第2話:殺人ピエロ(Murder clown)
あらすじ
しがない『人間』、江戸窓翔也のもとに刑事であり、幼なじみの累月清美が訪れる。『いわく』不自然な殺人事件が起きている……と。その殺人事件はニュースでも騒がれており、奇怪で、残忍な殺人であると。
なお、登場人物は架空の人物であり、現実には関係ありません。
チョキチョキ。チョキチョキ。何かを刻む音が聞こえる。チョキチョキ。チョキチョキ。
「またか。これで三件目だ」
私はため息を吐く。『今回』は皮膚を細切れにされている遺体だ。一件目は首が切断されていた。しかも、悪趣味な事に『机に綺麗に装飾』されていた。二件目は両手、両足を切断。ご丁寧に『遺体を椅子の上に置き、周りに両手、両足を置く』。犯人は余程『アタマがおかしい』と思える。
「で、『また、関係者は完璧なアリバイがある』か?」
「……はい。『アリバイ』は完璧です」
「………怨恨の線も今のところ出ていない。被害者達は全員、評判が良い。誰もが恨まれる人間ではないと証言しているし……だが、まだ怨恨の線は外せないが」
「累月警部。犯人は何でこんなに残忍な事が出来るんですかね?まるで『愉快』だという感じです」
「………死亡推定時刻は?」
「『深夜のニ時から深夜の三時』の間の一時間だそうです」
「………これもまたか。何故犯人は『深夜の二時から深夜の三時』に犯行に及ぶんだ?しかも、普通そんな時間に人を招きはしまい。無論室内に入れるなどもっての外だ」
私は『初めから怨恨の線は考えてない』しかし、可能性として外せはしない。死亡推定時刻が深夜な事もあり、余程親しい友人、または親類を犯人として睨んでいたのだが。理由としては初めに上げたのと、『被害者が抵抗した様子』がないからだ。この時点で、物取りの線は消える。そもそも、被害者宅からは『物色された』形跡はない。
「死因は?」
「『心臓発作』です」
「これもか……では、犯人の遺留品なども無いんだな?」
「はい。しかも、『いた』という痕跡もありません」
「………部屋は完全に窓も出入口も鍵がされていた。つまり完璧な『密室』だ。しかも、被害者は何故だか『一人暮し』。………ここまで共通点は『八』点…………いよいよもって、『あいつ』の出番か」
私はそう呟いた。普通共通点が『八』もあれば謎は残るがある程度犯人像は絞り込める。専門家のプロファイリングもした。しかし、プロファイルした結果は『分からない』だ。専門家の話しによると、一見して共通点は多い様に思えるが、『どれも、今までの犯罪者の思考と合わない』らしい。
「はぁ。死因が『心臓発作』ってどういう事だ。被害者達は、それほどショッキングなものでも見たのか?」
「………被害者達はみんな、持病などの疾患を持っていませんからね。『心臓発作』になる理由が分かりません。解剖医の先生も不審がってました」
「……上からも早く事件を解決しろと言われている……こんな『奇っ怪な事件を解決できる人間などあいつしか居ない』」
「は?け、警部?」
「この事件は『我々では解決』できない」
「……で?久しぶりに連絡してきたと思ったら『殺人事件』を解決して欲しい?はっ。それはキミの仕事だろ?清美」
「それが無理だから、お前の所に来たんだよ。それに、この件は『お前の領分で大好物』なはずだ」
私は、翔也に向かって言う。
「………へぇ?それはそれは。興味が惹かれるね。分かった。話を聞こう」
翔也は、『胡散臭い笑顔』を更に深くして言った。
「……で、だ。話しは今から三週間前。都内に住む男性が首を切られた状態で発見された。死因は首を切られた事による出血死ではなく『心臓発作』。心臓発作を起こして亡くなった後に首を切られ『机に綺麗に装飾』されていた」
私は事件の事を話し始める。
「死亡推定時刻は『深夜の二時から三時』つまり、その間に首を切断された。部屋は当時ドアも内側から施錠されていて窓も施錠されていた。犯人と争った形跡はなく、犯人の『遺留品』も一切なかった。いや、『いた』痕跡が全くないと言った方が正確だな」
「ん?『いた』痕跡がない?『遺留品』が見つからなかった=『いた』痕跡がないにはならないんじゃないか?実際に被害者は死因はどうあれ『首を切断』されている。つまり、何者かがいたという事だ」
翔也は疑問に思ったのかそう言った。
「そうだな。しかし、事実だ。『首を切断』されているという事象は起きているのにそれを行った者の痕跡は見つけられなかった」
清美私は真顔で翔也を見る。翔也の表情は変わっておらず、いつもの『胡散臭い』笑顔のままだ。
「……続けるぞ。二件目の被害者は女性。こちらも、一件目と同様、密室。死因は『心臓発作』。死亡推定時刻は『深夜の二時から深夜の三時』。今回は四肢を切断され、体は椅子の上に置かれ、切断された四肢はその周りに立てて置かれていた。犯人と争った形跡はなく、遺留品もない。これまた一件目と同様『いた』痕跡がない」
私はため息をつく。全くもって理解し難い。実際に遺留品を残さないという事は出来なくもないが、普通は残る。しかも、今回も『切断』という行為を行っている。痕跡があるのが普通だ。しかし、現場は綺麗さっぱり被害者がいた以外の情報は出てこなかった。
「………三件目も、」
「あー。良いよ。どうせ『三件目も同じ』なんだろ?なら聞く必要はない。同じならそれ以上の情報は得られない」
翔也は清美の説明を止める。
「ふむ。君たちプロが何も発見できないのであれば、確かに『奇っ怪な事件』だ。でもな?清美。僕は不思議に思っている点がある」
翔也はそう清美に言った。
「………何だ?」
「『なぜ。心臓発作を起こした』?」
翔也はそう私に質問してきた。
「………それは、何かショッキングなものでも見たんだろ」
「深夜の二時から深夜の三時に?だったら被害者は『ナニ』を見たんだろうね?」
「…………」
「被害者達は、『死ぬ前に疲れた様子』はなかったかい?」
翔也は、そう言った。
「………確かに、そんな証言もあったな。いや、まて。だから何だ?まさか」
「そうだ。それが『心臓発作』を起こした原因だよ」
翔也はそう言った説明を続ける。
「君たちプロなら分かると思うが、『心臓発作』は心臓に上手く血が運ばれなくなり、心停止をする病気だ。世間一般では『心臓発作』と『心臓麻痺』は分けて考えてる人達が多いが、医療的には『心臓麻痺』とは使わない。なので、ここは、あえて『心臓麻痺』を使わせてもらう。そうだな、『心臓麻痺』もイメージ的には心臓の疾患であり、心停止して死ぬ病気というイメージだろう。けれど『心臓麻痺』は『精神的負荷』が強くかかった時においちるというイメージがあると思うが」
「………つまり、被害者達は何かしらの強い『ストレス』を抱えていたということか?」
私はそう言う。
「あぁ。その通りだとも。被害者達は『何かしらの強いストレス』を感じていた。その『ストレス』こそが『犯人』だよ」
翔也はそう言って紅茶も口に含む。「……やはり、夢美君に入れてもらった方が美味いな」などとのたまっていた。
「…………待て待て。『ストレス』が『犯人』だと?訳がわからん!もう少し理解できるように話せ!」
私はそう怒声を発した。
「ん?何を怒っている清美。もう、更年期か?」
翔也は、首を傾げ失礼なことを言い出した。
「あん?誰が更年期だ!?そうではない!『ストレス』が『犯人』とはどういう事だと聞いている!」
「そのまんまさ。被害者達は『ストレス』によって殺されたんだよ」
「ならば、なぜ被害者達は惨たらしく発見されている!?『バラす』行為は何者かが行わなければ起こりえないだろうが!?」
「………清美。僕は君に『事件解決の協力』をしてくれと言われた。だから、こう『解決』してみせたじゃないか。これ以上の事があるのかい?」
「…………」
「はぁ。清美。僕の『やっている事』はなんだい?」
翔也は溜息をつきそう言った。
「………怪異蒐集家。解決人だろう?」
私は、少し沈黙してそう言った。
「その通り。僕はあくまで怪異蒐集家。本来なら事件を解決する人間じゃないんだよ。とにかくだ。被害者の死因と『バラす』行為を行ったモノは関係していない。いや、関係はしているか。とりあえず、放っておいたらまた被害が出るだろうね」
「なら、どうしろと言うんだ!また、被害者が出るのでは、本末転倒だ!」
私は、怒鳴る。だってそうではないか。『解決出来ない』では意味がない。
「…だから、ここからが本題だよ。清美。僕に『解決』しろと頼むのであれば、報酬が必要だ。さて、清美。君は何を報酬にくれるんだい?」
翔也は威圧感を出す。
「……『お前の言う事を何でも一度だけ聞いてやろう』これでどうだ?不服か?」
「くくく。いや、いいとも。交渉は成立だ。さて、夢美君にも協力してもらう必要があるな」
そう言って、翔也はポケットからスマホを出し、『あの子』に連絡をしていた。
初めは意識がなく、『無意識』から生まれた。徐々に意識が芽生え始めた。『俺』は実体を持たない存在。ただ漂う、『ナニカ』の集合体。初めは『ニンゲン』に手は出せなかった。ただただ『眺めている』しかなかった。初めはそれで良かった。なぜなら俺自身が『存在の意味』を理解していなかったからだ。
それから少し時間が経ち、俺は自分の『存在の意味』を見出していった。そう。俺は『ニンゲン』を殺害する為の存在。あぁ、今までなぜ気付かなかったのだろう。これではまるで『道化』だ。笑える。ならば俺はこう名乗ろう『殺人ピエロ』……と。
初めて、人を『殺せた』。俺…いや、『ボク』は最高の快楽を感じていた。どう『殺したのか』。初めは夢に入り込んで『悪夢』を見させた。そうしたら、あまり時間を置かずに『ニンゲン』は弱っていった。悪夢を見せる時間は『深夜の二時から深夜の三時』決まってその時間に悪夢を見せていた。そして、限界がきた時、『ボクは初めて実体』を出現させる。『ニンゲン』はいきなり現れた『ボク』を見て恐慌状態に入り、パニックを起こして『心臓麻痺』で死んだ。『ボク』は『殺人ピエロ』。『ピエロ』は『客人』を楽しませてこそ、真価を発揮する。だから『ボク』は自分好みに死体を『イジった』。
「くふ、ふふふふ、あははは!!!!」
「さて、夢美君。事情は電話で話した通りだ。今回の事件……『殺人ピエロ』を僕と一緒に『殺し』てもらう」
「……お話しを聞いてみれば、今世間をにぎわらさせている殺人事件の解決とは。それで、先生。その『殺人ピエロ』とやらの次のターゲットは分かっているんですか?」
夢美はそう嘆息する。
「勿論だとも。今日の『深夜の二時から深夜の三時』に必ず『ここに』現れるよ」
「……はぁ。『囮』……清美さんも大変苦労なさってるんですね」
夢美は『ある方向に視線を移し』言った。
「何を言ってるんだい?民間人を守るのが警察官の仕事だろ?ならば、ドラマよろしくの『囮』捜査ぐらいやってもらわなければね」
「清美さんの『心』は守っているんですね?」
「当然だ。さすがに幼なじみを『殺さ』れる訳にはいかないからね。彼女には『私』の『力』を使っているからね。『殺人ピエロ』はまんまと、『私』の作戦に嵌っている」
翔也はニヤッと笑った。
「さぁ、『お仕事』の時間だ。夢美君。『やつ』が現れるぞ」
寝ている清美の中から『殺人ピエロ』が飛び出してくる。
「ぐああああ!!!!な、何だ!?何が起こった!?」
「おはよう、いや、こんばんは『殺人ピエロ』君。君を『殺し』にきた者だ」
「あん!?誰だ、お前たち!」
「だから、君を『殺し』にきた者だよ。まぁ、実際に『殺す』のは、彼女だがね」
「おはようございます、いえ、こんばんは。そしてさようなら『殺人ピエロ』さん」
夢美は霊刀を抜刀し、殺人ピエロを切り刻む。
「ば、ばか…な」
「さて、『まずそう』だが、『私の口に入って』もらおうか」
殺人ピエロは霧散し、消えた。
「さて、終わったな。清美、起きてるだろ?終わったぞ」
「………全く、実際に見たのは初めてだが、信じられんな」
「清美さん、大丈夫でしたか?先生が『力』を使っていたとしても、キツかったのでは?」
「いや、そうでもない。案外『そこの男』は優しい奴でな、『殺人ピエロに私が悪夢を見ているという幻想を見せていた』から、私はキツくはなかったよ」
清美はそう言って優しく笑った。
――――――後日
「で、翔也。本当にこんな事で良いのか?」
私は休日を使い、二人を映画館が入った、大型ショッピングモールに連れてきていた。
「ん?あぁ、いいとも。丁度この映画が観たかったんだ。夢美君もだろ?」
「えぇ。私もこの映画には興味がありました」
「………わかった。ありがとう。翔也」
清美は改めて優しく笑った。
――――――江戸窓翔也の怪異譚【第二話 殺人ピエロ(Murder clown)終】
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