第107話 精霊術士、リベンジを果たす
やばいと思ったその時、メグの前に、颯爽と躍り出た人物がいた。
純白の全身甲冑を身に纏い、大きな盾を構えた男──ヴェスパだ。
彼は、自身が構える盾を中心に、光の壁のようなものを発生させると、スライムの猛烈な突進を真正面から受け止めた。
勢いで地面を足がわずかに滑るものの、ギリギリのところで、倒れたメグは救われる形となった。
「お、お兄ちゃん……!」
「可愛い妹をやらせるかよ……!! うぉおおおおおっ!!」
叫びと共に、光の壁がその輝きを増したかと思うと、ヴェスパはなんとスライムの巨体を前方へと弾き返した。
思わず、ポカンと口を開けたまま、その光景を見つめる僕。
ヴェスパとメグは、今回の攻略では、カングゥさんの呪術で、元漆黒の十字軍の2人の最強冒険者の魂の力を借りている身だ。
メグが借りているのは、攻略のアドバイザーも買って出てくれている大賢者メロキュアさんの魂。
その魂のおかげで、先ほどの氷魔法のような、多種多様な魔法をかなり高度なレベルで操れるようになっている。
同じく、ヴェスパが借りているのは、守護騎士ジニアスさんの魂。
守護騎士は、パーティーを守る盾のような役割をする職業クラスであるが、元々のヴェスパの職業クラスは大盗賊。
戦闘スタイルも実力も大きく異なっているため、以前の氷炎の絶島での攻略勝負では、他のメンバーに比べると、あまり目立った活躍はできていなかった。
しかし、今回は違う。
おそらく、攻略までのこの3か月の間に、ジニアスさんの戦闘スタイルに合わせる形で、特訓を行ったのだろう。
以前よりも遥かに洗練されたその動きは、これまでのヴェスパのイメージから大きくかけ離れていた。
「お兄ちゃん、ちょっとカッコイイかも……」
「だろ!! 他人の力ってのが癪だけどな!!」
カングゥさんの調整もあるのだろうが、魂の力を借りながらも、彼ら2人は自分の意思で動けている。
そういった意味でも、この2人にも成長が感じられた。
うん、僕も頑張らなきゃ。
「コロモ!!」
「はい、師匠!!」
すでに、魔力を練り終わっていたコロモが、全力のファイヤーボールを弾き飛ばされたスライムに放った。
さらに、いつにも増して、濃い酸素を送り込んで火力を上げる。
すると、スライムの身体を覆っていた粘液が、徐々に蒸発していった。
「膜は剥がれた!! チェル!!」
「魔法剣"雷霆"!!」
雷を纏った剣で、チェルはスライムに斬りかかる。
「見るからに水分量が多そうだしね!! 雷の味を食らいなさい!!」
大上段から振り下ろされる剣に触れた瞬間、スライムは全身を激しく痙攣させた。
スライムの肉体は、そのほとんどが水分。当然、雷もよく通す。
「雷なら、俺も……!!」
今度は、リオンが赤雷を剣に纏って斬りかかった。
同じく、グランも青い雷を剣に纏って斬りかかる。
勇者3人の雷の魔法剣による波状攻撃に、スライムは反撃すらできず、どんどんその身を削られていく。
いつの間にか、その身体は、せいぜい馬車の荷車ぐらいの大きさまで縮んでいた。
「最後は任せてもらおう!!」
再び、魔術師チームが、スライムの身体を凍結させると、セシリアさんがそこに向かって突撃した。
破壊力の化身と化した槍が、スライムの肉体を大きくえぐり取る。
その一撃を持って、スライムはついに、ほんの一抱え程の大きさまで収縮した。
ここまで小さくなれば、あとは、コロモのファイヤーボールで燃やし尽くせるはず。
指示を出そうとしたその時、スライムは最後の悪あがきとばかりに、攻撃を終えたばかりのセシリアさんに飛び掛かっていた。
「くっ、こいつ!!」
振り払おうとするセシリアさんだったが、流動する身体は手では掴むことができない。
セシリアさんの整った顔に、スライムがまとわりついていく。
まずい。あれでは、呼吸ができなくなる。
「ヴ・オーペル!!」
僕は、全力の風の力で、スライムの身体をセシリアさんから引きはがす。
「はぁ……はぁ……。すまん、ノエル。助かった」
「コロモ!!」
「ファイヤーボール!!」
他の仲間に窒息攻撃をしかけられる前に、止めを刺さねばと、コロモにファイヤーボールを撃たせる僕。
それが、直撃したかと思った刹那、火球を貫くようにして、スライムが現れる。
いや、その姿は、これまでと違う。
手足があり、鎧を身に纏い、そして、手には槍を持っている。
あくまで細部のディティールはスライムボディのままだが、あれは明らかに……。
「セシリアさん……!?」
「あいつ、コピーしたんだ……」
先ほどの攻撃は、窒息を狙ったものではなく、セシリアさんの能力をコピーしていたのだ。
もし、本当のステータスまでセシリアさんをコピーしているとすれば……。
「みんな、避けろ!!」
槍の先端が煌くと、その直線状に、巨大な闘気の渦が駆け抜けた。
ヴェスパが、光の壁で、なんとか魔術師チームを守るが、その表情には冷や汗が浮かんでいた。
「つ、強ぇ……」
「強さまでしっかりコピーしてるようですね。とはいえ、何の問題もありませんが」
カングゥさんが、スライムにデバフをかける。
瞬間、スライムの動きが目に見えて遅くなった。
「結局は最後の悪あがきに過ぎません。魔術師チーム、止めを」
「はい!!」
コロモを中心に、残る2人の魔導士も炎の魔法を放つ。
カングゥさんのデバフでにわかに動きの遅くなったスライムは、広範囲に展開されたその炎魔法をまともに受けた。
さっきまでは、まったく声を発しなかったスライムだが、セシリアさんをコピーしたためか、女性の断末魔の声が上がる。
やがて、燃やし尽くされたそこには、わずかな水たまりだけが、地面に広がっていた。
「リベンジ達成というところですかね」
「はい」
仇敵であるテンペストスライム。
さすがに強敵ではあったが、自分たちの実力が上がっていることを強く感じられる戦いでもあった。
このまま、50層まで一気に駆け抜けてやるとしよう。
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