山の声
「早く食べなさい」
刹那、父は普通の表情に戻ったかと思うと僕にそう促した。
僕はそんな父を不思議に思うも、言われるまま食べ終えた。
部屋に戻ると父はこう言った。
「今夜は何があっても部屋から出てはいけない。いいな?」
「うん... 」
恐らく「何か」がやってくるのだろう。
こういったことは以前にもあったのでそれほど驚きはしなかったが、昼間の件もあったので子供の自分にとってはやはり怖いものだった。
時刻は午後22時を過ぎたところだ。
外は昨日とは打って変わって風もなく静かだ。
月は昨夜より傾き、部屋の窓から室内を白く照らしている。
鳥の声も虫の鳴き声もない。
ただの静寂だけがそこにあった。
<コンコン>
ドアをノックする音が聞こえた。
ビックリした僕をよそ目に、父は平然としていた。
<コンコン>
再びノックの音が聞こえた。
僕と父は無言で応答しなかった。
カッチッカッチ...
壁時計の音だけが妙に大きく聞こえる。
どれだけ時が経ったのだろうか。
ほんの数十秒なのだろうが、それが数時間にさえ感じた。
ノックの音は止んだ。
時計を見るとすでに午前零時を過ぎている。
部屋は静寂に包まれ徐々に眠気が襲ってくるのを感じる。
ォォォ...
オオオオオオオ...
「...来たか」
昼間、八尺様から聞こえた地を這うような声だ。
父はカーテンを閉め南方に正座し、九字を切ると真言を唱え始めた。
僕は只々、恐ろしくて目をつぶりガタガタと震えるだけだった。
響くような声は部屋のすぐ外まで近づいている。
それは嵐のような、台風のような、轟音だ。
時折、窓がガタガタと音を立てて揺れる。
そしてそれはこの世のものではない声だった。
ギギギギギギィ...
ドアを引っ掻くような音がした。
廊下側にも何かがいるのだろうか...
ドスン!ドスン!
ついに天井を歩く音まで聞こえてきた。
そしてまたドアをノックする音がした。
<コンコン>
<コンコン>
「あのぉ~夜分遅くすいませぇんん...ちょっとお話したいことがあるのでぇ、開けてもらえますかぁあ”~?」
老婆の声だ。
まさかあの老婆も、物の怪だったのか...?
「開けてぇ~開けてくださいよぉお~...ねぇえ~」
ドンドンドン!
「あ”げろ”っでぇえ”~言っでる”だろ”ゔ~?」
ドンドンドン!!
(もうだめだ... )
あらゆる方向からの攻撃に、僕は恐怖で失神してしまった。
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