山地蔵
ふふっ...ふふふふっ...
女性の声がした。
ズシンズシンという足音、そして木々を薙ぎ倒す轟音は消えていた。
父が僕を抱きしめる力が徐々に弱くなった。
「...もう大丈夫だ」
何が起こったのか僕には分からなかった。
しかし突進してきた白く大きな人のようなモノは消えていた。
それどころか薙ぎ倒された木々すら、まるで何事も無かったかのように平然と元に戻っているではないか。
「???」
例えるならば、映画のクライマックスを見ていて突然エンドロールに飛ばされたような... そんな感じだった。
頭がパニックになっていた僕は父の右腕の袖を掴んだ。
「八尺様だ」
そう言うと父はリュックからもう1つ、おにぎりを取り出すと小屋の脇に向かった。
草むらで隠れていたが、そこには半壊した小さなお地蔵様が安置されていた。
包んであったラップを取り除くと父はそれをお地蔵様にお供えした。
放心状態でそれを見つめる僕に、父は背を向けたまま淡々と話し始めた。
「俺の友人はここであの八尺様を見てしまったんだ。それで取り殺されたんだ」
父はまだ独身の頃、ここに友人と遊びに来たそうだ。
そして僕らが食事をしていた椅子に座り「山を見ながら」食事をしていたそうだ。
しばらくして僕らが見たアレが現れた。
2人は逃げようとしたが、逃げる間もなく友人だけがアレに捕まりそして消えた。
「あっという間だった...」
涙ぐみ震える父に、僕は何も言えなかった。
「この山には4つ、お地蔵様があった。しかし1つだけ、そう、ここにあるお地蔵様だけが何者かによって破壊されていたんだ... 」
意味の分からない僕に父は続けた。
「結界だよ」
父は当時はサラリーマンだったが得度をし、修行してお坊さんの資格を持っている。
そして父によれば4つのお地蔵様による結界の効果で長い間、八尺様が封じ込められていたのだという事なのだ。
しかし悪意のある何者かが結界を1ヵ所破壊し、アレが現れるようになってしまったのだと。
父と友人は運悪くその直後この山に訪れ、被害に遭ってしまったらしい。
「誰が壊したの...?」
僕の問いに父はこう答えた。
「...すぐに分かるさ」
そう言うと父はリュックの中から金色の小さなお地蔵様を取り出し、半壊したお地蔵様の傍にそっと置いた。
「...よし、これでここはもう大丈夫だ」
僕らは荷物をまとめ、山小屋を目指し下山を始めた。
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