Chapter13:黒い計画をぶっ壊す! ①
俺が真夏の太陽よりも熱い決意を固めた瞬間――
「市長、これはどういうことですか!?」
例のチラシを持った数名の市民が鼻息荒く市長室に乗り込んできた。
「えっとですね……」
当然だが、当初の計画には盛り込まれていなかったカジノについての抗議だ。
「構想にカジノはありませんでしたよ! 我々を騙したんですか!?」
住民の一人が机を叩いたのを皮切りに、全員が市長に詰め寄った。
「いや、それは……」
冷房がガンガンかかった部屋にも関わらず、市長は額から汗をかいている。
「カジノ誘致なんて絶対反対です!」
「私も本当は賛成いたしかねるんですが……」
「責任、取ってくれますよね?」
「いやぁ……」
室内が一気に騒がしくなったところで、ここは市長に任せて退散するとしよう。
「片倉、よく会うね」
「原」
河川敷の道を歩いていると、部活帰りの原とエンカウントした。
確かによく会うな。俺に都合が良すぎる感があるけど、せっかく会ったなら知恵を拝借させてもらうかね。
「なぁ、お前なら市議会議員の事務室に忍び込みたいと思ったらどうやって実行する?」
「なにそのピンポイントな質問。目的隠す気ゼロじゃんか」
ごもっともな指摘である。
「そんなシチュエーションが将来あるかもしれないしさ」
「また、何かしようと企んでるのか」
俺は口笛を吹いて誤魔化してみた。絶対に誤魔化しきれてないけど。
「そうだな――あの手の議員には秘書がいるだろ? 正規の秘書を代行する代理秘書になれば入れる可能性はあるかもしれないな」
「代理秘書……」
「例えば、何かで秘書を釣って説得できれば代理秘書になれるんじゃない? 宅配業者を装うとか、ハニートラップを仕掛けるとか」
「ハニートラップか……」
なるほど、
「――いいね。知恵を貸してくれてサンキューな」
「おう。無茶はするなよ――って、マジで実践するのか」
「おほほほほーっ!」
誤魔化し笑いをしつつ、俺は河川敷を駆け抜けて自宅へと向かった。
「……なんだあの笑い方。お嬢様か――いや、チンパンジーっぽいな」
一旦帰宅して、自分の部屋に戻った。
戻って――昼寝した。全力で寝た。
「うぃ~っす。寝たわ寝たわ」
昼寝が心身の疲労を癒してくれたわい。
「……じゃねーよ! ガッツリ寝ちまった!」
「まぁ英気を養ったと思えば!」
気を取り直してアイテムの数々を持ち、協力要請のチャットを送り、再び部屋を出た。
「あはっ、巧祐ク~ン!」
遥風さんが満面の笑みで手を振ってくれている。
彼女と初めて出会った公園にて待ち合わせ。
まるでデートみたいだけど、生憎作戦にご協力いただくだけだ。
「わざわざ呼び出してすみません」
「ふふっ、いいの。巧祐クンが頼ってくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます。ですが腕を組む必要はないかと思われます」
文章だけだとうっかり忘れかけるが、遥風さんは容姿端麗な美女なのだ。ゆえに大変目立つ。
見ろ、道行く人々が遥風さんを見て、そのあと俺を睨んできやがる。
「カップルだから問題ないでしょ」
「カップルじゃないから問題なんですよ」
自らカップルを否定すると、愛人を連れ立ってる気持ちになるな。
「カップル
「ふふん。お姉さんにどーんとまっかせなさーい♪」
遥風さんはこめかみ付近でピースをした。近頃はあまり見ないポージングだ。
ちょっと頼りないが、遥風さんの魅力に委ねられる部分が大きいので、助太刀いただく。
俺たちは黒杉の議員事務所へと向かった。遥風さんから腕を掴まれたまま。
◎
事務所前へと到着。
「こんなところ、巧祐クンと出会わなければ来る機会なかったよ」
「波乱万丈の人生だって、悪くないですよ?」
感性は人それぞれだが、平坦な人生よりは緩急がある人生の方が面白いと思っている。面倒事は遠慮したいけどな。
「巧祐クンと一緒にいると、何をやっても楽しくなりそう」
遥風さんは微笑をたたえた。熱風が彼女のアッシュ色の巻き髪を揺らす。今日の彼女は髪を下ろしており、ロングヘアーが色気を
「買い被りすぎですよ」
「ううん、そんなことない――じゃあ、行ってくるね」
「オネシャス」
遥風さんは事務所の透明扉を開けて中へと入った。
俺は開け放たれている窓から室内の様子を伺う。
「あのぉ、すみませ~ん」
「こりゃまたべっぴんさんだ。黒杉様にご用でしょうか?」
秘書は遥風さんを視界に捉えるや否や、思いっきり鼻の下を伸ばした。イベントコンパニオン並みのナイスバディの美女だからね、仕方ないね。
「用があるのは、秘書さんの方にですよぉ☆」
遥風さんは秘書のへそ付近を人差し指でつんつんする。
「あたし、秘書さんに興味があるんですぅ。ゾッコンなんですぅ」
「き、君みたいなとびっきりの美人さんが、俺を?」
「よければ仲良くしてくれると嬉しいな~」
遥風さんの強烈ぶりっこに、秘書は真っ赤な顔でニヤついている。
「よろしい! じゃあ今すぐにでもホテルに――」
「からの、羽交い絞めっ!」
「な、何をするっ!?」
二人が外に出た瞬間、俺が秘書を羽交い絞めにして、その間に遥風さんに秘書の足を縄で縛ってもらった。
秘書は俺と遥風さんを交互に見て、
「お前ら、グルかよ……?」
魂が抜けたようにがっくりと地面に膝をついた。
「残念でしたぁ。秘書さんにゾッコンてのはウソで、私は片倉クンの女だから」
「まぁそれも嘘ですよね」
しれっと嘘を追加しないでもらいたい。
「嘘に嘘を塗り固めやがって、このワルどもめ」
「いい年したオッサンがハニトラに引っ掛かって何やってんだか」
仕事中にリアルタイムでホテルに行こうなど、秘書の風上にも置けない野郎だ。嘆かわしい。
「オッサン言うな!」
秘書のオッサンはオッサンと呼ばれるのが嫌らしい。どうみても中年だからそう呼んでるだけだぞ。
それはいいとして、俺は屈んで秘書と同じ目線で口を開く。
「単刀直入だが、今日一日だけ俺に代理秘書をやらせてくれや」
「黒杉様の秘書は世界で俺ただ一人! 代わりなどいない!」
秘書は首を横に振って俺を睨む。殊勝なこと言うじゃねーか。
かくなる上は。
「大人しく従うのが利口だぞ?」
「け、拳銃……!?」
俺は秘書のこめかみに銃口を当てる。
「わーお。スゴイもの隠し持ってたんだねぇ」
遥風さんは素直に関心している。おおらかなのは彼女の魅力の一つだね。
「ふ、ふん。どうせオモチャ――」
パァン!
俺が笑顔で地面に向かって銃弾をぶっぱなすと、秘書の顔色がみるみるうちに青ざめていく。
「……ご検討いただけましたでしょうか?」
煙が吐き出されている銃口を再度、秘書の鼻先に突きつけた。
「わ、分かった! 言う通りにする! だから命だけはァ!」
生命の危機に錯乱状態になった秘書はスマホを取り出した。
「黒杉様に代理秘書を送る連絡をする!」
「手際がいいですね。お願いします」
秘書はスマホを操作しはじめる。もちろんおかしな真似できないように画面を監視した。
「はい、私です。大変申し上げにくいのですが、急用ができてしまいまして――はい、はい」
黒杉に繋げて通話している。
「はい。のちほど代わりを向かわせますので――はい、失礼いたします」
秘書は通話を切ってこちらに向き直る。
「黒杉様にはお伝えした。代理秘書やっていいぞ。けど――」
言葉を区切り、俺の全身を眺めて、
「秘書の服装はスーツだぞ。お前持ってるの?」
秘書に必要な装備について物申してきた。
「あー、持ってないですねぇ」
十六歳の俺は当然のごとくスーツなど持ち合わせていない。
「なので借りますね」
俺はポケットから武器を取り出して、秘書の眼前まで迫る。
「な、なんだその針は!? おい、やめろ――っ!?」
秘書の首元を針で刺すと、奴は動きを停止した。サツガイしたわけではない。
「安心せい。みねうちならぬ、麻酔針ぢゃ」
青柳さんからもらった麻酔針がここで役に立つとはな。
「その二つ全然違うし、よく麻酔針なんて持ってたね」
どちらかといえばボケキャラの遥風さんにツッコまれるのは新鮮だな。
「さてと」
俺は秘書のお召し物を拝借して身にまとう。幸い同じ体格なのでサイズも概ね合っている。
「わぁ、スーツ姿の巧祐クン、しゅてきぃ……」
遥風さんは両手を頬に当ててうっとりしていた。瞳は潤み、口からは
悪い気はしないが今は構っている暇などない。これから黒杉の部屋へと突入しなければならないのだ。
「うし、早速乗り込むぞ」
遥風さんには帰宅してもらい、俺は一人で事務所に入った。
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