめ、ため息をついた。
「物騒なことやってんな・・・」
レインが振り返るとそこにはラピスがいた。
「気にするな。ただの花占いだ」
「いや重すぎるんですけど!!!」
レインはフンッとそっぽを向いた。
「んーなことで人の将来決めんなよ。やるときはやるんだよ!お前が決めることだ」
「おっしゃ潔く殺るか!!」
「待て待て待て早まるなって!そもそも何占ってんだよ!」
「気にするな。今後私がお前を殺すかどうかちょっと占ってただけだ」
「いや気にするわ!」
「背後に立たないでくれるか?」
ラピスはポカン?と口を開けていると、突然体がひっくり返り、地面に押さえつけられた。
「いってえ!!なにすんだいきなり!!」
「職業病で殺しかねない」
「いや職業病じゃ済まさねーよ?!」
「うーむ、仲間に謝るはどうしたらいいんだ?指でもつめて落とし前つけるか?」
「いやヤクザの世界!一言『ごめんな』でいいんだよ!」
「じゃあ・・・うっかり殺った時はごめんだなっ!」
レインがグッドのポーズをしたのを見て、ラピスは顔を引きつらせた。
「お前それフレンドリーの域超えてんぞ・・・。つーか死んだ後に謝られても聞こえねーよ!」
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