山の光
まぶしい...
...気がつくと眩しい朝日が室内に差し込んでいた。
「終わったぞ」
まだ、まどろみの中にいる僕に父はそう告げた。
恐らく物の怪は朝日と共に消えたのだろう。
昨夜の怪異がまるで映画やドラマだったかのように爽やかな朝だった。
「さて... 朝飯を食いに行こう」
父のその一言で僕は昨夜のことを思い出し、一気に気が滅入った。
(昨夜、あの婆さん...来たよな?)
そんな僕をよそ目に父はそそくさと身支度をし終えた。
「早くしなさい」
顔を洗い着替えてようやく目が覚めた。
ビクビクする僕などお構いなしに父はスタスタと食堂へ向かって行った。
わはははは....
少し遅れて食堂に行くと、父は老婆と管理人の女性と談笑していた。
まったくの予想外の光景に僕はくちを開けてポカーンとしていた。
「おお、早くこっちに来なさい。今朝食を用意してもらっていたんだ」
父は二人と楽しげに会話をした後、用意された朝食を美味しそうに食べ始めた。
いまいち状況をつかめない僕は、とりあえず席についた。
老婆と女性は姿を消したのを見計らい僕は父に尋ねた。
「父さん、昨夜のあれ、何だったの?」
カタンと箸を置きナプキンで口を拭うと父はこう言った。
「八尺様だ。いや、正確には八尺様に囚われた連中、だな」
「え?」
父は話を続けた。
八尺様という存在は気に入った人間を見つけると自分の召使いにしてしまうのだそうだ。召使いにされた人はこの世とあの世の狭間にしか存在出来ず、成仏すら出来ないのだと。
「おまえが初日の夜に見た黒い物体や昨夜、部屋を取り囲んでいた連中はみんなその召使いなんだよ」
「そうなんだ...」
「さっきの婆さんと娘さんはな、そういった邪悪な召使いから登山者を守る為にこんな危険な場所で働いているんだ」
「え?そうだったの??」
「日本にはそういう守り人が沢山いて結界もあちこちに張られている。あの二人もその守り人の役目を背負った人達なんだ。まぁ世間の人はそうそう知らないけどな」
父はそこまで話を進めると、再び箸を持って食事を続けた。
「おまえが気にしてた壁の写真な。あれは写真じゃなくて御札だ」
「え?おふだ?」
「そうだ。毎日祈念して貼っても翌朝には相当数が剥がされてしまうんだ。つまりやつらはこの山小屋の中にまで入ってきて悪さをしてるってことだな」
「怖いね... 」
「そうだな。でもこの山小屋には一般客は来ない。来るのは修行を積んだ退魔衆だけだ。だから心配は無いんだ。いわば実戦訓練場のような場所さ」
そこまで聞いて僕はようやく今回の旅の目的が理解できたような気がした。
世の中には常識では計り知れない事象がある。
父はそれを身をもって教える為にここに僕を連れてきたのだと。
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