1-11 シリアルキラー

ラピスは必死に考えた。ニュアンスは大幅に違っているが、レインを仲間にしたいと言ったのは自分だ。なによりも、ここで自分が引けば、彼女の命が狙われる。それなら一か八か、迎え撃つしかない!!


「そうだ!!!その女は俺のもんだ!手出したらただじゃおかねえ!」


ラピスは、内心かっこいいセリフが言えたと満足だった。しかし、周りを見渡した瞬間、なんとも冷めた表情で見られていた。


「ありゃ・・・?」


「いやそれはさすがにちょっと」


「かっこいいと思ってるとこがカッコ悪・・・」


アンクとラミエルはドン引きしているようだ。レインと男も続けて言った。


「ただの捕虜だ。気安く『俺のもの』とか言うな童貞」


「ッチ、成り上がりが。容赦しねえぞ!」


次の瞬間、男は鞭を取り出した。


「気をつけろ!デュークは鞭の使い手だ!」


そしていきなり、鞭でラピスの腕を縛り付けた。


「あり?」


あまりにもあっさり捕まったラピスに、一同はたじろいだ。


「捕まっちった!」


ラピスは照れ笑いを浮かべた。腕に鞭が食い込み、容赦なく締め付ける。


「どうせ死ぬんだからな。名乗ってやる。俺はアーヴァンティーク・デューク。政府直下の殺し屋だ」


「おいおい。アーヴァンティーク・デュークつったら、縄縛りの死体を吊るすので有名な、シリアルキラーじゃねえか!ただの血迷った殺人鬼かと思ったら政府直下の殺し屋だったのかよ・・・!」


「あ・・・あはは私帰ってお花に水やらなきゃ・・・」


「帰る必要はねえ。てめえらまとめてあの世送りだ」


「ひいっ!」


デュークはラピス見向かって、冷酷な笑みを浮かべた。その殺気に、ラミエルは腰を抜かした。アンクはとっさにラミエルを支えた。


「あの世送り?笑わせんじゃねえ!死に際くらい自分で決めるっての!」


ラピスは果敢にそう言い放つと、今度は縛られていた鞭を思いっきり引っ張った。デュークは完全に油断していた。鞭が一瞬緩んだその隙に、ラピスは手を抜いた。


「見てろよ!ジュエルウェポン!」


ラピスが叫ぶと、彼の右手に矛のような棒が現れた。ぱっと見は鉾のようだ。雫型をした鋼の刃に、右側が丸く欠けている。


その刃はラピスの瞳孔と同じ形をしていた。そしてなにより目立つのは、刃の根元に輝くルビーだった。レインはいままで、あんな武器を見たこともなかった。目を見開き、不思議そうに見つめた。アンクは驚いた様子で呟いた。


「信じられねえ・・・」


「あれはなんなの?どうしてこんなにも禍々しいオーラを感じるの・・・?」


「なんでお前が持ってんだ・・・・・」


「アンク・・・?」


「魔力の匂いがする・・・」


 デュークはラピスの突然の反撃にほくそ笑んだ。


「これは俺が生まれた時から持ってる武器だ!」


「おもしれえ。見せてみろ!すぐに死んだらつまんねえからな!」


「後悔すんなよ!火炎旋風!」


ラピスがジュエルウェポンを振るうと、デュークに向かって炎の混じった強い風が吹いた。デュークは飛び上がり距離を取った。


「なんだ、物騒なもん持ってんな。魔法道具か?」


「この中にはすっげえ量の闇の魔力が入ってんだ!それを光の力に変換して使ってんだ!」


「ほーう?どんな仕掛けか知らねえが・・・。鋼といいルビーといい・・・高く売れそうだな」


デュークの顔つきが変わった。ただの殺し屋から、獲物を狙う狩人の目をしている。


「おいお前!」


ラピスはレインに話しかけた。


「今からこいつを倒す!援護しろ!」


「は?」


「今が『何かあった時』だろ!」


「私は・・・」


レインは悩んでいた。いざデュークを前にすると、足が一歩も動かなかったのだ。


「ほらな。この女は身の程わきまえてんだ。!誰の下にいるべきかをな!」


「上とか下とかうるせーんだよっ!」


その言葉を皮切りに、ラピスは攻撃をしかけた。地面に手のひらをつけると、青色の光がラピスを囲った。


「なにしやがった・・・!」


デュークの体はラピスに引き寄せられてゆく。周りにいたレインやラミエル、アンクもも体が引かれるのを感じた。アンクはラミエルを抱え木に掴まった。


「一体何が起きてるの・・・!」


「引力の陣を張ったんだ。自分を軸として、数メートル圏内の物質を強制的に近づける効果がある。でも何考えてんだラピスの野郎はよ・・・。相手は鞭使い。長距離攻撃が得意かもしれねえが・・・殺し屋だぜ。接近戦だって下手じゃねえだろうによ・・・!」


 「はっ、距離が縮めば鞭が緩むとでも思ってんのか。仕留めてくれっつってるようなもんじゃねえか」


デュークは不敵な笑みを浮かべ、ラピスに向かって一直線に走り込んだ。


「ラピス気をつけろ!そいつダガー持ってんぞ!」


「おいお前!本当に自由になりてえならちゃんと言え!じゃねえと助けられねえ!」


レインは地面に剣を突き刺し、引力に耐えている。俯いていて、ラピスを見ようとしなかった。


「遅いんだよ」


デュークはラピスの急所めがけてダガーを突き刺そうとした。しかし、その瞬間、ラピスの周りを再び青い光が覆った。


「なんだこれは!」


デュークは光に包まれ、体を動かすことができなくなった。


「悪いな!この陣は俺を軸に吸引する。俺の周り1メートルには見えねえ壁がある。地面が縦に生えてきたようなもんだ。お前はそこに押さえつけられて動けねえ!」


「そうか・・・!陣との距離が0になれば体は陣に押さえつけられて動けなくなる!」


「どういうことよ!」


「さっきの光を見ただろ。柱みてえにラピスを覆ったよな。光の柱でぴったりくっつくように引き寄せたんだ。相手はそれ以上は近づくことができない!」


「あの、解説してくれてるところ申し訳ないんだけど・・・。俺はお前が来ねえから引き寄せただけだ!」


ラピスはそう言ってレインを見た。レインはまだ、ラピスの陣によって体を引かれていた。剣は地面を裂き、少しずつラピスの方へ向かっている。


「この剣に染み付いた罪までは拭えない・・・」


「今お前が引きずられてんのはこのガキじゃねえ。定められた運命だ」


「んーなつまんねえ運命なら切っちまえ!剣士だろ!!」


レインはラピスの言葉に顔を上げた。


「・・・名前を知りたがってたな。そんなに知りたきゃ教えてやる。我が名はレイン!殺し屋だ!子供の頃から殺ししかしてこなかったような奴だ。そんな私と仲間になるだと?ふざけたことを」


「だったらなんだ!!これからのお前はちげえんだろ?!」

言葉にデュークは鼻で笑った。


「おいクソガキ、教えてやる。こいつは孤児だったんだよ!だから俺が与えてやったんじゃねえか。生き抜く術を。政府の言う通り殺せば、生活が保証される。それが幸せってもんだろ?なあ!」


「人を殺さなきゃ生きてられねえなんて、血の通った人間じゃねえ」


「生きるってことは誰かを殺すってことなんだよ!なんの犠牲もなしに王都が栄えてるとでも思ってんのか!この街の浮き足立った奴らを見たか!その下で血反吐流す奴らをお前は見たのか!」


「これから何になるかはあいつが決める」


「うるせえ!さっきから陣が緩んでんだよ!」


デュークはダガーをラピスめがけて振り下ろした。ラピスはジュエルウェポンで受け止める。デュークの素早い刃捌きをラピスは必死でかわした。しかし、少しずつ後ろに押されてゆく。


「おい女!ラピスの野郎、長くは持たねえぞ」


レインは拳を強く握ったままだ。


「私は・・・」


その時、デュークの刃に耐えきれずラピスは倒れた。


「うあああっ!」


デュークはラピスの両手にダガーを突き刺し、地面に張り付けた。そして、ラピスの首を絞めつける。

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