第3話 精霊術士、勧誘される

 さて、結論から言おう。

 僕をメンバーに加えても良いというパーティーは結局見つからなかった。

 いや、厳密には、あるにはあった。

 だが、それは、僕を精霊術士として見ているのではなく、単なる荷物持ちとして考えている連中だ。

 冒険者のパーティーは5人が基本ではあるが、別に、それ以下の人数で活動してはいけないなんてルールはない。

 ともすれば、4人パーティーであったり、あるいはソロやコンビのパーティーなんかもいるわけなのだが、そういったパーティーから雑用係としてなら、雇ってやると言われることは何度かあった。

 とはいえ、さすがに僕にもプライドというものはある。

 精霊術士としての仕事をさせてもらえないパーティーには、さすがに入る気にはなれなかった。

 しかしながら、この結果には、正直ショックが隠せない。

 元々Sランクパーティーだった僕の知名度はそこそこある。だから、どこか一つくらいは、まともに雇ってくれるパーティーがあると思っていたんだけど……。

 どうやら、自分で思っていた以上に、僕は、多くの冒険者から、下に見られていたようだ。


「はぁ、どうしたもんかなぁ」


 もうギルドには、ほとんど冒険者は残っていない。

 朝のピークの時間帯を過ぎると、次に冒険者がギルドにやってくるのは、ほとんどの場合、昼食時か、あるいはクエストの報告に来る夕方あたりだ。

 それまでここでボーっとしているほかないのだが。

 何もしていないのもあれだし、簡単な薬草採りのクエストでも受注して、時間をつぶそうか。

 そう思って、重い腰を上げた時だった。

 パンっと、ギルドのスイングドアが勢いよく開かれたと思うと、一人の女の子が入ってきた。

 真っ白いポンチョを羽織って、短いスカートを翻した若い女の子だ。フードを目深に羽織っているので、顔は見えない。

 女の子は、なぜか、慌てたようにギルドの中を見回した。

 そうして、僕と目が合った。


「あっ……」


 わずかにそう漏らしたかと思うと、少女が、僕の方へと近づいてくる。

 そのまま、僕が座っている休憩所のテーブルにバンッと手を振り下ろした。


「見つけた!!」


 はて、この娘は誰なんだろうか。

 フードをかぶっていて、顔立ちがわからないこともあるが、そもそも僕には、パーティーのメンバー以外で、ほとんど知り合いと呼べるような人間がいない。

 ましてや、女の子ともなれば、行きつけの飯屋の看板娘くらいのものだ。


「あなた"元"暁の翼ウィングオブドーンのノルよね!?」

「そ、そうだけど……」


 昨日のあの番組を見たのだろうか。

 少なくとも、この娘は、僕が暁の翼からリストラになったという事実を知っているらしい。


「ねえ、あなた、まだ、どこか別のパーティーには所属してない!?」

「う、うん……」


 どこのパーティーもまともに雇ってくれなかったので……。


「やった!! だったら、私とパーティーを組みましょう!!」

「えっ……!?」


 いや、今、この娘、何て言った……?

 私とパーティーを組みましょう……うん、確かに、そう言ったよな。

 先ほど、散々、いろんなパーティーから邪険にされたばかりだ。

 自分の悪名は嫌というほどわかっている。

 それなのに、まさか、向こうから、僕をスカウトしてくれる人がいるなんて、にわかには信じられない。


「それって、荷物持ちとして?」

「まさか!! あなたを荷物持ちとして使うなんて、そんなもったいないことできるわけないじゃない!!」


 少女は、ブンブンと首を横に振る。

 そんなに全力で否定しなくても……。

 いや、正直、めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。


「えっと……その、君は……?」

「ああっ、ごめんなさい!! 自己紹介がまだだった!! よく、マネージャーからも注意されてるのに……!」


 少女は、ぴょこりと半歩だけテーブルから離れると、目深にかぶったフードを勢いよく脱ぎ払った。


「あっ……」


 思わず声が漏れた。

 そこに立っていたのは、あまりにも自分の思考の埒外の人物だったからだ。


「君は……」

「私の名前は、チェルシー。ねぇ、ノル! 私と一緒に、冒険者のてっぺん、目指しましょう!!」


 溌溂とした笑顔で、そう宣ったのは、昨日、僕がぼんやりと眺めていた、あの"アイドル"だった。 

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