第101話 精霊術士、聖塔へと挑む

 僕らの元へとやってきた青い髪の美少年。


 遠目では華奢そうな優男だったが、近づいてみると、その顔には、どこか勝ち気そうな雰囲気が感じられる。


 つり上がった目元は、まるで猛禽類のようだ。




「俺は蒼鷹の爪"ファルコンズクロウ"のグラン。王都では、蒼の勇者なんて呼ばれてる」


「ああ、あの有名な巨人殺しの!!」




 コロモが声を上げる。


 蒼の勇者グラン、と言えば、王都ではリオン以上に人気のある英傑だ。


 当然、彼が所属するパーティーである蒼鷹の爪もかなりの知名度を誇る。


 たしか、巨大なボスモンスターが出るダンジョンばかり、狙って攻略するパーティーで、ついた異名が巨人殺しジャイアントキリング。


 王都で活躍する冒険者の中でも、間違いなく1,2を争う実力のあるパーティーだ。




「極光の歌姫。あんたらの攻略動画は、よく見させてもらってる。正直言って、たいしたパーティーだと思う。特にあんた……」




 グランは、ゆらりと歩を進めると、僕の前へと立った。




「えっ……と」


「精霊術士ノエル。俺は、あんたの戦い方が大好きだ」


「あ、ありがとうございます……」




 なんだか、思ったよりも熱烈な視線をぶつけられて、嬉しいと思うと同時に、ちょっとだけ居心地が悪い。




「俺には、少しだが精霊が見えてな。あんたが戦闘中どれだけ凄いことをやってるのかわかる」


「そ、そうなんですね……」


「だがな。好みなのは、戦い方だけじゃない。あんたは、見た目も、最高に俺好みだ」


「え、あ、へっ……」




 好みというと、それは、女性として、ということだろうか。


 そんなことを考えた一瞬のうちに、彼の手が、僕の顎へと触れていた。




「そのまっすぐで大きな瞳、ぷにぷにの頬、慎ましやかな体つきに細い手足、最高だ。なあ、ノエルちゃん、俺のものにならないか? 俺なら、あんたをきっと幸せにしてやれると思うんだが」


「そ、それは……その……」




 吐息すら感じられるほど、近い距離に驚くほど整った美男子の顔。


 女性として言い寄られるという経験……。


 ヴェスパにもナンパされた事はあるが、今のこれは、ちょっとそんな生易しいレベルじゃない。


 情熱的な視線から目を逸らす。


 早く断らなければ、と思うのだけど、なんだか、頭が熱くなって、ちゃんと言葉を紡ぐことができない。


 と、そんな時、誰かが、グランの手を取り、僕からその身体を遠ざけてくれた




「リ、リオン……」


「おい、貴様。なれなれしくノエルに触れるな」


「ああ、なんだ。暁の。お前もこの娘にほの字なのか?」


「そ、そういう下種な話じゃない。単純に、ノエルが困ってるだろう」


「あー、まあ、ちょっと焦りすぎたかな」




 グランは悪びれもせず、両手を"やれやれ"というように掲げた。




「この攻略は俺のアピールタイムだ。かっこいいところをいっぱい見せてあげるからさ。存分に、俺に惚れてくれよ。ノエルちゃん」


「なんや、さっそくイキッとるなぁ。グラン坊」




 と、のほほんとした雰囲気で、僕らの見送りにやってきたのはメロキュアさんだ。


 彼女は、今回の攻略には参加しない。


 あくまで、街から僕らのサポーターとしての役割を受け持ってくれる予定だ。




「まあ、こんなナンパな男やけど、腕前はほんまもんや。便利に使うたってくれ」


「可愛らしい顔して、相変わらずひどいなぁ、大賢者様は」


「うっさい、ロリコン。その舐め回すような視線やめぇ」




 メロキュアさんが、柄にもなく、胸元を隠すように、腕を組んだ。


 ……どうやら、勇者グランは、そういう系統がお好きらしい。


 よくよく見れば、彼のパーティーの他のメンバーも、美少女ばかりだ。


 必ずしも、ロリ系ばかりではないが、いわゆるハーレムパーティーというやつなのは間違いない。


 チェルは僕の方を見ると、平手を胸の前に出して、まるで壁をこするかのようなジェスチャーをしていた。やめい。




「さて、楽しいおしゃべりもそろそろ終わりや。攻略の準備はええな」




 メロキュアさんの言葉に、3つのパーティーのメンバーがそれぞれ頷いた。




「さて、じゃあ、レイドのリーダー、チェルシー。なんか一言あるか?」


「そうね……」




 チェルシーは前へと進み出ると、みんなの方へと振り向く。


 そうして、聖塔のてっぺんへと高々と指を掲げると、大きく息を吸い込んだ。




「空の上の女神様に、最高のライブを魅せてやるとしましょう!!」


『応!!』


「私達はぁ~」


「かわいい!!」


「強い!!」


「輝くアイドル冒険者!!」


「聖塔の頂目指してぇ~!!」


「極光の歌姫とその仲間達、レディ……」


『ゴー!!!』




 こうして、僕達、極光の歌姫を中心とした聖塔攻略がいよいよ始まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る