第1話 目白から池袋へ
私が子供の頃に住んでいたのは、東京のど真ん中。
正確に地図で中央というわけではないが、同じ東京でも山手線の内側と外側とでは違うという感覚があり、私の家は山手線内だから『真ん中』という意識だった。
最寄駅は、目白という小さな駅だ。
駅前には、山手線を横切る形で目白通りが走っている。山手線の内側つまり東へ向かって目白通りを歩くと、まず右側に見えてくるのは巨大な森だ。
そう、目白駅周辺――山手線の内側――は、都会の真ん中のはずなのに、緑豊かな地域だった。先ほどの『巨大な森』、正確には某私立大学のおかげだ。
この大学の敷地が、目白通りに面してずっと続いている。皇族御用達として名を馳せている大学だった。通りの反対側――北側――には、公立の小学校や消防署、警察署などもあり、治安の良い地域だと言われていた。
少し余談になるが、目白通りをひたすら東へ進むと、昔の偉い政治家――私が物心つく前あるいは生まれる前くらいの総理大臣――の屋敷がある。目白通りには一部、歩道橋が設置されていない区間が長々と続くのだが、あれは皇族御用達の大学と偉い政治家の屋敷に挟まれているからだ、と聞かされていた。歩道橋があるとその上から政治犯が狙撃を試みる可能性があるので設置しない、みたいな話だったが……。
今思えば、どこまで真実味があったかわからない。いくら昭和の時代とはいえ、当時はテロリストが横行するほど物騒ではなかったと思う。
話を戻そう。
駅前から目白通りを歩きながら、右手に森のような緑を眺めていられるのは、だいたい10分くらいだ。いくら大学の敷地とはいえ、さすがに永遠に続くほど広くはないので、そこで終わりとなるのだ。
ちょうど、目白通りが千登世橋と呼ばれる陸橋になって、明治通りと交差する辺りだ。私の実家のすぐ近くと言い換えても良い。
目白通りが山手線とは直交するような位置関係なので、この明治通りは、山手線と平行に走る形となる。全体像としては都内をぐるりと回る環状道路らしいので、あくまでも私が慣れ親しんだ範囲内での明治通りの話だ。
子供の頃の私にとって、明治通りは、池袋と新宿を繋ぐバス通りだった。目白駅まで歩いて山手線に乗らずとも、近所のバス停からバス一本で池袋にも新宿にも行けるという、便利な道路だ。
バス通りとは別に、明治通りは、自分の足で歩くための道路でもあった。新宿までは遠いので無理だったが、池袋までならば歩けたのだ。
目白と池袋は、山手線の駅では隣同士。私の家は、目白通りと明治通りの交わる辺りにあるので、目白駅からでも10分ほど歩かねばならない。その10分の分だけ丸々池袋に近づくわけではないが、ある意味、目白と池袋の間とも言える地点だった。
徒歩で池袋へ向かう場合は、明治通りを北へ進むのだが……。
私立大学のおかげで緑豊かな目白通りとは異なり、明治通りにはほとんど緑はない。もちろん少し裏道に入れば公園や神社などもあるのだが、少なくとも明治通りそのものに面しているのは、無機質な民家や商店ばかり。二階建てや三階建てくらいの小さなビルが多かった。
これが池袋に近づくにつれて、ビルの規模も大きくなってくる。五階建てや六階建てのビルが増えてくるし、その中には、私が小学生時代に
そんな明治通りを歩き続けて、だいたい30分くらいすると辿り着くのが、池袋の駅前。
池袋駅東口だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます