1-10 道案内は終わった
ラピスは足早にバーを出ると、レインが向かい側の武器屋の露店を見ていた。
「ダガーを数本用意してくれ。出来るだけ小さいものを」
「これを持っていくといい」
「これはいい刃だな」
「5万レーンだ」
「おーい!」
ラピスは話の間に割って入った。レインはラピスを一度見て、またすぐに武器商人を見て、代金を払った。
「毎度あり!!」
レインはラピスの声掛けに答えず、すぐに街の通りを歩き出した。
「おい!」
「・・・・、道案内は終わった。お前より弱い身であるのを承知で言わせてくれ、もし良ければ・・・」
「お前、俺の仲間になれよ!」
「仲間?」
「そうだ!お前これからなにするつもりだったんだ?」
「行く宛てはないが・・・」
レインはすぐに返答しなかった。なにやら悩んでいるようだ。普段から人の気持ちに鈍感なラピスも、この時はそれを察した。ラピスはなんて返したら良いのか考えた。しばらくの沈黙を破ったのは、凍てつくような低い声だった。
「探したぞ」
「・・・・!!」
振り返ると、そこには黒い服に身を包み、額に白いターバンを巻いた男が立っていた。ラピスは直感で、その男の殺気を感じ取った。男はラピスを一切見ていない。ただレインに冷たい眼差しを向けていた。レインも負けじと睨みをきかせている。
「何の用だ」
「ついて来い」
レインの態度からして、黙って男の言う事を聞くとは思えなかった。だが彼女は男の後に着いて歩き出した。
「おい・・・」
ラピスが遠慮がちに声をかけると、レインは立ち止まり、振り向いた。そして、ラピスにしか聞こえない小声で話した。
「仲間になれと言ったな。本気なら、何かあったら頼んだからな」
その時の彼女は、バーでアイスティーを飲んでいるあの笑顔とは程遠く、冷たささえ感じない、無表情だった。それがラピスには、感情を押し殺しているかのように見えた。
「待てって!」
「着いてくるな!!」
引き止めようとしたラピスだったが、レインの激しい拒絶を前に、なにもできなかった。彼女はその言葉を最後に、ラピスの元を去って行った。
「ありゃこじらせてんぞ」
「わっ!」
いきなり後ろから肩を組まれ、ラピスは驚きの声を上げた。
「何だお前かよ」
誰かと思えば、先ほどのバーにいた悪魔のアンクだった。
「あれは不倫だ。間違いねえ。公の場で会えねえ関係だ。俺ならまず場所を変えるぜ」
「いいえ私は駆け落ちに一票です!」
「ってお前まで!」
気づけばラミエルも後ろに立っている。
「いやお前ら暇すぎるだろ!」
ラミエルは真顔で首を傾げた。
「何言ってるんですか。世の中真面目に働くより適度にサボって巷の昼ドラ目撃するほうがよっぽど楽しいですよ」
「陰湿!」
「そういえば出会った時から逃げてたな」
「フン、だろうな。女から別れを告げたが男が許さなかったパターンだ!追うぞ!!」
「いいえ!素直になれない女の子が涙の末下した決断ですよ!行きましょう!」
アンクはラピスの腕を引いて、彼らの後に着いていった。ラピスは、先ほどレインに言われた言葉を思い出していた。あれほど拒絶していた彼女が、この言葉を伝えて去っていった。何か理由があるに違いない。ラピスは意を決して、彼らの後を追った。
・
「俺から逃れられると思ったか」
街から出て、南西に少し行った場所にある、人気の無い大きな木の下で、男とレインは立っていた。アンクとラピスは近くの茂みに身を潜め、様子を見ていた。
「おいラピス、あいつ腕に鞭を巻いてるぜ。ジャケットで隠しちゃいるが、ありゃいつでも使えるように装備してるみたいだ」
「やばい奴ってことか?」
「まあ、一般人ではないだろうな。あの鞭は攻撃用か、それとも」
「縄跳びでもするんですかね?」
「そりゃお前二人で人気のいねえ場所に来たら縄跳びくらい・・・。ってなるかボケ!」
「あははお前おもしれえやつだな」
「ありゃそういうプレイかもしれねえな」
「プレイ?」
「SMに決まってんだろこのガキ」
「えすえむ?」
ラピスは首を傾げた。
「フン。ここから先はちとアダルトだぜ。おの女、ああ見えてMなのかなるほど・・・」
「ラミエル、えすえむってなんだ?」
ラピスは小声でラミエルに聞いた。
「ふん、お子ちゃまですね。街に来たらそのくらい知らないと。いいですか、えすえむって言うのは、服のサイズ当てゲームです」
「服のサイズ当て!」
「これで男が間違えれば破局・・・。恋人の服のサイズも知らないなんて論外です」
都会じゃそんなに重要なのかよ・・・。ラピスは引きつった顔でラミエルを見た。
一方で、謎の男の威圧感は離れているラピスたちにも伝わるほどだった。
「私はもうお前には従わない」
しかしレインはたじろぐことなく、堂々とそう言い放った。その様子を見ていたアンクはニヤニヤしながら呟いた。
「不倫の末の決別か・・・。こいつは身に染みるぜ」
「不倫?」
「お前まじでなんも知らねえのか?どこから来たんだよ」
「あっちの森の奥にあるカイザの谷だ!」
「はあ?誰も住んでねえだろあんなところ」
「ああ。俺の家が一軒あるだけだ」
「正真正銘の田舎モンじゃねえか!仕方ねえな。不倫ってのはな、結婚相手がいるのに異性と関係を持つことだ。このくらい知ってねえと笑われるぞ」
「なんでだ?」
「あ?」
「なんで相手がいんのに浮気すんだ?」
「やめろ真顔で言うな!人間みんなそうなんだよ!」
「お前悪魔だろ?」
「だから人の心は読みやすいんだって。だいたいな、みんながみんな理性的に生きられるわけじゃねえんだ。動物なんだからよ」
「だから!不倫じゃなくてあれは純愛です!見てください女の人の熱い視線・・・」
レインは男を今にも殺しそうな目で睨んでいた。
「いや熱すぎてレーザービーム出そうなんですけど!」
「愛と狂気は表裏一体なんです!」
ラミエルはキラキラとした瞳でグーサインをした。
レインの態度にしびれを切らしたのか、
「てめえ、俺の元を去るってことがどういうことか分かってんだろうな」
「黙れ。私を従えて良いのはあいつだけだ!」
レインはそう言って、ラピスたちの隠れている場所に向かって一直線に指差した。
「っておいー!!指差してんじゃねー!!」
「お前、仲間って言ってたけどあの女とそういう関係なのか!?」
「ラピスさん興味ないふりして実は・・・そうなんですね」
「誤解を生む言い方すんじゃねー!!」
「ほう?あの男が?」
「ああ。私が太刀打ちできない相手だ」
「フン、お前にこんな青臭いガキの趣味があったとはな」
「田舎もんバカにすんなよー!ラピスはすごいんだぞ強いんだぞカッコいいんだぞー」
「そーだそーだー」
アンクとラミエルは声を大にしてラピスを称えた。・・・いや、バカにしたのが正しいかもしれない。
「てめえら棒読みで言うんじゃねえ!ってか勝手にハードル上げてんじゃねえよ!!」
「お遊びはそこまでだ。だいたい逃げただけで落とし前付けれると思ってんのか?お前は永遠に組織に追われる。お前が生きる限り殺戮を繰り返すしか道はねえんだよ」
「だから!!落とし前はあいつがつける」
「なんだと?」
「ええーっ!!??俺?俺なの!?」
再びレインはラピスに向かって人差し指を突きつけた。ラピスは内心とても焦っていた。
「森であいつに捕まった。私は抵抗できず降伏した。故に、私は今やあいつの捕虜だ。落とし前はその男がつける」
「クソガキ、それは本当か」
「ええ?!」
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