1-5 予測不可能

 一方ラピスは、狙撃手を見つけるべく身を隠しつつ進んでいた。すると、レインのいる方角からピストルの音が聞こえた。そして次の瞬間、ラピスめがけてそれぞれ違う方向から銃弾が飛んで来たのだ。


「うわっ!」


ラピスは瞬時に避けたが、間一髪だった。


「待て待て待て。いやおかしいだろ。なんでこんな色んな方向から打ってきてんだよ!まさか、仲間が沢山いんのか?」


 ラピスは弾を避けつつ、打開策を必死で考えた。

確かに弾は予測不可能な方向から飛んで来ている。でも、必ず言えること、それは・・・。


「バカみてえな話だが、ピストルの音の数だけ向かってきてんだよ・・・。それだけは確かだ。音からすると赤ずきんが打ってきてることになる・・・。クソ、弾丸の方角と音の方角は全く違うってのに!なんだよこれ!矛盾だらけじゃねえか」


ラピスは必死で弾丸を避けた。しかし、とうとう弾が頬をかすめ、傷口から血が流れた。弾は少しずつだが、ラピスめがけて的確に狙ってきていた。それを感じたラピスは突破口が見つからず、内心焦っていた。


「音は近くで鳴ってる。なのになんでこんな遠くから飛んでくんだよ・・・。なんかがおかしい・・・!なんだ?考えろ。考えろ・・・!じゃなきゃ殺される!」


「カンカンカンカン・・・・」


森の中では何かの音が反響していた。レインはアマンダの攻撃を流しつつ、冷静にこの場を分析していた。一体何に向かって彼女が発砲しているのか、意図が掴めずにいた。分かることは、彼女が打つと必ず高い音が響くことだけだ。


「なんだこの音は・・・。まるで何か、跳ね返ってるような・・・」


レインは音の動きを見るべく、アマンダに向かって大技を繰り出した。


「木の葉返し!」


レインが言い放つと、アマンダの足が木の葉の風に包まれた。


「きゃっ!」


足をすくませたアマンダに、レインは容赦なく切り掛かり、その衝撃で彼女のナイフは砕けた。アマンダがひざをついている間に、レインは音のする方向を目で追った。


「カンカン・・・」


音は徐々に小さく鳴っていくが、確実にどこかに向かって進んでいた。


「まさか・・・ラピス木だ!杉に弾が跳ね返ってるんだ!!」


「木に跳ね返る?んなこと有り得るのかよ!」


せっかく教えてくれた情報だったが、赤ずきんという相手の悪さに、ラピスは冷や汗をかいた。


「いや・・・。それなら音と弾の方向が違うのにも納得がいく・・・。しっかし、予測できねえ動きにどう対処するか・・・」


ラピスは呼吸を整えるため、しばらくじっとしていた。


「スナイパーが別でいるわけじゃなかったんだな」


「赤ずきんは単独行動しかしないの。自分の身は自分で守る。これ鉄則」


「どんな魔法を使えばそんなことができる」


「この森は私の管理下にある。木の位置、角度、全て把握してるわ。あなたたちは私のビリヤード台にいるのよ。どこからでも打てる。どこからでも狙ってみせる」


「くそ、正確に狙って撃ちながら我が剣をさばくとは・・・」


「殺し屋レインに褒められるなんて嬉しいわ」


アマンダは美しい顔を歪ませ、にんまりと笑った。


 アマンダはレインを相手にしつつ、さっきまで動き回っていたラピスの気配がなくなったのを感じ取った。


 「あの坊やは死んじゃったのかしら。音もしなかったわね。つまらないわ」


アマンダがため息をつくと、ラピスは彼女の前に堂々と姿を現した。


「俺はここだ!」


「まあ!自分から殺されに出てきてくれるなんて。最後に私の可愛い顔、じっくり見たかったのかしら?」


「俺は逃げねえ」


「ラピス!」


「俺には弾の位置を予測できる脳なんてないんでね。お話といこうぜ可愛こちゃんよ」


ラピスがそう言うと、アマンダはふっと笑った。危機的状況であることは変わらないが、なぜかラピスの心中は落ち着いていた。


「そうね。どうせ射程圏内だし少しくらいならいいわよ」


「サンキュー。・・・田舎者の俺だって知ってるぜ。童話の赤ずきん。あれはお前なのか?」


「・・・そうよ。見れば分かるでしょ」


「お前が赤ずきんならよ、狼に襲われて猟師に助けてもらってハッピーエンドじゃねえのかよ」


「物語には続きがあるものよ」


「物語の・・・続き?」


「そう。童話なんてただの噂。本当のお話、聞きたい?オオカミってね、私を食べようとしてる時はよく吠えるの。でも打った瞬間、静かになる。クゥゥンって、声を上げて・・・。それがたまらなく可愛いの」


アマンダはまるで恋する乙女のようにうっとりした表情で笑った。


「さ、サイコパスかよ・・・」


ラピスはゴクリ、と息を飲んだ。


「一度殺して以来、狼狩りに病みつきになったのよ。そのうち、殺し屋のオファーが来てそれっきり。分かった?」


「殺し屋・・・?」


「え?」


「さっきお前ら、同期っつってたよな?じゃあ、お前は・・・」


ラピスはレインを見た。彼女は目があうと、冷たい表情で顔を逸らした。レインが何も答えないでいると、アマンダは嫌味ったらしく笑った。


「まさか知らないで一緒にいたの?あなた怖いもの知らずね」


「話は終わりだ。次で仕留める」


「そんなに殺気立たないでよ。寿命が少しだけ伸びて良かったじゃない」


「お前に付き合ってる暇はない」


レインとアマンダはしばらく睨み合った。ラピスはレインにそっと話しかけた。


「つってもよ、あんな高速の玉から逃れんのかよ」


アマンダがピストルを打ち鳴らすと同時に、弾丸を避けようと、ラピスは飛び上がった。


「ああ。簡単だ」


「簡単って!」


「お前をおとりにする」


「は?」


レインはラピスを思いっきり蹴落とすと、一人森の奥へ走って行った。


「てめえ卑怯だぞ!!」


弾丸は真っ直ぐとラピスに向かって飛んでくる。


「むっかつくな。見てろよ!!ジュエルウェポン!」


ラピスがそう言い放つと、右手に矛のような棒が現れた。雫の刃に、右側が丸く欠けていた。そしてなにより、目立つのは刃の中央に輝く赤い石だった。アマンダは目を細めた。


「なによあれ。変な武器。一体なにができるっていうのよ」


ラピスはジェネラルウェポンという武器を持つと、弾丸に向かって振りかぶった。


「俺は細けえことが苦手なんだよっ」


「ば、馬鹿じゃないの!無謀すぎ!弾丸を迎え撃つなんて!」


「カッキーーーン!」


高音と共に弾丸は跳ね返り、その弾はレインに向かって飛んでいった。


「って打つのうまっ!プロかよ!」


「へへ!」


レインは勢いよく風を切る音に、振り返った。


「ん・・・?ってうおおおお!何飛ばしてんだ!!」


弾丸はレインの真横を通過した。驚く彼女を尻目に、ラピスは追い越して森を進んで行った。


そしてラピスは振り向くと、グーサインをしてニカッと笑った。


「真っ向勝負と行こうぜ!」


ラピスの奇怪な行動を前に、アマンダは攻撃の手を緩めなかった。飛んでくる弾丸を、またもラピスはレインに向かって跳ね返した。続けてレインも剣で打ち返す。


「こっちだって遊んでる暇ないんだよ!」


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