山の夜
未明、僕はトイレに起きた。
いつもは朝まで1度も起きることは無いのだが、不慣れな外泊ということでリズムが狂ったのだろう。父はぐっすりと寝ていた。
トイレの窓から外を見ると、いつの間にか月が煌々と輝いている。
それはまるで真っ暗なトンネルの出口のように眩しかった。
用を足していると誰かの声が聞こえた気がした。
とても小さな声でヒソヒソと話しているような感じだ。
(こんな時間に誰だ?グループ客かな... )
トイレから出ると部屋の入口のドア下の隙間から影がサッと移動したのが見えた。
(え..?)
廊下にある蛍光灯の光で部屋の前を誰かが歩けば、部屋内の床に影が見える構図だ。
誰かが僕らの部屋の前にいたような感じだった。
(気味が悪いな... )
妙な気もしたが疲れもあり、布団に戻ると再びに眠りについた。
どれくらい経っただろう。
目が覚めると外が薄明るくなっていた。
父の姿がないことに気がついたが、また露天風呂かな?と思う程度でさして気にはならなかった。そしてふと部屋の外に目をやると、視界の隅に何かが動いているのが見えた。
それは黒く、波打つように動いている。
(何だろう...?)
目を凝らして見ようとした瞬間、部屋のドアが開き父が戻ってきた。
「... おはよう。起きたのか?」
「うん、さっきね。それより外に変なものが見えるよ」
「何?変なもの?」
再度、父と見たがそれはすでにいなくなっていた。
僕は何かの見間違いかな?とも思ったが、どうにも釈然としなかった。
ほどなくして食堂に行くと、すでに朝食はテーブルに出されていた。
他に客の姿は無く、厨房ではカチャカチャと食器を洗う音が聞こえてくる。
食事は山菜が豊富に調理されとても美味だった。
ペロリと平らげた僕はお茶を飲みながらボーッとしていたが、とある事に気がついた。
「あれ?... 写真が減ってる...」
昨夜、壁に貼られていたたくさんの写真が半分程に減っているのだ。
その事を父に言うと、父は無言で壁を見つめるだけだった。
先日のグループ客はもう帰ったのだろうか。
食堂には僕ら親子だけだった。
「... さて、そろそろ行くか」
「ごちそうさまでした」
僕らは部屋に戻りリュックを背負って外に出た。
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