ショート:やっぱシリアスの次はゆる~い話で和ませたい!!

 まだ六時を回ったころでも、すっかり暗くなってしまった夜道を歩く。秋が始まりコンビニでも焼き芋のセールが始まったところだ。食欲の秋にということで、今日の夕食は鍋だと悠から聞かされている。帰り際に面倒な仕事を押し付けられたというのに、俺の足取りは軽かった。


「何鍋かなぁ?スタンダードな魚介系か、意外とすき焼きだったり?奇をてらってキムチ鍋っていうのもいいなぁ。あーでも、女の子らしい豆乳鍋ってのもあるな。」


 期待を込めて家に帰ると、オレンジの鍋つかみをつけて準備をしている悠が出迎えてくれた。テーブルにはカセットコンロと、今日買ってきたであろうボンベが置かれており、鍋の中に昆布が沈んでいた。


「ちょっと待ってくださいね。今だしを取って、おつゆを煮てるところなので。」

「結構いい匂いだな。今のうちに着替えてくる。楽しみだなぁ。」

「あ、わかります?少し香りづけだけしてあるんです。」


 香ばしい匂いに後ろ髪惹かれながらも、スーツに鍋がかかってしまっては大変だと思って部屋に戻る。ぐつぐつの鍋のに立つ音が聞こえ始めるのに合わせて、腹の虫が空腹を告げた。


「量さん、時間かかると思うので、先にお風呂入っちゃってください。」

「え、お腹空いてるんだけどな。」


 けれど、わがままを言って悠を困らせるわけにもいかない。我慢して脱衣所に向かった。


「おお、つみれか。旨そうだなぁ。」


 風呂から上がってすぐに鍋を覗き込むと、すっかり出来上がっているようだ。しんなりとした水菜がいい色で輝いており、鍋の中で揺れるキノコのしっとりとした様子に思わず見とれていた。すると、キッチンから出てきた悠が大きなため息をつく。


「量さん!!床が濡れちゃいますから、早く着替えて来てください。」

「ごめんごめん。」

「まったく、裸で出歩くなんてはしたないですよ!!」


 パンツは履いてるよ。と言い返そうとしたが、本気で呆れているような悠の顔を見てやめておいた。これ以上怒られたら、いい年して泣くかもしれない。というか、俺が悪いことは間違いないし…。


「いただきまーす。」


 寝間着に着替えてダイニングに座る。おそらく家のどこかにあったであろう、一人用の鍋であるためか、すこし少なく感じてしまう。けれど、しっかりと味の染みた野菜や、魚介の味が濃いスープ、引き締まった魚のすり身、そして、一緒に食べる悠さえいれば、全く気にならない。


「温かくて旨いな。」

「そう、ですね。鍋なんて初めて作りました。今度はどんな奴がいいですか?」

「じゃあすき焼き。あと、おでんも食べたい。」


 即答した俺が面白かったのか、悠はくすくすと笑った。鍋の向こうで揺れる黒髪がとても綺麗で、家に来たばかりとは違って曇りのない爽やかな目つきだ。


……to be continued

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