第2話 たぬきの金玉
原曲はアメリカの愛国歌なのに、日本では全く違う歌詞がつけられた「ともだち讃歌」という童謡がある。
耳に心地よいメロディであり、いくつかの替え歌があるようだ。そのうち一つが、小さい頃にテレビで頻繁に流れていたCMソングだった。
新宿の電気屋のCMだ。
山手線と中央線を歌詞に練り込んだ替え歌であり、新宿に店があるというのを印象付けるには上手いやり方だったと思う。
そんなCMソングほど有名ではないが、池袋には池袋で、別の電気屋の替え歌があった。先ほどの童謡より少しアップテンポな曲であり、似ている音の動きもあるが、元になった曲は違うようだ。調べてみたら、こちらは外国の讃美歌だそうだが、日本人には「たぬきの金玉の歌」として馴染みがあるのではないだろうか。
池袋の電気屋の替え歌はテレビではなく、店内放送のみで使われていたらしい。だから新宿の電気屋のCMソングほど有名ではなく、聴く機会も少なかっただろう。しかし、これも一度聴いたら忘れられないくらい、なかなか印象に残る歌詞だった。
新宿の電気屋ソングの山手線と中央線ではないが、池袋にも、鉄道に関わる特徴的な一面がある。
池袋が終点となる二つの私鉄、西武池袋線と東武東上線だ。線路はそれぞれ山手線の東側と西側に設置されており、西武池袋線に乗るのであれば池袋の東口から、東武東上線ならば西口から入った方が近い。
それぞれの鉄道会社は駅ビルのような形で百貨店も建てており、もちろん電車と同じ側。つまり西武は駅の東側、東武は西側にある。
この東と西の逆転現象を、池袋の不思議として、電気屋の替え歌は歌詞に組み込んでいたのだった。
例えば私の場合、小さい頃に池袋へ行くのは、徒歩であれバスであれ明治通りを使っていた。だから私にとっての池袋は明治通りの側、つまり東口のみ。デパートを使う際も、西口の東武ではなく東口の西武ばかりだ。
池袋駅東口が『池袋』であり西武百貨店が『池袋のデパート』という感覚。『東口』という言葉も『西武』というデパート名も意識していなかったから、特に混乱はなかった。
しかし、一般の人々は違うのだろう。駅の東側で遊ぶこともあれば、西口の場合もある。西武のデパートで買い物をすることもあれば、東武の場合もある。
両方使うとなると、東に西武があって西に東武があるというのは、とても紛らわしい話ではないか。その点「池袋は不思議です。東が西武で西が東武です」と歌ってくれる電気屋の替え歌は便利だった。ついつい確認の意味で繰り返し口ずさむことで、電気屋の宣伝も頭に定着していく……。
効果的な宣伝ソングだったに違いない。
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